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ロンギオスの炎-Ⅲ 北へ  作者: たかさん
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第一章 刻まれた紋章(6)

×  ×  ×  ×


一年ほど前、妙に地面がざわめきだした。洞窟の洞窟の切れ間から唯一太陽が当たる場所を除いて・・・

 そこも徐々に作物が枯れ、新芽が出なくなっていった。

 そして、それから不思議な事が続いた。

 朝起きると、初めは少し、、そして日を増すごとに、どんどん小さな足跡が増えていった。

 足跡は村中に拡がり、遂には食物庫が荒らされるようになった。

 その夜から、三人の寝ずの番を出すことにした。しかし、朝になるとその三人は跡形もなく消えていた、地面に血の跡だけを残して・・・

 その次の夜も同じ事が続いた。

 「餓鬼かも知れん。」

 長老はそう言った。

 「とすれば、この土地が腐り始めている証拠。

 ここを捨てねばならんかも知れんな。」

 しかし、人々はその長老の言葉に反対し、餓鬼と戦い、この村を守る。と、騒いだ。

 それに長老が折れ、女子供は神殿に入れ、若者は闘いの準備をした。

 夜中過ぎ、地面がボコッと小さく盛り上がった。

 そこから、肋骨が浮き出るほど痩せこけて、腹だけが大きく膨らみ頭に一本の角を生やした、醜く小さな鬼が現れた。

 それに向け斧を振るう。

 ザクッとした手応えと共に、それが崩れ落ちた。

 だがそいつ等は一匹では無い。松明の光が行き届かない暗がりから、次々と現れてきた。

影から現れた餓鬼に誰かの足が囓られた。その悲鳴が恐怖を呼ぶ。

 あちこちでの恐怖の連鎖が、徐々に全体の恐怖へと変わっていく。

 「逃げろ。」

 誰かが叫んだ。

 皆が神殿に雪崩れ込んだ。

 石造りの神殿の中、最初は何事も起きなかった。しかし、外から戻った男達が落ち着かない様子でそこら中を歩き回り靴底に付いた泥が、神殿の床にこびりつく。

 そして、その泥がボコッと盛り上がった。

 あちこちで悲鳴が上がった。

 彼等は徐々に追い詰められ、居場所が狭まり、遂に宝物庫の一画だけがドワーフ達の拠り所となった。

 「逃げるんだ。ここを棄てて・・・

 餓鬼共の中にサスカッチの箱と、龍の鱗を投げ込め。

 奴等がそれに気を奪われている間に、裂け谷の入り口まで静かに、素速く逃げるのだ。

 あそこは太陽の光が届く。土地は腐っては居ないはずだ。」

 長老の声に皆が肯く。

 派手な音を立てて、サスカッチが仕舞われ箱と、ドワーフの背丈ほどもある龍の逆鱗が、餓鬼の群れの中に投げ込まれた。

 餓鬼共はそれを奪い合い、龍の逆鱗に触れただけで砕け散っていった。

 「今だ。

 静かに、声を立てるな。

 赤子は泣かすな。」


×  ×  ×  ×


「そうやって、数は減ったが、裂け谷の入り口まで逃げていった。

 だが・・・

 お前達は会ったかな、夢魔に・・・

 結局そこにも居れず、この地を去ったんだよ。」

 「餓鬼って・・・」

 沈痛な表情のドラゴの横から、カミュが声を上げる。

 「ふん。

 餓鬼も知らんのか。

 餓鬼という奴は、湿った暗い土地で、植物も生えず、異臭を放つ腐った泥から生まれる、悪鬼だ。要するに最も低級な邪鬼の一種だ。

 低級な奴だけに、簡単にやっつけることができるが、何しろ数で出てくる、厄介な奴等だ。」

 「土地が腐るって、どう言うことですか。」

 カミュが畳み掛けるように質問を飛ばす。

 「ふん・・

 土地が腐るというのはなぁ・・日の当たらない土地は、普通はジメジメしただけだが、邪神のせいで瘴気が溜まり、土が腐っていく。」

 「邪神・・・

 邪神って本当にいるのですか。

 人々が信仰しているのでは無くて・・・」

 「ふん。

 お前は自分の敵のことも知らんのか。」

邪神・・月の谷にいた時、ドリストに聞いたことがある。だが・・しかし・・・カミュにはまだ信じられなかった。

 「おい、そんな話しは後にしないか。」

 絞り出す様なドラゴの声・・・

 「早いとこ、この村を出ないか。ぐずぐずしていると暗くなるぞ。

 餓鬼とやらは夜出るんだろうが。」

 「ふん。

 お前は仲間の仇討ち・・とは考えんのか。」

 「仇討ちはしたい・・だが、奴等は数で出てくるんだろうが。

 いくら折れ様が強いと言っても、わけの解らんのがうじゃうじゃ出てこられちゃあ、手に負えんわ。

 それとも何か、てめえの、その杖の光で全て斃せるとでも言うのか。」

 「ふん。

 無理なことを言うな。こんな光なんぞ、餓鬼を寄せ付けない程度でしかない。

 が、コヤツの光なら、一気に斃せる。」

 と、カミュに顎をしゃくる。

 「待ってください。

 僕は自分の意思で、あの光を出しているわけじゃあありません。何かの拍子に自然と・・・」

「ふん。

 まだ、自分では制御できないってわけか。

 ならば、早めに逃げるしかないな・・日が高いうちに・・・」

ルーサーが見上げた空が休息にかき曇る。 禍々しいまでに黒い雲が、洞窟の切れ間から見える空を覆い尽くしていく。

「急げ。

 暗くなれば、奴らが現れる。

 静かに、そして素速く・・・」

 ルーサーの言葉が終わらぬうちに地面がボコッと盛り上がる。

 「光の下へ、杖の下に集まれ。

 但し、自分の影に気をつけろ。奴等はそこからも現れるぞ。」

 「サスカッチだ。」

 その声にドラゴの濁声(だみごえ)が被る。

 「サスカッチは法力の在る者が持てば、強烈な光を放つという。

 サスカッチを探すんだ。」

 餓鬼はルーサーが持つ杖の光を怖れてか、遠巻きに彼等を囲む。その中をじりじりと神殿に向け進む。

 しかし、カミュの影を映す地面が盛り上がり人型を成す。

 それに剣を叩きつける。

 手応えと共に、その人型が崩れ落ちる。

 「こっちだ。」

 道筋に明るいドラゴが声を掛け、宝物庫を指さす。

 宝物庫に入り、重い扉を閉じる。

 「奴等がここに入ってくるまで、そう時間はない。

 サスカッチを探すんだ。

 あれは世の不浄から守るため、銅板張りの輝く箱に入っている。」

ドラゴの声に応じ、ルーサーの杖がドンと石床を割り、部屋の中央に立てられた。その明かりを頼りに部屋中を探す。

 だが、見つからない。

 「ふん。

 結局ここで死ぬ運命か。」

 「諦めないで。」

 「ふん。

 だがな・・・」

 座り込み、天井を見上げたルーサーの目を、杖の水晶を反射した光りが刺した。

 「在ったぞ。

 あそこだ。」

 指さす先、天井の梁の間に鈍く光る箱が挟まっている。

 「俺が登る。」

 ドラゴが壁の隙間に短剣を刺しながら、天井を目指す。

 その下でルシールの悲鳴が響く。

 それは、とうとう、この中まで餓鬼が現れたことを教えた。

 「篝火(かがりび)を焚くんだ。」

 カミュが叫ぶ。

その明かりを背に身構える。

 当面の敵は、己の影から出てくる者達。それを叩き伏せる。

 それもいつまで保つか。

 時をおかず、餓鬼共とカミュ達の間に、壮大な音と共にサスカッチの箱が落ちてくる。それを追うように、ドラゴの身体も・・・。

 その姿にカミュが駆け寄る。

 「ドラゴ、怪我は。」

 「そんな事より、箱の鍵を開けろ。

 ルーサー、お前も仙人を名乗る位なら解錠(アンチ・ロツク)の魔法ぐらい使えるだろう。」

 「ふん。

 馬鹿にするな。」

 ルーサーは鍵に手を掛け、ブツブツと呪文を唱えた。すると、ガチャッと音を立て、箱の鍵が開く。

 「ルーサー、斧を手に取れ。」

 ドラゴの叫びにルーサーは斧を高く掲げた。

 ・・・しかし、何も起きない。

 「ふん。

 法力では無く、選ばれた者が必要なようだな。」

 「チッ・・

 選ばれた者なら、カミュだな・・・」

 カミュに渡すためにルーサーの手から奪い取った斧が、ドラゴの手の中でボッと僅かに輝く。

 「俺か・・・」

 ドラゴの口から戸惑いの声がもれる。

 「ドラゴ、斧を掲げて。

 そして信じるんだ。」

 カミュの声が響き、それに誘われるように斧を掲げる。が、その光りは未だ弱い。

 「サスカッチが選んだのは、俺・・・」

 不信がサスカッチの光りをさらに弱める。

 「信じるんだ、ドラゴ。

 サスカッチは君を選んだ。

 そして、この窮地から僕たちを救えるのは君だけだ。」

 ドラゴはルシールの眼を見た。

 その眼は恐怖に怯えている。

 「そう言うことだな。」

 サスカッチを握る手に自信と力を込めた。

 銀の光りが辺りを照らす。

 その光を浴びた餓鬼達が、ボロボロと崩れていく。

 「ふん。

 お前が光りの勇士の一人だったとはな。

 だがこれで助かった。

 先に進むぞ。」

 ルーサーの声にも力が戻った。


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