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7.

 翌朝、町を出発した。

 兄が帰ってこないと少し心配し始めた女性を見て、コトフにスナイパーのことをきかれたが、殺し屋はあのスナイパーは女だったと嘘をついた。

 シムツは疑っていたが、コトフの表情は明るくなった。信じたようだった。

 昼頃になって、蹄鉄がバチバチと火花のような音を立て始めた。

 道に石が敷かれていた。

「巡礼の道じゃねえかな」

「周囲に寺は見えないけどね」

「こんな場所に道をつくるためにどれだけの農民が死んでいったか考えてみてくれ」

「まあ、そりゃあ間違いない。道が相当古いから農民たちがバタバタくたばったのは何百年も前のことだろうよ。そんときゃ、このへんももっと人が住んでたのかもしれねえ」

「なぜ、人はこの地を見捨てたんだろう?」

「知らんよ、そんなことは。飢饉が三年に一度やってきたとか、あとは戦争かな」

 道の左手、北側に谷の出口のようなものが見えた。そのあたりで砂ぼこりが立っていて、金具のきらめきが細かく目を射てきた。

 それは騎兵部隊だった。カービン銃を背負い、人間に噛みつき踏み殺すよう調教された馬にまたがったサーベルの使い手たち四十余りが白い旗を中心に横隊を組んでいた。

「今度は蜃気楼じゃないね」殺し屋は機関銃のレバーを引いて、初弾を薬室に送り込んだ。

 シムツは分かったもので、葦毛に軽く手綱をくれて、ちっち、と舌を鳴らした。馬車は右へ曲がり、車輪が石の道を外れるころには機関銃が騎兵部隊に向いて止まっていた。

 騎兵部隊は蹴立てた褐色の砂ぼこりの壁を従えていた。騎兵たちはみな白い上着と軍帽をかぶっていたから、その姿がよく目立った。

「いつ撃つんだい?」

 コトフは声をひそめたが、どうも殺し屋の集中を乱さないようにしているらしかった。

「別に普通に話しかけてもらっても大丈夫だよ。慣れてる。それと、撃つのは五十メートルの距離。いまは三百メートルに少し足りないくらい」

 殺し屋は照準を三十メートルにしていた。というのも、馬にまたがったまま、銃を撃つ連中がいなかったからだ。みなサーベルを抜いていて、宙でふりまわしていた。

 煙草を取り出して、マッチをすった。

 旗手の隣に指揮官らしい大男がいた。赤ら顔の黒い髭、髪はうねっていて、帽子を斜めに押し上げて、はみ出していた。馬もサーベルも兵たちよりもひと回り大きく、きっと部隊で畏怖された存在に違いなかった。腰には保存食だろうか、干したオレンジみたいなものを三つほど紐で吊るしていた。

「まだ撃たないの?」

「うん」

 距離は八十メートル。殺し屋は右の端にいる騎兵に狙いをつけ、立てた照準器で追い続けた。

 興奮して口髭を噛んだ兵士たちの顔が見え、馬たちが首にふくらませた血管が見え、白い旗に薄く刺繍された天使の姿が見えた。

「まだ?」

「まだ」

 距離は五十メートル。

「まだ!?」

 指揮官の腰にあるオレンジが人間の干し首だと分かったところで、殺し屋の両手の親指が発射ボタンを押し込んだ。

 最右翼の騎兵が弾の嵐を浴び、血と肉を飛ばしながら馬と一緒に横倒しになった。

 ダダダダダダダ! 右から左へ薙ぎ倒す。

 前へ飛んだ騎兵が自分の馬に踏みつぶされた。サーベルを持った手がちぎれ、折れた骨に青い血管がまとわりついているのが鮮明に見えた。馬の顔の真ん中に弾が当たって、左右の目が別々の方向に飛んだ。あぶみに当たって跳ね返った弾が騎兵の背骨を縦に貫き、芯を失った人間がキャラメルのようにぐにゃぐにゃになって鞍から垂れ下がった。

 左の端まで撃ち込んだとき、立っていられた馬は一頭もおらず、死ななかった馬は砂ぼこりのなかで自分のはらわたに脚を絡ませて悲痛な声を上げていた。

「やってやれよ」シムツが陰鬱な声で言った。

 発射ボタンを押し込み、機関銃が馬たちにトドメを差した。

 そのとき、指揮官が血まみれの白旗を手に立ち上がった。骨が左肩から飛び出していた。殺し屋は照準の向こうに指揮官を捉えて、つぶやいた。

「今からでも間に合うから、全てに優しくなろう」

 ダダダダダダダ! 指揮官の体は縦に裂けた。

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