腐った罰
•カスミ:女。冷ややかな微笑を浮かべる花嫁。愛を「罰」と呼び、相手を試し続ける。
•ジュン:男。一途すぎる花婿。カスミの狂気も呪いもすべて受け入れようとする。
•影の証人:姿なき存在。ふたりの契りを「祝福」ではなく「呪い」として刻む。
ジュンは、誰よりも強く、誰よりも純粋にカスミを愛していた。
しかしカスミの愛は、決してまっすぐなものではなかった。
彼女は自らの心を「罰」と呼び、愛情を与える代わりに、相手を試し、傷つけ、縛りつける。
「君は……ずるい人だ」
そう告げながらも、ジュンは逃げられなかった。
彼女の狂気と、歪んだ優しさに囚われてしまったのだ。
ある夜、ふたりは人知れぬ祭壇に辿り着く。
そこで現れたのは、影の証人――人ならざる存在。
証人は告げる。
「汝らは互いを選び、愛を呪いに変え、死よりもなお深い闇に沈むことを望むか」
ジュンはためらわずに頷き、カスミもまた微笑んで誓った。
二人の手首には黒い鎖が絡みつき、影が契約を刻む。
それは祝福ではなく、決して解けぬ呪い。
「……これで、私たちはひとつ。逃げ場など、もうない。」
「望むところだ。地獄の果てまで、君と共に。」
鐘が鳴り響く。
ふたりは口づけを交わし、祝福ではなく呪いとして――永遠に結ばれた。
ジュン「君は……ずるい、ずるい、ずるい、ずるい人だ、もう。」
(かすれた声で、震える拳を握りしめながら)
カスミ(小さく笑みを浮かべ)
「ふふ……そうね。ワガママで、意地悪で……でも、だからこそあなたは私を見てる。」
ジュン「君のなかで、綺麗に腐った――これは罰だ。逃げられない。」
カスミ(伏し目がちに)
「……愛情は、醜く育ったな。」
ジュン「醜くてもいい。腐っていても、君のものなら。」
カスミ「どうして……そんなふうに言えるの?」
ジュン「君がずるいからだよ。
罰だとわかっていても……僕はそれを望んでしまう。」
カスミ「……狂ってる。」
ジュン(一歩踏み出し、彼女の手を強く握る)
「狂ってるのは、君を愛した僕の心だ。」
「だから――君の罰を、一生背負わせてくれ。」
カスミ(涙を浮かべて笑いながら)
「……そんなの、プロポーズじゃない。ただの懺悔よ。」
ジュン「懺悔でもいい。
愛してる……君と、地獄まで。」
(重く鈍い鐘の音が響く。祝福ではなく呪いのように――
二人の誓いは、闇の中に刻まれていった。)
(鐘の音が消え、沈黙が広がる)
カスミ「……なら、式を挙げましょう。祝福なんていらない。
ここで、ふたりだけの契約を。」
ジュン「……式?」
カスミ(冷たい微笑)
「誓いの言葉を交わすの。永遠に縛る、呪いの契約として。」
(彼女が胸元から黒いリボンを取り出し、彼の手首に巻きつける)
カスミ「この手を、決して離さないと誓える?」
ジュン「離さない。たとえ血が滲んでも、骨が砕けても。」
カスミ(その言葉を受けて、自分の手首にもリボンを結ぶ)
「……では、私も誓うわ。あなたの罰を、最後まで共に背負う。」
ジュン(震える声で)
「……それが……僕たちの結婚……?」
カスミ「ええ。聖なる誓いじゃない。
穢れた契り。けれど……私たちだけの真実よ。」
ジュン「なら、君に口づけを――」
(ふたりの唇が重なる。闇の中で鐘が再び鳴り響く。
祝福の音ではなく、忌まわしい運命の鐘のように。)
カスミ(唇を離し、囁く)
「……これで、もう戻れないわ。」
ジュン「望むところだ。地獄さえ、君となら。」
(闇が彼らを包み込み、ふたりの影はゆっくりと一つに溶けていった――)
(暗闇の中、鐘の余韻が消えると同時に、低く囁く声が響く)
影の証人「――誓いを立てるのか。人ならざる契約を。」
(姿は見えない。ただ、黒い影が祭壇のように二人を囲む)
ジュン「……誰だ?」
カスミ(静かに微笑む)
「恐れることはないわ。この影が、私たちの証人よ。」
影の証人「問おう。汝らは互いを選び、愛を呪いに変え、死よりもなお深い闇に沈むことを望むか。」
ジュン「望む。たとえ正気を失おうとも。」
カスミ「私も望むわ。永遠に背負い、永遠に腐りゆく愛を。」
(影が揺れ、黒い鎖のようなものが二人の手首に絡みつく)
影の証人「ならば――ここに契約を刻もう。
汝らの愛は光に祝福されず。
汝らの誓いは神に届かず。
ただ闇のみが、その絆を証する。」
(彼女がそっと彼の頬に触れる)
カスミ「……口づけを。これが最後の自由よ。」
ジュン「望むところだ。」
(ふたりの唇が重なる。鎖が赤黒く輝き、影の証人の声が低く響く)
影の証人「契約は成った。汝らはもう二度と離れられぬ。」
(鐘の音が狂おしく鳴り響き、闇が祭壇を飲み込んでいく)
カスミ(唇を離し、涙を滲ませ)
「……これで、私たちはひとつ。逃げ場など、もうない。」
ジュン「ああ。地獄の果てまで、君と共に。」
(闇の中、二人の影が溶け合い――祝福ではなく呪いとして永遠に刻まれた。)