泣言
目が覚めてしまった。
起きる瞬間とはいつもそうだ。
気づいたら目が覚めている。
気づいたら自分がいる。
そして思う、目が覚めてしまったのだと。
できることなら、覚めたくなかった。
ベッドから身を起こす。
どれくらい時間が経っただろう。
時計を見る。午後の三時。
相変わらず何もする気にはなれない。
行動を起こせない。
ただ耳障りの良い音楽だけを聴いている。
そうして時が過ぎていく。
時だけが過ぎてしまった。
歳だけを重ねてしまった。
私は結局何も変わっていない。変われていない。
あの時も同じだった。
やる気が尽きて、何もできなくて。
動画を垂れ流して時間を貪る。
そうしていつか娯楽にも飽きて。
本当に何もできなくなった。
同じだ。
ただ私は、歳を重ねてしまったから。
もう母さんは起こしに来ない。
ペットの犬は撫でられない。
いってきます、を言う相手はいない。
私は大学生になった。
そこそこ有名な大学に通わせてもらっているが、ここもまた私立。
親も祖父母も、私に多額の投資をした。
私の将来に期待して。
口癖のように言われる。
「せっかく遠いところまで行かせてるんだから頑張りなさいよ。」
私にとってその言葉は、呪いそのものだ。
頑張れないのに。
もう頑張る元気も出ないのに。
好きなことでさえ手放してしまう程なのに。
もう戻れない。
私に投じられたお金は戻ってこない。
たとえ親や祖父母が私を諦めてくれたとしても。
いや、もう気づいているのかもしれない。
気づいているけど、諦めたら全て無駄になってしまうから。
きっとそう。
どうしてこんなに中途半端な人間になってしまったのだろう。
最初からとんでもなく頭が悪かったら。
なんにもできない人間だと分かっていたら。
期待されずに済んだのに。
私じゃ無理なんだよ、そう言ったでしょう?
私が目を覚ました代わりに、あの子が眠りについてしまったみたい。
私なんかよりもずっと、あの子が生きてくれた方がいい。
私もそう思っていたのに。
あの子には生きる力があった。
エネルギーに満ち溢れていた。
強い信念があった。
……それで、良かった。
あの子のためにも死ねない。
もっと色んな理由ができてしまったけれど。
私は生きなければならない。
全部私がやらないと生活は回らない。
食事は喉を通らない。無理やり食べると吐き気が襲う。
ほぼ毎日頭痛がする。そんな日は薬を飲んで横になるしかない。
病院に行きたくても行くための体力が無い。
そんな中でも勉強はしなければならない。成績は落とせない。
こんなことは誰にも相談できない。
明るく元気で悩みを知らない能天気な人、のイメージを崩してはいけない。
みんなのために生きなければならない。
母さんや祖父母の期待に応えるために。
余計な手間やお金をかけさせないために。
関わってきた人を心苦しくさせないために。
今眠っているあの子まで巻き込まないようにするために。
私は生きなければならない。
もう無理だよ……。