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真赭②―亡くした大事なひと―

 蒼の右手は、真赭の両手をしっかりと握る。真赭の華奢な手の震え続けている。

 蒼は、これほどまでに追い詰められた真赭を、見たことがない。何も言えずにいると、再び真赭の唇が、


「ごめんなさい。蒼、本当にごめんなさい」


と小さく動いた。

 蒼はあいている方の手を、そっと添えた。


「真赭、どうして、そんなに何度も謝るの?」


 蒼の問いかけにも、真赭は項垂れるだけ。


「あっ、もちろん。真赭が私を心配するより先にがっかりしたってことを謝ってるのは、ちゃんとわかってるよ?」


 真赭はさらに額を床に近づけた。申し訳なさというより、穴に埋まるか、消えてしまいたいという心情が手に取るように伝わってくる。

 だから、蒼はあえて明るい声で「それに」と続ける。


「自分が体験したうえで、私の共鳴力というかアゥマ使いとしての力量を信じてくれていたから、意識が戻るって確信があったんでしょ?」

「違うの!」


 真赭の顔が勢いよく上がる。その顔が蒼も浅葱も見たことがない様子で歪んでいるものだから。二人は呆気に取られてしまった。


「私はただずるい人間なの! だいじな親友にひどいことしたっ! なのに、蒼なら受け止めてくれるって、甘えているの! 本当にごめんなさい!」


 蒼は困ってしまう。確かに先に話して貰えていたら、もう少し注意深く幻影を観察できていただろう。けれど、真赭のことだ。そうしなかったのに意図があったなど容易に想像ができる。


「だって、私は!」


 滅多なことでは染まらない真赭の首が真っ赤になった。


「鍵を使えば、恐怖の空気に満ちた(・・・・・・・・・)映像に遭遇する可能性が高いのを知ってた! なのに、おばぁ様の死因の糸口がどんなものかわからないのに、それを蒼に見て欲しくて、鍵を使わせた! 突然の解除だったとは言え、何も伝えてなかった! 結果、蒼と浅葱をあんな危ない目に合わせた!」


 ほら、やっぱり。蒼も浅葱も納得した。それでも、真赭は叫び続ける。


「自分のおばぁ様のことしか考えていなかったのよ⁉ あげく、蒼が抱えていた不安にも触れないで、古書を読まなければとばっかり考えて! 自分勝手だわ。だから、蒼に嫌われたかもって! 浅葱も、呆れたでしょ⁉ いつも偉そうに言ってる私がこんな子どもっぽくって!」


 真赭自身、初めて出すように声を荒らげた。


「あっあぁ。はぁ」


 真赭は全て吐き出したかと思うと、喉を詰まらせた。頬を大粒の涙が転がっていく。肩を小さくして、嗚咽を堪えている姿は痛々しい。

 ぎょっとしたのは浅葱だ。おろおろと不可思議に左右に動き出す。


「真赭、泣かないでよぉー。こんな一瞬のことで、ボクが呆れるわけあるかよー。ボク歴を考えたら、こんなの屁でもないよぅ」


 浅葱の掌が、せわしなく真赭の背中を撫で続ける。しかし、浅葱の手が滑るたび、真赭の体は強ばっていった。


(真赭は、こんなにも追い詰められてたんだ。一人で。私のこと慰めたり、励ましてくれていた一方で、一人で抱え込んでいたんだ)


 真赭が蒼の前で泣きじゃくるのは、蒼が川に落ちて以来だ。修行に出る前の別れの時、寂しさで三人抱きしめ合って涙を流したが、取り乱したわけではない。


「ねぇ、真赭」


 蒼の額が、真赭に触れる。


「おばあさんはさ、真赭をだれよりも理解してくれていたもんね」


 出た声は、予想以上に穏やかだった。真赭に伝わるように、思い至らなかった自分に言い聞かせるように。蒼はゆっくりと真赭の身体に掌を馴染ませる。



 古書堂の人間は幼い頃から年長者と共に、または自ら冒険者として世界に出る。古書を探してまわり経験を積むために。

 けれど、生まれつき体が弱い真赭は、この都会で暮らすのもやっとだ。

 おまけに体力がついてこず、アゥマの消費を控える必要がある。つまりは、古書堂にいながらでも多くの古書を解読することすらままならないのだ。

 それについて、蛍雪堂の一族はだれ一人として責めはしなかった。跡取り娘に対する敬意からではない。


 彼らは人に興味が薄いからだ。

 

 蛍雪堂一族の大変の人間にとっては古書や書物以外は興味の対象外だ。まれに強い解読術を扱うものは注目の的となったが、逆の人間は認知すらされない。

 だから、直系の真赭自身はずっと思い悩んできた。自分が一族の離散を招く存在になるのではと。真赭の父は古書マニアだが、アゥマ使いではない。母はアゥマ使いだが実母(真赭の祖母)に反発して、古書以外の書籍に興味を持っていたため絶賛古書の勉強中だ。



「私も浅葱も、お店を継ぐ立場だもん。わかるよ。でも、真赭の痛みは、たぶん全部共感で返せないよね。私には同じくらいお茶好きでアゥマ使いのおじいや紅がいて、浅葱もたぶん同じ」

「真赭にとって、おばあちゃんは支えだったもんね。同じ立場にはなれなくっても、ボクも蒼も真赭の気持ちはわかるよぉ!」

「そうだよ。共感とは違っても、わかるし、わかりたいよ!」


 蒼と真赭が詰め寄ると、真赭はわんわんと駄々をこねるよう幼子さながらに泣き出した。

 三人して抱き合って、もらい泣きをして、また泣いて目を腫らした。


✿✿✿


「おばあさまは、私を誉めて、怒ってもくれたの。『健康な他人を羨む時間があったら、好きな本を読んで、好きな人のことを考えな。その方が何万倍もかっこいいだろ』って」


 しばらく抱き合って泣いて、ぽつりと真赭が零した。真赭の肩にかけていた蒼の帯は、すっかり涙やら鼻水を吸う役割になっていた。


「すっごい男前だったよね。おじいとの会話がすっごくテンポ良くって、良く一緒に聞いていたよね。膝を抱えて。浅葱が加わってからは、浅葱はいちいち口を挟んでさ」


 蒼が破顔する。

 言葉遊びが面白いと教えて貰ったのは彼らの会話。(あに)の胃を痛める反応も、思い出せば白龍と真赭祖母のやり取りが発端だったと蒼は思った。


「わかる! ボクも芒おばあさまが大好きだったもん。札効果の実験をやり過ぎて親父に怒られてへこんでる時に『やりたいことやったもん勝ちさ! ただし、行動の責任だけはもつように』って教えてくれたなぁ。それ以来、自分で賠償できるか怪しい範囲の実験はやめたっけ」


 蒼と浅葱にとっても、真赭の祖母は偉大な存在だった。だからこそ、いまの真赭の想いも理解できるのだ。


「――っ。私、わたし」


 真赭の祖母は、真赭の辛い思いも経験を補うための努力も一番理解していた。真赭の古書の知識は並大抵のものではない。知識量も範囲も、国お抱えの研究者でも及ぶかどうか。

 強く閉じられた真赭の瞼から、大粒の雫がこぼれ落ちていく。水晶の床で静かに弾けた涙が、アゥマの光を受けて淡く煌めいた。


「真赭さ、おじさんたちが一度整理したおばあさんの遺品を元に戻してさ、今でも生きてた時と同じようにしてるんだってね」

「毎日芒おばあさんの部屋に入り浸ってたから、亡くなる直前に何がどこにあったかも、全部覚えてたんだよねぇ」」


 蒼はひどく悔やんだ。あの時、大切な人を失った人は多くいた。それなのに、死に目に――葬儀にすら間に合わなかった自分だけが不幸だったように泣き伏せた。


(そんなはず、なかった。葬儀で見送ったとしても、同じだったはず。大切な人たちの死を受け入れがたいなんて)


 大好きな人との突然の別れなんて、真赭も同じだった。なのに、真赭がここまで追い詰められているのに、蒼は気が付かなかった。考えも及ばなかった。そんな自分の横っ面を殴りたくなった。


「ボク、おじさんとおばさんに聞いてたよ。でもね、ごめんよ。なんて声をかけて良いのか」


 動きを止めた浅葱を見る。浅葱は優しく微笑んでいた。メガネが曇っている。


「掃除もして、布団も干してるんだってねぇ。おばあさまの部屋。ほんとはさ、ボクも手伝いたかったんだよぅ。なのに、いつもみたいに気軽に『水臭い』って言えなかったんだ。あの件で、踏み入っちゃ悪い気がして」


 浅葱が真赭を腕に抱いた。浅葱がしゃくりあげるのに合わせて、真赭の身体も跳ねる。


「そんなはずなかったのに。大好きな真赭が悲しんでるんだから、とことん一緒に悲しめば良かったんだねぇ」


 浅葱の言葉に押され、真赭から再び嗚咽が飛び出てきた。細い足が激しく揺れている。


「真赭、手を離せる?」


 蒼は、柔らかく掌を弾ませた。骨ばった背中がひどく強張った。

 蒼と真赭が触れ合っている全ての肌から、緊張が伝わってくる。恐る恐る上げられた真赭の顔は、真っ青だった。目元と鼻だけが、紅を塗りたくったように赤く腫れている。

 蒼はゆるりと額を離し、


「大丈夫だから」


と微笑みかけた。真赭はしばらく口を結んでいたが、だらんと力なく腕を下ろした。

 蒼と浅葱は顔を見合わせ……そして、がばりと音を立てて真赭に抱き着く。三人は勢いよく床に倒れ込んでしまった。


「ちょっ! 蒼も浅葱も――」


 軽口を叩き合う幼馴染ではあるが、蒼と浅葱が真赭に物理的な負担をかけるのは滅多なことだ。抗議というよりは困惑の声があがった。


「真赭。私さ、お父さんとお母さんと、最期にお別れの言葉も交わせなくてさ。国葬にすら間に合わなかった。修行に出て里帰りしたのも、数か月前だった」


 蒼がぽつりと零した。潤みきった声色に、真赭は息を呑んだ。


「すっごくすっごく落ち込んでて、それはもう、何もかもぐちゃぐちゃだった。当たり前に、『ただいま』には『おかえり』って笑顔が返ってくると思い込んでいたから」


 ずっと続くと思っていたやり取り。自宅の門扉よりも店の入り口が玄関だった。涼し気な鈴を鳴らせば、当たり前にかけられると思っていた言葉。

 青天の霹靂、なんて綺麗な言葉では言い表せないほど世界が変わった。


「でも、真赭も浅葱も、ずっと傍にいてくれた」

「そうだったねぇ。蒼の部屋で一緒に泣いたり、思い出話もしたりしたよねぇ。お菓子を爆食して紅に怒られなかったのは後にも先にも、あの時だけだ」


 浅葱の手が、蒼と真赭の頭に添えられた。冷えた空気を跳ね除けるように、軽く弾む手。背伸びまではいかないが、浅葱の肘が不格好に上がっている。

 ふっと、蒼の頬が緩んだ。


「嬉しかった。私、本当に嬉しかったの。そんな言葉じゃ足りないくらい」


 蒼は己の語彙力不足を悔やむ。お茶以外の分野にも興味を持って吸収しようと決意したほど。


「泣いてばっかりで、口にする言葉もめちゃくちゃで。それでも、二人は一緒に居てくれた」

「あたりまえよ、大好きな両親が亡くなったのだものっ」


 しゃくりあげながら、声を絞り出す真赭。ぐっと、真赭に回している蒼の腕に力がこもった。


「そうなんだよ。真赭も、おばあさん大好きだったもんね。私が知らない間に、きっと、いっぱい、それこそ、誰にも見せずにいっぱい泣いたんだよね」


 浅葱が蒼の頬を引っ張った。そんな浅葱に苦笑をかえす。『自虐じゃないから』と。意図が伝わったのか、浅葱の指は離れた。


「それなのに、私は自分のことばっかりで、真赭がどういう気持ちでいるのか、苦しんでいるのか、全然考えがいたらなかった」


 蒼は少し体を離し、真赭の顔を覗き込んだ。真赭は風を切って顔を上げる。涙で崩れた顔を、涙が飛び散るほど激しく振った。

 真赭の顔を見れば、今、どんな考えでいるのかが手に取るようにわかる。自分をあんなに責めておきながら、蒼の謝罪は考えもしなかったのだろう。


「ごめんね。私、ずっと真赭の『悲しい』をおいてけぼりにしてた」


 黒い陰はさておき、ずっと鍵を所持していた真赭も何かしら見た可能性はあったはずだ。


(私がたった一言でも声をかければ良かった)


 今になって蒼は気がついた。

 古書についてだって同じだ。


(真赭が焦って読みたがっていたとは言っても、少しでも話を聞き出せていれば、こんなにも罪悪感を抱かせるまで追い詰めなかった)


 蒼はそっと真赭の頬を包んだ。手の冷えが嘘のように、熱くなっていた。


「だから、頼ってくれて嬉しいの。危ない目にだって、いくらでも立ち向かえるよ」


 真赭の涙が切れ長の目尻から零れた。


「自分が大好きな人の死について、何かわかるとしたら、私だって目の前の可能性に必死になるよ」


 慰めでもなんでもない。蒼の心からの言葉だ。

 実際、蒼は両親がいたあの場に戻りたいと、心から望んだ。


「それに、真赭が古書に集中できたのも、厳重に守ってた古書を一緒に読もうと思ったのも、私たちを信頼してくれてたからでしょ? 真赭がおばあさんを大好きだったのも、真赭がちゃんと色々考えて気にしちゃうのも、わかってるつもりだよ?」

「そうそう! 何年幼馴染で、どんだけ一緒にやってきたと思うのさぁ! のけ者みたいでちょっと悔しいけど、蒼と真赭なんて、赤ん坊の頃からの付き合いだろー?」


 頭を撫でていた浅葱の手が、頭頂部をゆるく締め付けてくる。

 蒼は、奥歯を噛み締めて笑いを堪える。ちらりと視線だけを動かすと、浅葱の口がタコのようになっていた。


「やだ、浅葱。なに、その顔」

「えぇー。ボクの表情が豊かなのは、今に始まったことじゃないだろぅー?」


 ぷっと、空気の漏れる音が鳴った。音源を探すと、真赭が口を押さえていた。真赭の様子に、胸のつかえが下りた。

 蒼は、上げた顔を封印台に戻されている古書へと向けた。


「結局、知りたい真実には辿りつけなかったかもだけど。可能性は試せたわけだし、良かったと思う」


 にしっと蒼が笑うと、浅葱は同じく「だねっ!」と手を叩いた。

 

「私も紺君の件で落ち込んでた時さ、一人で抱え込んで暴走して、あげく。いつもと違う茶葉だって言われて、さらに落ち込んでた。悪循環だった。でもね、失敗だったとはいえ良い経験になったと思ってるし、周りの人にはもうちょっと相談はすれば良かったかなって」

「あっ、紺兄が原因だって認めたねぇ」

「あっ! 違う! 茶葉、丹茶、お茶について!」


 蒼の体が大きく跳ねた。慌てて両手を振るが、浅葱の顔に意地悪な笑みが広がっていく。

 外の書庫で話が出た際も、特に紺樹が原因なのを否定した覚えもない。けれど、浅葱の言いように、思わず首を横に振ってしまう。

 蒼の焦った様子を見て満足したのか。浅葱は、思い切り背伸びをした。


「だねぇー。あっ、真赭も蒼も、次からは事前に、ボクにもわかるよう色々説明するように!」


 悪戯な笑顔はそのままに。浅葱が胸を張った。

 蒼は素直に返事をするが、真赭の眉間には皺が寄っていった。


「あら、私は古書について、教えてあげたでしょ? あれで、時間がかかったのよ」


 目元を拭いながら、いつもの口調で反論した真赭。浅葱にはちょっと厳しい彼女だ。

 蒼は真赭に回していた腕を解く。体を離す際、服の右腿辺りの違和感に、手絹の存在を思い出す。うっすらと桃の香りが付いた手絹を、真赭に差し出した。今更という頃合いだが、真赭は静かに手を触れた。


「取り乱して、ごめんなさい」

「まぁ、珍しいものを見たってことでさぁ、良しとしようよ。ボクらの友情愛情も確認できたし! 表に戻って水分補給すれば、号泣した分も戻ってくるよー」


 浅葱があっけらかんと歯を見せた。次の瞬間、真赭の拳が小気味よい音を鳴らした。


「いってぇー!!」


 浅葱からは、悲痛な声が飛び出た。真赭は、ぶすりとして、封印台の方へ戻っていく。


「一言どころか、フタコトミコト、多いのよ」


 乱暴に目元を擦った真赭と、床にへたりこんで頭を抑えている浅葱。蒼の笑い声が、静かな空気を振動させた。

 蒼は腹を抑えながら、浅葱に大丈夫かと声を掛ける。


「そんな目で見られても困るよ。浅葱が叩かれたのは、私のせいじゃないし」


 浅葱が恨めしそうな目で見上げてきた。団子に纏めている髪が、少し崩れている。


「真赭、爆笑してる蒼は良いのかい⁈」

「蒼は、浅葱を笑っているのだから、私は気にならないわ」


 真赭は背中を向けたまま、二人を手招きした。真赭のすぐ傍にある封印台だ。そこに供えられた古書は、淡く光っている。古書へ掛けられた封印が戻り始めたのだろう。


 蒼と浅葱は、封印台へ上がる。再び緊張感が全身に駆け巡っていく。


 真赭が懐中時計を翳すと、封印を解除した時と同じように、魔道陣が現れた。四方の水晶に色が反射して、美しい。振り返った真赭にも光色が映っている。


「台座の封印を施すわ。要領は解除した際と変わらないけれど、消費するアゥマは多いから、手伝って欲しいの」


 施されていた封印を解除するより、封印の術を掛ける方が困難だ。しかも、鍵がなければ解けないとはいえ、気の抜いた術を使うわけにはいかない。ぐっと奥歯を噛み締め、三人は、今度は真赭が最後になるように掌を重ねていく。上から蒼、浅葱、そして真赭の順だ。

 魔道が起こす風音が、徐々に増していく。蒼は大きく口を開ける。


「今回読めなかった部分は、また挑戦しよう! 魔道具や時期を調整したら、解除で出来るかもしれないし!」

「そうだねぇ。お腹もすいたし、上に行ったらお茶でもしながら計画立てようかねぇー」


 ちょうど良い間合いで、浅葱の腹が鳴った。風が吹き荒れる中でも、はっきりと聞こえる音量だった。呆れかけた蒼と真赭の腹も、それに続く。

 三人は顔を見合わせて、弾けたように笑った。


「蒼に浅葱。ありがとう」


 光が溢れ準備が整うと、真赭が小さく呟いた。蒼は微笑みを向ける。そして、すぐに凛と表情を引き締め、浅葱の手をきつく握った。

 

 魔道の光が見せたのか、古書からにじみ出たのか。アゥマの欠片に混じって、黒い陰が自分を見下ろし嘲り笑っている、気がした。



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