第一章 刻まれた紋章(4)
「まるで、お涙ちょうだいの別れのシーンだな。
先だ、先を急ぐぞ。」
ドラゴは故郷に帰れる嬉しさからか、浮かれるように話し続ける。
「この先は竜の道。その先に竜の宮殿と呼ばれる大広間がある。
そして、その先に、俺の故郷ドルドーが在る
そのまた先が、炎の回廊。
そこまで行けば出口は近い。」
浮かれるドラゴの眼の先にくねくねとした道が続く。
「竜の道・・
その昔、火を吹く龍、サラマンダーがいた。
それをエルフの若者と旅を共にした俺達の祖先が斃した。
エルフの勇者は宝剣ガルバリオンを手に、俺等の祖先は神斧サスカッチを手にサラマンダーに挑んだ。
サラマンダーって奴は悪い奴で、空を飛んじゃあ、火を吐きまくり、あちこちの村を亡ぼした・・・」
ドラゴの話しは続く・・
× × × ×
古の昔、武者修行のエルフとドワーフが偶然出会った。
必然的に手合わせが始まった。
ドラゴの話しに拠れば勝負は引き分けに終わり、意気投合した二人は旅を共にするようになった。
二人の旅は続き、ある村に泊まった。その村で夜中に快音が響き、空から炎が降ってきた。村は燃えさかり、人々は悲鳴を上げ逃げ惑った。
二人が見上げる暗い空には大きな龍が舞っていた。
火龍、サラマンダー。
二人はこの地獄絵を目の当たりにして、火龍を斃すことを誓い合った。
何年もかけて火龍サラマンダーの棲み処を探し当てた二人は、勇躍してこの竜の道に乗り込んだ。
だが最初の戦いは、あっけなく終わった。
火龍が吐き出す炎に灼かれたドワーフは大火傷を負い、尻尾に弾き飛ばされたエルフは大けがを負った。
二度目の戦いも、怪我こそ酷くなかったものの、火龍に敵しなかった。
我が我がと功を急ぐ気持ちに非を悟った二人は、策を練り三度目の戦いを挑んだ。
二人は協力して火竜を追い詰めたが、エルフの鋼の剣も、ドワーフの戦斧、竜の鱗を斬り裂くことはできなかった。
失意の中洞窟を後にしながら、ドワーフは、昔、村の鍛冶名人の家で壁に掛かった、七宝の柄の鋭い刃を持つ剣が飾られていたのを思い出し、その村を訪れた。
しかし、その村には、もうその鍛冶屋は居なかった。
二人はそれから二年をかけ、そのドワーフの鍛冶屋を見つけ出した。
鍛冶屋は二人の行動を知っていた。そして必ず自分の所へ武器を求めに来ると信じ、より設備の整った村で、宝剣ガルバリオンを打ち直し、新たに神斧サスカッチを作り上げ、二人を待っていた。
新しい武器を手にした二人は、四度サラマンダーに戦いを挑んだ。
二手に分かれ火竜を洞窟の奥の狭いところ、狭いところへと誘い込んだ。その狭さにサラマンダーは二人との戦いに於いて最大の武器である飛ぶことを阻まれ、二人の術中に堕ちいった。
二人はサラマンダーの尾と頭に別れ火を噴く頭側の者は岩陰に隠れ、尾に当たる者が攻撃を仕掛けた。
思うようにならない苛つきからか、サラマンダーの動きが徐々に荒くなり、その動きに隙が出来てくる。そして徐々にその隙が大きくなる。尾に斬り付ける者に向き直ろうとするため、長大な身をくねらす。その動きは狭い岩場に阻まれ緩慢になる。
ドワーフは自身に正対する直前の火龍の頭に一撃を与え、火が吐かれるすんでのところで素速く岩陰に隠れた。
その間にエルフは無防備の火龍の腹に斬り付ける。その逆もまた・・・
何度もそんな事を繰り返し、サラマンダーの身体は三つに折れ、遂に岩の間に挟まった。 その時を逃さず、エルフが動きのとれない竜の喉元、逆鱗の隙間にガルバリオンを突き刺した。
サラマンダーは咆哮を上げ身をくねらせ、その勢いに岩窟の一部が崩れ落ちる。
一部広くなった岩窟の中を火竜がのたうち回り、その動きにも剣の手を放さぬエルフの身体は逆鱗に触れあちこちから血が流れ出る。 待ってろ・・・大声を上げながら、ドワーフが火竜にサスカッチを振りながら飛びついた。
ガキッという鈍い音が洞窟に響く。
エルフを傷つけていた逆鱗が、地に落ちる。 サラマンダーの動きが鈍くなる。
その機を逃さずエルフが竜の喉元に刺したガルバリオンを鋭く抉り込んだ。
チロッと竜の傷口から炎がもれる。
それを見てドワーフがエルフの身体に飛びついた。そして二人して龍の喉を斬り裂き、土の上に落ちた。
それを追うように火焔が迸り、その炎が洞窟の壁も嘗めた。
その岩をも溶かす火焔の高熱に、サラマンダーの鱗も耐えきれず、炎に包まれていく。 二人は小高い岩に登り、その様子を眺めていた。辺りは炎の海、その岩の周りも高熱に冒され始めた。
逃げ場は無い、サラマンダーと一緒に死ぬ。そう覚悟を決めた時、火竜の身体が崩れ落ち、炎に包まれた内蔵が岩盤を溶かし始めた。
洞窟の床が二人がたった岩場を残して崩れ落ちる。その下に高温で焼かれた溶け、新たに巨大な洞窟ができた。