トントンとピコと不思議なタマゴ
ある日の朝。
トントンとピコは、森のはずれの丘をおさんぽしていました。
露をふくんだ草が足の裏に冷たくて、
トントンは「くすぐったいなぁ」と笑いました。
ピコはそのあとを、ちょん、ちょん、と歩きます。
「ねぇピコ、今日はどこまで行こうか?」
「風の匂いがあまい方へ行こうよ」
風はお花畑を通りぬけ、ふたりの鼻をくすぐりました。
ミントと、太陽のにおい。
そのとき――
木の根っこのあいだから、金色のかたまりがちらりと光りました。
「……なにあれ?」
トントンがのぞきこむと、
土の中に半分うまった “タマゴ” がありました。
「オイラのタマゴじゃないよ」
ピコが首をかしげます。
「ピコ男の子でしょ。だれかの落とし物かもしれないね」
トントンは両手でそっと抱きあげました。
ほんのりあたたかくて、でもどこか寂しい感じ。
「きっと、空の上から落ちてきたんだ」
トントンの言葉に、ピコが目を丸くしました。
「空のタマゴ? そんなのあるの?」
「うん。もしかしたら、おひさまの子どもかも」
ふたりは丘のてっぺんに小さな巣をつくることにしました。
ふかふかの草を集めて、トントンが木の枝で囲いをつくり、
ピコがそのまんなかにタマゴを置きました。
夜になっても、ふたりは眠らずに見守りました。
月明かりの中で、タマゴは静かに光っています。
「ほら、やっぱりおひさまの子どもだよ」
トントンの目も、やさしく光っていました。
ピコはあくびをひとつして、羽でタマゴを包みました。
「じゃあ、オイラがお母さん役ね」
そして朝。
東の空がオレンジ色に染まり、
草の露がキラキラと光りはじめたころ――
ぽこん。
タマゴが小さく鳴りました。
殻のすきまから光がもれて、
ひとつ、またひとつとヒビが広がっていきます。
ピコが息をのんで見守るなか、
ひかりの羽をもつ小さなヒヨコが顔を出しました。
「わぁ……」
トントンとピコの声がそろいました。
ヒヨコはまぶしそうに目を細め、
にっこり笑うと、空を見上げて「ピッ」と鳴きました。
その瞬間、
朝の空のすみに、光る羽がふわりと舞い上がりました。
まるで “帰り道” を思い出したかのように、
ヒヨコは風にのってのぼっていきます。
トントンが手を伸ばしましたが、もう届きません。
ヒヨコはやさしい鳴き声をあげながら、雲の向こうへと消えていきました。
あとに残ったのは、
あたたかい光のしずくがひとつ。
ピコがそれをくちばしでつつくと、
それは小さな金の羽になっていました。
「また、いつか会えるかな」
ピコがぽつりとつぶやきます。
トントンは笑って答えました。
「うん。朝がくるたびに、あの子の光が空を染めるよ」
ふたりが見上げた空は、
金色にきらめく雲でいっぱいでした。
――それはまるで、
“おひさまのタマゴ” が、もう一度生まれたみたいでした。




