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第12話 遠征任務受領

 甘い甘いふたりだけの休日、秘密の花園はあっという間だった。

 その余韻も感じている余裕もなく、次の仕事が入ってきた。

 そういえば派閥のお茶会もまだやっていない。

 自由になれたと思ったのになかなか思い通りにはことは進まなかった。


「第二都市ベーグルデンのお祭りがある。王国主催のメインステージに出席してきてほしい」

「はいっ」


 王様直々の出動命令だ。

 私たちは国王代理としてメインステージでちょろっと整列して人形になってくるだけでいい、という仕事らしい。

 もちろんマナイス姫殿下がいるので代理としての格は十分ある。

 というか私でもエルフィール三大家のひとつエメラルド公爵家だから品格としては十分だったりする。

 そういう意味では二人も派遣すれば過剰戦力だが、私たちは自分たちの勝手な取り決めで二人でセットということになっている。


「はい父上、行ってきますね」

「行ってまいります、王様」

「おおう、肩肘張らなくていいぞ。どうせ大会の見学と優秀者にメダルの授与をするだけだから」

「でもけっこう距離ありますよね」

「馬で三日間くらいか、余裕をもって早めに行って見学でもしてきてくれ」

「了解です」

「では父上、しばらく留守にします」

「いってらっしゃい」


 とまあこんな感じの出動命令が下りた。

 前回ブラッディベア狩りに出たのは一班だったので今回のお供は二班とした。

 全部隊の派遣依頼は出ていない。


 王都で必要であれば王子様あたりがリーダーになって一班と三班でもって仕事をこなすでしょう。

 残った人たちは他人事なのでまあ大丈夫だ。

 仮のリーダーは一班の班長のアリアがしてくれる手筈になっている。

 過去に名前が出てきた子はご飯担当イスベル、それからメルシーとエルミラかな。

 一班が六人三班で計十八人。十五歳で任命され十八前後で退役になる。

 誰だったか「いのち短し恋せよ乙女」とはよく言ったものだ。

 ほぼ全員が無事に生還して婚約して退団する。

 一応入団は四月で退団は三月にしてもらうことになっているが、たまに駆け落ちしたりすると先に辞める子もいる。


「では二班、出撃! 第二都市ベーグルデン」

「「了解」」


 赤い制服のミニスカートにブレストプレートの女の子が自分たちを含めて八人。

 馬に騎乗して列になってはじめはゆっくり進む。

 私とマナ姫の愛馬はどちらも高価な白馬だった。残りの子は茶色と黒が半々というところだった。

 他の団員に見守られながら出撃していく。今日は非番の子たちも見送りに来てくれている。

 予備の服とか持っていくとかさばって邪魔なのでみんな一張羅だ。

 普通の旅行者や冒険者なら必須のバックパックなどは背負っていない。

 全員マジックバッグ持ちなのだ。これには感謝している。

 ただし退団すると返却義務があり紛失すると賠償がある。

 みんないいところのお嬢様なのでお金には困っていないが、安くはない。

 紅百合騎士団の場合は一応これでも王国の顔なので給料もそこそこ高い。

 青空騎士団の一般騎士に比べたら倍は貰っているらしい。


 ちなみに青空騎士団というのは青い制服で男性中心のメインの王立騎士団だ。

 青空騎士団にも儀礼班があって女の子だけ六人班が二つ、規模は小さいが存在はしている。

 それとは別に女騎士さんも混ざっている。ただし女性の制服はやはりミニスカートだったりする。

 それでも私たちのよりは若干丈が長い。


「見てみて紅百合騎士団だぁ、かっこいい」

「紅百合の出撃か。今度は何をするんだ?」

「いってらっしゃい、頑張ってきてね」


 私たちが並んで進んでいくとエルフ街からは声援が聞こえてくる。

 軋轢(あつれき)のある獣人たちの支持を得られたというのはエルフ街でも評判だった。

 エルフと獣人の対立構造は古代よりずっと続いており頭痛の種のひとつだ。

 私たちはそれを改善する実績を作ったと評価されたのだった。

 なかには獣人なんて放っておくべきだという主張を陰で言っている人もいるが、その人たちも表立っては黙っている。

 なぜなら獣人のほうが人口が三倍以上あって、脅威とみなされているからだ。

 一人当たりの戦闘能力ならエルフのほうが優れているとされるものの、数には負ける。

 正直全面的に敵対した場合はどちらが勝つかは未知数だった。


 人でごった返している商店街も抜けて城門に到着した。

 前もいたエルフの隊長さんが私たちを通してくれる。


「ベーグルデンへ出張だってな、行ってらっしゃい」

「ああ、行ってきます」


 なんだかこう挨拶するのもなんだか変な感じでこそばゆい。


「姫様もご無事で」

「ああ、行ってきますね」


 隣でマナ姫が笑顔で見送りされていた。

 やっぱりマナちゃんはかわいい。

 こうやって表の仕事をしているときは特に輝いて見える。

 私のように裏仕事よりも外交などのほうが向いているのだろう。

 さすが姫だけはある。所作も綺麗だ。


 門を出たところで号令をかける。


「では早足で行こうか」

「「「了解」」」


 馬を軽く走らせる。トップスピードではなく長距離をあまり疲れずに走らせる速度を保っていく。

 すぐにブラッディベアがいた草原を横断していく。


「この前はびっくりしましたね、マナ姫」

「ええ本当ですよ、もう。クリスちゃんが怪我しちゃって」

「それは。終わったことです。そっちではなくクマが出たほうの話です」

「まあそうね。でも退治できたもんね」

「なんとかね」


 マナ隊長と馬を並べてたまに会話をしながら進んでいった。

 ある意味他にすることがないので、楽しい旅行となりそうだ。


 途中街に宿泊する。

 もちろんマナ姫を連れているので一番高い宿だ。

 しかし小さな街ではたいしたランクの宿ではないので、そこまでかしこまることもなかった。

 なんやかんや、楽しく道中を進み、三泊して四日目、第二都市ベーグルデンに到着した。


「えへへ、到着しましたね、マナ」

「ええ。今日はいい宿を取りましょう。お風呂のついたね」

「いいですね、それ」

「クリス副隊長、一緒に入りましょう!」

「ええ、よろこんで」


 ベーグルデンの城門前で約束をする。

 今からお風呂も食事も楽しみだ。それから本来の任務であるお祭りも。

 城門前にはお祭りのためか人の列ができていた。賑やかになりそうだ。


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