7 急転直下とはこのことで
ああ楽しかった、と思ったのだ。思って、今日は久しぶりに思い切りいろいろなものを見て回ったな、と思ったのだ。
思ってそのまま、私はおかみさんの家に戻ってきた。
当然一人でいろいろなものを見て回って、それから仕事仲間たちと劇を見に行って、冷やかし交じりに露店を見て回って、時々仕事仲間の美女が、かわいこちゃんと声をかけられる事できゃあきゃあ言い合って、そういったお祭り騒ぎ特有のにぎやかさを、夕方まで楽しんできたのだ。
だから当たり前のように一人帰ってきて、そして、おかみさんと旦那さんが、目を見開いたから、びっくりしたのだ。
「どうしたんです二人して」
「ロッテと一緒じゃなかったのかい」
問いかけてきたのは旦那さんだった。
え、なんでシャルロッテと一緒だなんて思ったんだろう。
もしかして。
「ロッテちゃんまだ、家に帰ってきていないの?」
「そうなんだよ。帰ってきていないんだよ、あの子ったら。友達たちと、夜更けまで遊び歩くつもりじゃないだろうね、ちゃんと夕方までに帰ってきてといえばよかった」
「まあまあ」
心配仕切りの顔の旦那さんに、おかみさんが言う。
「若いうちは、夜更けまで、明け方まで、遊び歩きたい年頃じゃないか。祭りでそんなことするなんてのは、そんな長いことしていられないんだから、たまにはぱー-と騒ぎたいんじゃないのあの子だって。それに若い女の子が集まったら、大体が恋愛話で時間を忘れるものさ」
おかみさんはあまり心配していない、というか、自分の若いころのことを思い出しているから、そこまで慌てふためていないのだろう。
でも一言、おかみさんは言ったのだ。
「にしても、エーダを誘っているものだとばっかり思ったのに」
「ふうん……」
私は、そんなものなのかな、と思いつつ、シャルロッテが帰って来るまで起きている、というお二人に声をかけて、疲れた体を休める事にした。
明日までには、きれいな幼馴染が帰って来ると、信じていたからそんな事ができるのだ。
家族を大切にする幼馴染が、いきなりいなくなったり駆け落ちしたりするものか。
そんな性格の人間だってわかっていたから、きっと仕事仲間たちとおしゃべりしまくっているのだと、この時は考えていたわけである。
それが大きく裏切られたのは、朝起きても、おかみさんも旦那さんも、一睡もしないで、居間に座っていた時だった。
もしかして夜明けを過ぎても、帰ってきていない? シャルロッテがそんな真似をするはずがない!
もしかしてさらわれた?
居間に続く扉の前で立ち尽くしている私を見て、おかみさんが、黙ってカップにお湯を注いでくれた。
きっと、昨晩はそうやって交代で何かしながら、娘が帰って来るのを待っていたのだ。
「警邏に行ったほうがいいんじゃないだろうか」
「朝帰りが気まずくて、まだ帰ってこられないだけかもしれないじゃないか、昼間ではまとう」
おかみさんも、本当は外に探しに行きたいのだろう。握りしめられた手がそれを物語っていたけれども、おかみさんがそうしないのは訳がある。
入れ違いになったら、鍵を持っていないシャルロッテは家に入れないからだ。
大事な娘を温かく迎え入れたいからこそ、おかみさんはここで待つ選択肢をとっているのだ。
「私、もう少し日が昇ったら、ロッテちゃんの仕事仲間たちに聞いてきます」
「そうしてくれると助かるよ、もしかしたらあんたの迎えを待っているかも、しれないからね」
そうであってくれ、と言いたそうなおかみさんの声だった。
だから私は、いつも通りの早朝の外の掃除をして、ミルクを買って、朝ご飯を食べて、それなりの時間になったらすぐさま、家を飛び出したのだった。




