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ロンギオスの炎-Ⅲ 北へ  作者: たかさん
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第一章 刻まれた紋章

前作の続編です。

 タキオスを出たカミュ達はローヌ川本流を(さかのぼ)って東へ向かい、オービタス山地の奥を目指していた。たまに泊まる小さな村々で中原まで飛び火した戦いの様子を耳にしながら。

 血の気を騒がすドラゴの言葉を無視し、戦いを避け、戦闘があればそれが終わるまで身を隠し、やっとの思いでザルタニアの辺りまで進んでいた。

 「もう秋も終わりに近い。山ではそろそろ雪が降り始めるんじゃないか。これからの山越えは、無理があるんじゃあないかと思うけど・・」

 「心配するな、少々の雪は問題ない。

 それに、雪が降れば山の中では人の行き来がなくなる。人目を忍んだ俺達の行動には好都合じゃないのか。」

ドラゴは皮肉たっぷりにそう答え、そして続ける。

 「それより、明日からは山に掛かる。ここから先は急流になるぞ。出来れば後一人、二人漕ぎ手が欲しいもんだな。

 どうだカミュ、次の村で人を雇わないか。」

 「いや、それは出来ない。貴方の故郷を通るとはいっても命がけの旅になる事は間違いない。そんな旅に金で雇った人を同行させ、危険な目に遭わせるわけにはいかない。」

 「そうかい、そうかい。相変わらず融通の利かない奴だな。だが、そうなると明日からはかなりきつくなるぞ、覚悟しておけよ。」

そう言うとドラゴは小舟を岸に寄せ、今夜の寝床を確保する準備を始めた。


 狼よけの焚き(たきび)を囲んで夕食を摂る。

 食べ物はカミュがルミアスを出る時に王に貰った(ゴールド)と、ドラゴが村々で大道芸で稼いだ金で保存食を調達した。

 「カミュ・・お前、北へ行って何をする気だ。」

 「解らない・・」 

 「解らないって・・俺はまた邪神様でもやっつけるかと思ったが・・・」

 ドラゴが(かす)かに笑う。

 「邪神って本当に居るのか・・ドラゴ。」

 「冗談だよ。

 本当に邪神って奴が居るなら、戦争なんてこんなまどろっこしいことをせずに、本人が出てきてこの世界を亡ぼすだろうよ。

 そんなことより、お前本当に何も考えていないのか。」

 「うん・・

 でも北に行けば、答えがありそうな気がする。」

 「何の答えが・・」

 「解らない・・・」

 「また、解らないか・・

 まあ、いいさ。

 北へ行こうと言い出したのは元々ルシールの考えだからな・・付き合ってやるよ。

 とにかく・・さっさと喰って、早く寝ようぜ。

 薪はいくらでもあるから、朝まで保つことだしな。」


 ルシールが舵を取る小舟のロープを二人で曳く過酷な日が始まった。

 そんなある日。

 「歌が聞こえる。」

 突然ドラゴがそう言った。

 「歌・・・」

 カミュが聞き返す。

 その時には既にドラゴは、カミュの脳にも響きだした歌声にうっとりと聞き惚れていた。

 「ドラゴ・・ロープを放すな・・・」

 カミュも徐々に歌に酔いしれだす。

 ズルッとロープが二人の手を滑り、手の皮が剥ける。

 脳が歌に支配され、その痛みさえ感ず、他の音は聞こえなくなってくる。

 いや、全ての感覚がなくなっていく。

 耳を塞がなければ・・気をしっかりと持って・・・

 思う心とは裏腹に、頭の中で心地よく響く旋律に意識が解けていく。

 霞むカミュの目にドラゴがフラフラと水辺に近づいて行くのが見える。その手にはもうロープはない。

 ロープを握るカミュの手の力も弱まっていく。

 小舟が急流に流される。

 岩にぶつかったその小舟がバラバラに崩れる。

 ルシールの悲鳴が微かにカミュの耳に届く。

 悲鳴を上げながらルシールの身体が波間に見え隠れする。

 助けなければ・・・しかし身体は動かない。

 その時、カミュは身体に熱を感じた。

 右肩が特に熱を持っている。

 そして火のように熱くなる。

 脳までが白熱する。

 灼熱の熱さと共に右肩から光が弾け飛ぶ。 波間に浮き沈みするルシールの身体を、カミュの肩から迸り出た光が包み込む。

フワッと光に包まれたルシールの身体が波荒い川面から浮き上がる。

 金色の光を発したカミュが我に返り、水辺へと向かっていたドラゴももう一つの光に包まれ、落ち着きなく辺りを見廻している。

 その横で、川面がゆっくりと盛り上がり、それが徐々に人の形へと変わっていく。

 「今の光は・・・」

 人形をとった水がカミュに問いかける。

 「僕の肩・・いや違う・・・肩の痣から・・・

 どうして・・あんな光が・・・」

 「見せておくれ、その痣とやらを・・・」

 言われるままにカミュが片肌を脱ぎ、右肩の痣を晒した。

 「そう、貴方が・・・

 だけど・・何故・・肩などに・・・

 しかし確かに約束の者・・

 ご一緒させて頂きます。」

 「貴女は・・・」

 徐々にはっきりとした形に成っていく水にカミュが尋ねる。

 「私はウンディーネ・・水の精です。

 ウィーナとお呼びください。」

 頷くカミュに彼女は続ける。

 「古来より貴方に額ずくようにと定められた者。」

 完全な人形を呈した水の美女がカミュの前に膝をついた。

 「古来よりとは・・なぜ貴女が僕に・・・」

 「まだそれを貴方に話すわけにはいきません。

 貴方はまだ完全には覚醒しておらず、ご自信が何者であるかさえも解っていらっしゃいません・・おいおいと、お話も致しましょう。

 それよりこの先、まだ船が居るはず・・これをお使いください。」

 ウィーナが指し示す先で、波が舟形に盛り上がった。

 「乗れるのですか。」

 「勿論です。」


×  ×  ×  ×


 モンオルトロスを目指した六つの漆黒の影が急激に立ち止まり、騎手の迷いを移すように馬が足掻く。


「どういうことだ。

 ストランドスからモンオルトロスに向かったはずの光が、突然ローヌ川の上流に現れるとは・・・」

 ボスポラス神殿の一室に描かれた魔方陣の地図を覗き込みながら、キュアは珍しく困惑の言葉を吐き出した。

 「それに“光の子”を取り巻く星がまた一つ輝きだした。」

 キュアは側にいる銀の騎士を見る。

 「さてどう考えたものか・・・

 あの時は光は一つ。

 そしてその従星が輝きだした頃には、既に“光”は消えていた。」

 視線を受けたセイロスは羨むような表情でそう応えた。

 「光に敏感な・・奴らの判断に任すしかないか・・・」

 そう言葉を残し、キュアはその場を離れた。


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