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第13話 第二都市ベーグルデン

 第二都市ベーグルデンの城門を通過、中へと入る。

 祭りは明後日からだというのにすでに人通りが多いように見える。

 普段の様子はさすがに分からないので、そう思う以上のことは言えないもののこの活気はなかなかすごい。


「紅百合騎士団です。お祭りの審査員をするとかで呼ばれてきました」

「はい、聞いていますよ。ようこそベーグルデンへ」

「門番さんもお疲れ様です」

「「「お疲れ様です」」」


 団員たちは馬から一度降りて整列し高い可愛い声で挨拶をする。

 門番さんに頭を下げるとやはり隊長のエルフさん以下、ヒューマンの部下たちも鼻の下を伸ばしてでれっとしていた。

 男の人たちは私たちの格好をみるとだいたいこうなる。

 最初はすごく恥ずかしかったがもうだいぶこんな態度にも慣れてきた。

 私たちはエッチな格好なのだ。そういうものだと思うしかない。

 胸の形のブレストプレートもミニスカートも。

 こちらが可愛い声なのがいけないのだ。なんだかキャバクラみたいな雰囲気になってしまう。


 そのまま馬を引いて歩いていく。

 馬に乗ったままだとスカートの中が丸見えなので、降りたまま進む。

 王都での移動では乗っていたが、王都民は慣れているからいいんだ。ここでは勝手が違う。


 ベーグルデンは王都と違って海辺からほど近い。

 近くには漁村がいくつもあり海産物の干物の売買が有名だった。


「美味しい魚食べたいよね、クリスちゃん」

「はい。サバにしますか、それともアジにします? カマスとかもありますね」

「どうしよっかなぁ、お魚食べ放題」

「干物なら王都でも食べるでしょう?」

「そうだけど、ほら現地のほうが美味しい気がするじゃない」

「そうですね」


 マナ隊長はといえば今日も食いしん坊だ。

 お上品ではあるけれど食べ物には目がない。

 ストレスの多い王宮生活で唯一楽しめること、それが食べ物だった。

 だから彼女はいろいろな食べ物に興味を示した。

 料理を作る方へは発展しなかったようだけれど、地方の料理などにも関心がある。


 ベーグルデンの通りを歩いていき、表通りの大きなホテルに入った。

 もちろん厩もあるので馬を預ける。

 長旅だったのでお馬さんはしばらくお休みだ。都市内にいるときは徒歩移動となる。


「いひひ高級ホテルだねぇ」

「マナちゃん、またよからぬことを考えているんじゃないですよね」

「いや別に、ひひひ」


 まったく何を考えているのやら。

 とにかく期待を胸に膨らませてホテルへ入る。


 私とマナは同じ部屋だ。

 他の部屋も団員たちで相部屋になっている。

 これは経費削減という意味もあるし、もちろん防犯対策でもある。

 女騎士団は何かと外部からの干渉によるトラブルがつきもので頭痛の種だ。

 なるべく回避できるなら回避するに限る。


「クリスちゃん、お風呂でーす」

「ああ、この部屋にはお風呂が付いているようだ」

「ぐへへ」

「そのおやじみたいな顔して」

「だってクリスちゃんとお風呂なんていつ以来だろう」

「そうですね。数えるほどというか、いつか分からないくらいですね」

「小さいころはよく一緒に入ったのにねぇ」


 庭園で遊んで疲れてひと休みしたあとは我が家のお風呂に一緒に入ったものだ。

 それも小さいとき限りのことで、大きくなって胸も成長しだしてからはしたことがない。

 別に女の子同士でお風呂に入っていけないということはないが、なんとなく避けられてきた。

 世間がなんとなく避けるという雰囲気だったのだから仕方がない。

 私たちも狭いお風呂に二人で入らず順番に入るようになったのだ。


「夕ご飯は寝る前だけど、その前にお風呂にしちゃおう」

「そうですね」


 ということで係員を呼び出してお風呂の番だ。

 お湯を一階から汲んで運んだら大変だろうと思ったのだが、なんとお湯の出る魔道具を使っていた。


「これ便利そうですね」

「はいお客様、お湯の魔道具は高価なのですが毎日のように運ぶ人を考えたら安いものです」

「そうだねぇ。うちの上司ももう少しこういう融通利く人だったらよかったんだけど」

「あはは、それはわたくしどもには分かりかねます」


 メイドさんも困るだろう。

 うちの上司とは誰か分からないだろうが王子様のことだからね。

 大蔵大臣の王子め。お風呂の予算くらいくれてもいいのにダメだとおっしゃる。


「マナちゃーんお湯入ったよ」

「うん」


 窓から外の景色を眺めていたマナに声を掛ける。

 ここは四階だった。

 他の建物はみんな三階建てなので、周りがよく見える。

 屋根ばかりではあるが、その間の道を人々が歩いていく。

 そして目の前には大通りがあるので、そこには馬車なども通過していった。


 人、人々、エルフ、獣人、エルフ、人。

 なぜこの世界では種族が分かれているのだろうか。

 この都市では王都ほどは種族差別はなさそうだ。ばらばらに区画割され別々に住んでいるようにも見えない。

 しかしエルフ、ヒューマン、獣人と階級社会自体はあるのだろう。人々の身なりを観察していると分かってくる。

 エルフは金の刺繍などが入った服を着て、人族はカラフルな色のついた服。そして獣人はほとんどが茶色の服だった。

 獣人も猫耳族、犬耳族、うさぎ耳族などがいて、ひとまとまりになりきれないため一致団結して勝ち上がろうというのは難しいようだった。


「げへへ、服を脱ぎます」

「ああ、お風呂だからですね」

「クリスちゃんの全裸」

「マナだって全裸だろうに」

「そうだよーん。まあ王宮ではメイドさんたちに見られながらお風呂入るから慣れっこなんだけどね」

「そうですね。さすが王宮は違いますね」


 こうして二人で全裸になってお風呂に浸かる。


「きもちぃ」

「ああ、いい湯です」


 マナと二人。ぎりぎりだが湯は温かい。

 すべすべのお肌はとても綺麗だ。まだ誰にも汚されていないマナ姫はエルフィール王国の秘宝とさえ言われている。

 その秘宝級のつるつるお肌が目の前にあった。

 青い澄んだ瞳はお風呂の中で私を見つめている。


「綺麗だよ、マナ」

「クリスちゃんだって綺麗」

「へへっ」

「んんっ」


 お風呂に浸かる。二人っきりだ。メイドさんは席を外している。


「キスしちゃおっか」

「メイドさんが来るかもしれない」

「今なら大丈夫。ほら」

「わかった」


 ちゅ。


 お風呂で全裸になりキスを落とす。

 唇に軽く触れるだけの優しい甘いキス。

 これが二人の決まり。これ以上に今は踏み込んではいけない。

 これは両親たちとの約束でもある。

 みだらなことは決して慎むこと。そう誓約している。


 王都から離れた第二都市ベーグルデンの高級ホテルのスイートルーム。

 そこに設置された他には誰もないお風呂で二人は優しくキスをした。


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