第二話【限られたもの】
とある休日だった。朝からうるさいなぁと思い、耳を澄ますと、めずらしく両親が言い合いをしていた。きっとどうでも良いことで喧嘩したんだろうと耳を傾けると
「じゃあ俺の顔はもうどうでもいいのかよ!」
「誰もそんなこと言ってない!じゃあ子供達に無理させても良いのっていうことなのよ!」
「どっちも同じだろう!どちらかをとるとき、俺は捨てられる側なのかよ!」
うわぁ、きっと、とてもめんどくさくて、終わりのないことで言い合ってる。でも、よく聞いてみると、『薬』とか『通院費』、結構重たい会話が途切れ途切れで聞こえるのは気のせいだろうか。実は俺の父親は顔の帯状疱疹という、顔の半分が動かない病気なのだ。つい先日大きな手術をしたばっかで、今も週に一回病院に通っている。
わかっていたことだ。『末期』だなんて。俺はもう割り切っていた。顔が動かなくても、父は父だと。ただ、母はそうもいかない。治ることがないとわかっていても、払わなければいけない薬代と通院費。それで家計の2割、3割は削られているらしい。通院費といってもそれだけではない。交通費や諸々、どんどん加算されていく。それによって家計は大分ピンチらしい。母のいうことはわかる。俺たち子供のことを思っての決死の言葉だっただろう。父の言い分もわかる。顔が動かないなんて自分で想像もつかない。いろんな思いが混じり合って、今日、ぶつかってしまったのだろう。弟は、寂しそうな目で俺を見てきた。まだ小さいんだ、弟は。そっと頭を撫でて、2人で俺の部屋にいって、静かにゲームをして、その日は過ごした。