欺瞞
9割9分嘘つきだ。厳密に言えば嘘をついていることにすら気づいていないのだから嘘つきだとは言えないのかもしれない。私ですらも。そのことに自覚的であれ? それが出来るのならばもう少しまともな道筋を辿ったに違いない。
そんな始末だから、結局嘘つきなんてどこにもいなかったのだ。めでたしめでたし。
自分はこの世界の主人公ではない。どこにでもいる、取るに足らないmobなんだと思い知らされる機会が多々あるだろう。いや、高級なmobですらない。ただの凡庸な背景なのだ。
この物語の主人公は彼ら彼女らで、自分はそこで語られることすらない。誰にも語られることなく淡々と忘れ去られるのだ。語られなかったことは無かったこと。記されなかったことはありえなかったこと。そうだろう。何万年も前から。
だからそれを拭い去るために物語の主人公のように振る舞えだとか、mobなら mobのように生きろだとかそんな退屈なことを言いたい訳じゃない。かといって何か特別な事が言えるはずもない。
「ただ……」
「ただ何? 何が言いたいのさ? 」
「……何が引っかかっていることを示したいだけだ。喉に刺さった魚の小骨のように」
物語に記述されることを志向するなら、どんな結末であろうと口を挟んではならない。例えそこに何も書かれていなかったとしても。ただ残念なことに、あるいは幸運なことに、我々は外部からその内容を確認する術を一切持ち得ない。基本的には本人ですら。何故ならその書物は閉じているのだから。
その物語が棄却されることを渇望するならば、全ての物語の欺瞞を甘んじて受け入れるより他にない。欺瞞? 誰に対しての? 何に対しての? 存在不可能な事象に関するテーゼ。ありとあらゆる閉ざされた書物を強引にこじ開け、それらを跡形もなく燃やすこと。
開かれた物語。細かな本の切れ端が火の粉と共にひらひらと宙を舞っている。
語り継がれる事が主人公の、忘れ去られる事がmobの本分なら、サドの墓に書かれた希望はもはや無に帰すだろう。
しかし……本当にただ純粋な疑問なのだが、生に物語性を付与することで、時間に進むべき方向を与えることで、何か良いことがあっただろうか?




