ex01. 執務室にて
主人公の存在しない場でのお話です。
アルフィノは、甘い紅茶を飲みながら、そっと息を吐き出した。新聞紙に刻まれたその一文を見て、息を吐き出す。
――正妃デナート、病死。
それは、建国王の生誕祭から僅か三日後の事だった。セバスが傍へとやって来て、一礼をする。
「セバス、裏が取れましたか」
「はい。正妃殿下は、暗殺です」
「……やはり、そうですか」
アルフィノは疲れたように息を吐き出した。根回しは、サファージ侯爵やイズラディア公爵と共謀して、随分と入念にやったはずだった。正妃デナートに連なるものを少しずつ王宮から排除し、彼女を孤立させるところまでは策謀通りだった。
しかし、先に手を打たれてしまった。恐らく、あの正妃から情報が洩れることを懸念した者が口を封じたのだろう。
嫡子が王位を継げぬのならば、彼女は用済み。それがありありと分かるようだった。
「メフィスト子爵家の方はどうですか?」
「はい。メフィスト子爵に共謀していた家のいくつかは突き止めましたが、証拠がないので検挙まで持っていけませんでした。今は監視を続けています」
「分かりました。そちらの片が付くのは時間の問題でしょう。ぼくの次の世代までには、全て削ぎ落してしまいたいところですね」
国に蠢く悪意は、後が絶えない。こうして、表沙汰になる前に、処理するのが、国仕貴族の――鴉の使命だ。
「前伯爵の執念でしたね。ここまであっさりと、正妃殿下が陥落するとは」
「あっさり、ではありませんでした。状況はかなり不利でしたよ。けれど、ぼくらには救いの女神さまがいましたから」
カルセルは爵位を譲っても、鴉の仕事は続けていた。アルフィノは、カルセルから正妃の疑惑について聞いており、その周囲の人間が、執拗に第一王子を王位につけようとしているのを聞いて、共にそれの監視を始めたのだ。
父は、重苦しい沈黙を破った後で、かろうじてそれだけを告げたのだ。
『正妃殿下は、別人である疑惑がある』
常識的に考えれば、ありえないことだった。アルフィノはその周囲のことをあまり知らない。ただ、父は「鴉の掟を嘲笑うように、その隙間を狡猾に縫い、正妃の座に就いた女」を憎んでいた。
鴉は、国の治安を維持するための組織だ。そんな鴉の役目の一つに、王の選定という仕事がある。しかし、国王・王妃共に問題なしと鴉が判断した後に、正妃の襲撃事件が起き、記憶の混濁を訴えた正妃はまるで別人のように思えたという。政務を一切行わず、王宮で権力と金を湯水のように使って過ごす正妃を見て、カルセルは彼女に欺かれたのだと判断した。
そんな鴉が、王室への報復として行なったのが、此度の策謀である。ここ数年の鴉の共通目標が「マーゼリックを王位に就かせないこと」だった。もしも嫡男が国王になれば、あの女は死ぬまで権力と国庫を貪るだろう。であるからこそ、鴉は二代に渡って報復の手はずを整えた。
国を貪り衰退させる、飾りの正妃デナートを失脚させる。それこそが、鴉に課せられた使命だった。
「サファージ侯爵が同志であったことは幸いでした。彼は、正妃殿下の振る舞いに顔を顰めておりましたので」
アルフィノがサファージ侯爵に近づいたのは、それを判断したから。当初は鴉の連絡係として彼の秘書に潜り込み、彼と鴉の橋渡しをしていた。
サファージ侯爵家と繋がりを持てば、マーゼリック殿下の立太子も滞りなく行える。当初、アルフィノはそれに焦っていて、婚約破棄のための策謀を進めるかどうか迷っていた。しかし、そんなアルフィノのことを見透かしてか、サファージ侯爵はアルフィノにこんな話をしたのだ。
『娘を妃にと推した本当の理由は、あの正妃を、娘ならば正当な手段で押さえてくれると思ったからだ。……昔からとんでもない気性難でな。あの程度の女なら、娘は正面から叩き潰す』
子であるマーゼリックに罪はない。彼が本当に王の器があるのなら、サファージ侯爵は彼が王位についても構わないと思っていた。その代わり、娘を妃に据えることで、デナートの動きを封じることを企てていたのだ。
退位した王妃より、現王妃の方が権力が強い。それでも彼女らが退位した王妃を邪険に扱わないのは、家族としての情があるから。けれどデナートの振る舞いを、ミシェルはよく思っていなかった。彼女がずるずると権力と金を欲するなら、ミシェルは容赦なくそれを叩き潰すだろうと。
娘の気性の荒さを信頼して妃に据えたというのだから、とんでもない方だ。サファージ侯爵は、外さない博打打ちなのかもしれない。
けれどそれに気づいてか知らずか、デナートに手を貸した貴族たちは、サファージ侯爵家に権威のすべてを奪われるだろうと予想し、マーゼリックの気移りを利用して、レティシア嬢を操り、サファージ侯爵家を排除しようと企てた。
「状況はかなり不利でした。随分としっかりと根回しされていたみたいですから。ぼくらは後手に回ってしまって、マーゼリック殿下の婚約破棄がそのまま成立していれば、レティシア嬢はどこかの侯爵家の養子に取られて、そのまま正妃の座に据えられる、はずでした」
「そこで、お嬢様の気性難が炸裂、というわけですね」
「もう、感動しました。何というか、ああ確かに、彼女ならばデナート様の不逞を見過ごさずに叩き潰してくれるだろうなという安心感がありました」
すべてを狂わせたのは、ミシェルが婚約破棄に対して、浮気を告発して反撃したこと。そのおかげで第一王子は王太子の座を追われることとなり、イズラディア公爵を筆頭とした第二王子派の介入を許してしまった。
アルフィノはあの場にいたので、マーゼリックの不実な行ないを棚に上げ、側近と共に寄ってたかって淑女を囲む紳士を嫌な気分になって見ていたのだが、彼女がそれを完膚なきまでに差し違えて、第一王子の信頼を崩し切ってくれた。
「すべてが狂ったのはあの夜会から。デナート妃を盾にして暗躍していた者らは立ち行かなくなり、方々に処分しきれない証拠を残し、多くの家が代替わりを余儀なくされました。あそこで彼女が反撃に出ていなければ、何人もいらぬ犠牲が出ていたでしょうね」
サファージ侯爵にはどこまで予想がついていたのだろうか。それを考えればとんでもないと思うが、彼は単純に、娘のことを信頼していたのだろう。
辣腕と呼ばれる彼が信頼するほどに出来の良い娘を。つくづく、自分にはもったいない人だなとアルフィノは小さく息を吐く。
「ただ、問題もありました。デナート妃を推す者からすれば、サファージ侯爵に彼らのたくらみをすべて掌握され、思うとおりに事が運ばないことを恐れていた。であるからこそ、婚約破棄によって貴族社会からの抹消を試み、その醜聞を盾にサファージ侯爵への攻撃を企てていた者らが、今度はミシェル様を処分すべき、と声を上げだしたのが厄介でした」
「そうですね。王室に連なっていた女子が、王室から縁切りをされたということは、毒を賜り、病死とされることも珍しくはありません。特に、彼女の場合は妃教育をすでに済ませていますから」
「妃教育自体には、王家が泥を被って処分するほどの重要な機密は含まれていません。ただ、王家に叛意を持たせる要素を残しておくわけにはいかない、という主張も分かるには分かります。ですが此度の婚約破棄は、明らかに外が唆したものだった。その原因を作った人間らがミシェル様を処分しろと叫んでいるのです。面白いわけがない」
アルフィノは冷え切った声で、苛立ったように告げる。セバスは静かに頭を下げ、それを肯定した。
「ならば、その者らの不安の芽をわざわざ摘む必要もありません。ぼくが彼女を娶る、断固たる理由にさせていただきました。サファージ侯爵に頭も下げられてしまいましたし」
アルフィノがサファージ侯爵の秘書として潜り込んでいたころ、娘が暗殺されるかもしれないと悟った彼は、真っ先に鴉へと助力を求めた。王家でも、貴族でも守れないなら、彼女を守れるとしたらただ一つ。王の選定に際し、このような醜聞を作ったことをできる限り情報統制によって抑え込み、その醜聞を隠すことを認める代わりに、ミシェルの扱いのすべてを鴉に委ねて貰うことにした。鴉としては王家の弱みを抱え込むことができ、マーゼリックの立太子も阻止できた。切れる交渉カードが増えたことを意味していた。
サファージ侯爵は誇り高い人だ。他者に頭を下げることなどめったにない。ましてや、身分が下のアルフィノ――変装した秘書の、下位貴族の子息に対してなど。それほどまでに娘のことが大切だったのだろう。それを思わせて、アルフィノは少しばかり私情が混じってしまったのは認めていた。
「ぼくが伴侶として迎えることで、鴉の納得も得られました。彼女を抱え込んだことによって、彼女の処分を叫んでいた者らの不安はさらに膨張した。それに、今の情勢だと、マーゼリック殿下の立太子を叶えられるとしたら、サファージ侯爵だけだと思っていましたから。デナート妃は必ず、動いてくると思っていました」
「見事に、策がハマったわけですね。お嬢様を手中に収めた坊ちゃんが、それを越権行為として告発する、ここまで筋書き通り」
「彼女は社交も政治も知りませんから。そんな彼女がとれる手段と言えば、王命という権力のみ。国仕貴族に関しても知識などなかったのでしょう。政略的には、ぼくが彼女を娶った一番大きな理由はそこになります。デナート妃が愚かにも息子の立太子を叶えるために、ぼくに対して王命を使うこと。それを止めるものがいないように、着々と彼女の周りから、協力者を排除した甲斐がありました」
そうして、無知なデナート王妃はまんまと王命を使って、それが仇となってすべてを失った。そしてそのすべてのカギを握っていたのが、ミシェルだった。
ミシェルが婚約破棄をたたき返していなければ。アルフィノの求婚を受けなければ。どうなっていたか分からない。また違う方向に転がっていたであろうし、アルフィノの言った通り、余計な犠牲も増えていたかもしれない。
「正妃デナートの栄華は、あの日あの時、ミシェルがマーゼリック殿下に婚約破棄をたたき返した時点で、終わっていたんです」
もともと、ハリボテの権力だった。その我儘を叶えるための唯一の手段を、自ら蹴ったのだ。彼女よりも遥かに多くのものを持ち合わせていたミシェルが、それを鼻で笑って蹴り飛ばせば、すべて崩れ去る砂の城でしかなかった。そういうことだった。
政的な話に疲れを覚えてアルフィノが紅茶をくいっと飲み干した後で、セバスに困ったような微笑みを向けて、問いかける。
「こんな仄暗い考えで彼女を娶るきっかけを作ったことを知られたら、嫌われてしまうでしょうか」
「そんなことはないと思いますよ。お嬢様も、坊ちゃんがある程度打算的に求婚したことは気づいていらっしゃると思います」
「……ふふっ。打算だらけですよ、ぼくなんて」
アルフィノは自嘲的に微笑んだ後で、ぽつりと漏らすようにつぶやいた。
「ぼくは卑怯ですね。彼女が欲しいからと、傷心につけ入るような真似をしました」
「始まりは嘘からでも、最後に互いを想い合う愛があれば、私はそれで構わないと思いますよ、坊ちゃん」
「セバスは、たまに何だか分かったことを言いますよね」
「私にとっては坊ちゃんの幸せが全てですから。そのためには、多少ずるいことでも目を瞑りたいと思っています。それに……坊ちゃんの隠し事は、ほとんど知られてしまいましたしね?」
「う……」
セバスはくすくすと笑う。彼女と付き合う上で、一番気にしていた隠し事を、彼女は自力で看破してそれを許して受け入れてしまった。いつかはちゃんと話し合わなければならないことだったかもしれないが、それを彼女はあっさりと受け入れ、ただ一つの約束を結ばされてしまった。
「あれは何というか、完全に想定外でした。この身の拙さを恥じるばかりです」
「こればかりは、お嬢様の器の広さに感謝するしかないですね?」
「その通りですが、そもそも縁談の申し入れをするまでのハプニングは、ぼくの策謀に含まれておりませんでした。ですので、その言い方は少し不本意です」
ふぅ、とアルフィノは息を吐き出して、そっと頭の後ろで手を組んで、身体を伸ばした。小さな少年のような体に、大人用の執務椅子はサイズが少し合わない。
セバスが顎を撫でながら、少しにやつきながら告げる。
「決定打は何だったんです?」
「決定打?」
「一目ぼれだと言っていたじゃないですか」
「それは……」
アルフィノは、初めて彼女と顔を合わせた日のことを思い出す。
絶望的なまでに味方のいない状況で、しかし凛と背を伸ばして、家臣としての役割を果たす彼女。
そんな彼女がホールを後にしようとしたとき、唖然としていた侍女を横目に、アルフィノはそっと彼女の行く先のドアを開けた。あの時は給仕に変装していて、そんなアルフィノにも、彼女は丁寧に礼をしてくれた。
しかし、ホールから出ていく彼女の顔には、底知れぬ不安と、空虚さを起因とした絶望が張り付いていたように思えた。
それを見て、アルフィノは、彼女はまだ成人前の女の子なのだと実感したのだ。
「彼女の在り方を貴族として好ましく思ったのと、彼女が一人の女の子だと分かったからです。一人で国のために戦おうとしてくれた彼女を、心の底から守り、支えたいと、気が付けばそう考えていました」
「……なるほど。私としては、仕事一筋だった坊ちゃんが恋をしてくれて、仕事で身についた狡猾さを使って彼女を落とし切ったことに感動を覚えております。だって坊ちゃんも、今までにたくさん我慢をしてこられた身ですから」
「セバス。ぼくは、フレイザード家に生まれたことを恨んでおりませんよ。ぼくは運命や使命という言葉が好きなんです。だから、この家に生まれたのなら、この家の使命を果たすのみ。でも」
アルフィノは心からの微笑みを浮かべて、セバスへ向けて告げた。
「彼女と出会えたのは運命だと、そう思わずにはいられないほどには、幼い夢想家なんです。ぼくの心は」
それを見て、セバスはほっとしたように微笑んだ。そうして、少しだけ泣きたくなるような感動を抱えながら、そっと頭を押さえた。
「彼女と共にいるために、潜入捜査員からは足を洗いましたし、鴉の棟梁は次代へ繋ぎました。鴉の棟梁は、定期的に変えるのが習わしですから、ちょうどいいタイミングでしたね」
「ええ。坊ちゃんは大変愛らしい容姿をしていらっしゃいますから、ぼちぼち、勘のいい貴族には察せられてしまうかもしれませんからね」
「ガブリエル殿下の側近に潜り込んだのでね。これ以上活動を継続すると、リスクしかありませんし、いいタイミングでしたね」
あとは、慎ましやかに表舞台から消えるだけ。彼女を道連れにしてしまうのは少しもったいないけれど、もうミシェルを手放す気にはなれなかった。
「まぁ、棟梁と潜入捜査員からは足を洗いましたが、ぼくは生涯鴉の構成員ですから。ルーセンの裏の領主業から、まだまだやることはたくさんあります。正妃の不可解な襲撃事件に、裏切り者のこと……まだまだ、腰を据えるには早いですが、それでもなるべく家にいて、この血と伝統を子孫に伝えるという使命を、彼女と共に果たしたいと願っています」
「坊ちゃんの初恋が実って、セバスは嬉しゅうございます。お二方、及びご子息に至るまで、一生お守り申し上げます」
「セバスはそろそろ結婚しないんですか?」
「私は相手がいないので」
セバスほどの見目麗しさならば、平民の相手ならば引く手あまただろうに。彼自身が少しばかりアルフィノに執着する悪癖があるからか、女子が寄りついて来ないのだ。
「ぼくのことを大事に思ってくれるのは嬉しいですが、自分の幸せもちゃんと大切にしてあげてくださいね」
「私にとっては坊ちゃんの幸せこそすべてですよ。孤児であった私をカルセル様に拾っていただき、幼い坊ちゃんを一目見た時から、私の心は常に一つです。この方をお守りしたいと、心からそう思ったのです」
「……孤児たちは、下位貴族の家に引き取られたり、平民として自立したりしているのに……君を含めた何人かは、フレイザード伯爵家に忠誠を誓い、工作員として働いてくれてるのは、なんというか、少し罪悪感があります」
「私たちが望んだことです。恩人であるあなたたちのために、力となりたいからです」
フレイザード伯爵家の周りは、訳ありだらけだ。それでも、そんな訳ありの人たちが、互いを想い合い、尊重し合っているからこそ、強固な絆が存在する。アルフィノは、やれやれと言った様子でそっと息を吐くと、立ち上がった。
「さて、立太子に向けて動く不穏分子の排除に向かいましょう。散々苦労させられた第二王子殿下の立太子を、台無しにするわけにはいきませんから」
「はい。お供いたします、坊ちゃん」
国仕貴族は、国の影。彼らは誰にも知られず、平和な国の裏で、それを守るために手を汚す。
そんな彼らを理解し、家に帰れば笑顔で迎えて、癒してくれる存在。
(ああ、早くミシェルに会いたい)
アルフィノは心から想い合う伴侶の存在に、ありがたみを隠せなかった。
馬車の中で、セバスが暇を持て余したように口を開く。
「お嬢様は、気性難とは言われますが、坊ちゃんの前ではそうでもないですよね」
「元々、女性に対して使う言葉ではないと思いますけれどね。彼女は、ぼくの前だと少し縮こまってしまいますよね。だから、守ってあげなきゃ、と思うのに……」
アルフィノはそっと苦笑を漏らして、思い出すように視線を上へと持っていった。
「殿下や、しつこい人に出会うと、途端に攻撃的にすべて追い返してしまうので、ぼくは立つ瀬がないですね。情けない限りです」
「あのスイッチの入り方は凄いですよね。まぁ、社交界的には向こうの方が家格が上なので、ある程度は仕方ないのではないでしょうか」
「王城で暮らしてきた彼女にとって、ぼくはまだまだ守るべき小動物のようなものなのかもしれません。早く頼って貰えるようになりたいなぁ」
くすりと微笑んで、アルフィノは肩をすくめる。その様子を、セバスは和やかに見つめていた。
(愛らしい小動物の前でおとなしくなる暴れ馬、うちの放牧地でもよく見ますけれどね)
暴れ馬同士なら威嚇し合ってすぐに喧嘩になるのに、小さな生き物が傍に寄れば途端に大人しく、愛するように静かになる暴れ馬。この二人はまさに、そんな感じだと思いながら、セバスは微笑んだ。
「あ。この話は、絶対にミシェルには内緒ですからね」
「分かってますよ、坊ちゃんはかわいいなぁ」
「絶対ですよ? ぼくは見た目がこんなだから、少しくらいカッコつけさせてください」
「心配しなくても、お嬢様の前での坊ちゃんは、一番カッコいいですよ」
少しだけ拗ねたようにふいとそっぽを向く主人を、セバスは見つめて、安堵していた。