6 浮足立つ街中
「良かったねエーダ」
「そうだとも、お前だけ仮装しないなんて、ちょっとどうかと思っていたんだ。お前がよければ、貸衣装店の知り合いに声をかける予定だったよ」
おかみさんと旦那さんが、着替えた私を見てそう言ってくる。
そっか、そんな予定があったから、今日の支度はいつもよりずっと早かったのか。
そんな事を思いつつ、私はおかみさんが、楽しそうに娘の周りをまわって、見とれているから、やっぱり貸してよかったな、と改めて思ったのだ。
「さて、そろそろ戸締りをして、うちを出なくてはね。これ以上遅くなると、道でつかえてしまうよ」
「そうだわね、さて皆、大事なものはちゃんと持ったかい、スリと誘拐には気を付けるんだよ、お祭りってのはそう言うのが山ほど出て来るものなんだからね」
「いやだわ、お母さんったら心配性で! 待ち合わせ先まで、エーダちゃんと一緒なのよ、大丈夫よ」
「ロッテちゃんが仕事で出来たお友達たちと合流するするまで、ちゃんと一緒にいますから」
「本当に、ロッテよりもエーダの方がしっかりしてるって事を、お前たちは自覚しておいてくれよ、お前たちはいい年ごろで本当にきれいになって……「かみさんや、話が長くなるなら外で話そうか」
おかみさんが長々と喋る気配を感じ取ったのか、旦那さんが遠慮なく誘導する。おかみさんはそこではっとしたらしく、噴出していた。
「そうだね、お祭りは楽しまなくちゃね」
そう言って私たちは全員、家を出て、家に鍵をかけて、この、丸一日大賑わいのお祭りの中に、繰り出していったのである。
おかみさんと旦那さんは、内職仲間の皆さんとの付き合いが会ってそちらに向かう、という事なので、私たちは待ち合わせの時間に間に合うように、仕立て屋さんを目指した。
「なんだかいつも以上に視線を感じるわ」
「ロッテちゃん自分の美少女っぷり自覚してよ」
「だって、皆綺麗な衣装を着ているじゃないの」
「ロッテちゃんみたいに飛び切り綺麗な女の子、この通りで私見かけてないからね? そこのところわかるかな?」
シャルロッテは、自分の見た目が整っている自覚はそれなりにあるのだ、だがしかし、それなり、というところに問題があって、自分が類を見ない超絶美少女だという自覚がないのだ。
だからこそ、おかみさんが心配になるわけである。旦那さんも口には出さないけれども、相当心配だろう。
そのため私に、色々頼んだぞ、なんて言ってくるのだ。
それもこれも、私が仕事先のギルドで、護身術をそれなりに使うようになったからだろう。
私だって、大好きな友達が危ない目に合うなんて耐えられないから、私にできる事は出来る限るするわけである。
さてそんな内心はさておき、周囲の誰もが、シャルロッテが通り過ぎると、二度見三度見振り返り、ぽかんとした顔で見とれているのが、私には伝わって来る。
そうだろう、母さんのドレスを着たシャルロッテ、飛び切り綺麗だろう!
母さんも、きっと、ドレスが報われるって喜んでくれるんじゃないかな。
なんて思いながら、私たちは仕立て屋さんの前に到着した。どうやら私たちが一番乗りのようだ。
「皆まだ来ていないわ」
「じゃあ一緒に待ってるね」
「あなたは友達とかとの予定はないの?」
「それがさ、仕事先の皆さん、割と家庭がある人が多いから、家族とお祭り楽しむんだって。で、そう言った予定がない少数派は、お昼からの集合なんだ」
「どうしてお昼からなの、朝から回ったって面白いじゃないの?」
「それがさ、好みが全然違うから、それに付き合わせるのもなんだか悪いね、って事になって、じゃあ午前中は一人で楽しんで、昼からの舞台を皆で見て、おやつ食べて解散しようって事になったの」
「それはそれで楽しそうだわ」
「結構楽しいよ、去年はロッテちゃんと一緒でとっても楽しかったけど」
「私も、エーダちゃんと一緒にお祭り見て回れて、とても楽しかったわ! 去年やっと、お母さんが、エーダちゃんと一緒なら、それなりに自由に回っていいって許してくれたんだもの」
「ロッテちゃんがちょっと天然だからだよ」
「そうかしら?」
「お人よしだし」
「そんな事ないわよ、あなたの方がお人よしよ、私知っているんだからね? ギルドで二日酔いの人たちに、酔い覚ましの薬湯を用意してあげているんでしょう?」
「まってなんで、ロッテちゃんそれ知ってるの?」
「ケビンさんが教えてくれたのよ」
「ケビンの奴……一体いつロッテちゃんと接触を……」
私が知らない間に、あいつめ、シャルロッテに近付く悪い虫になったんだな、とっちめてやる。
でも、ケビンは常識的だとギルドでも言われているから、話す友達位には、格上げしてもいいだろうか……?
いやしかし、一人許せば他の馬鹿どもも群がってこないだろうか……?
「エーダちゃん難しい顔しているわ、お祭りなんだから笑っていましょうよ」
「ちょっとこれからの交友関係の事を考えててさ」
「そうなの? ギルドの知り合いって色々大変だって聞くものね」
「まあね」
乱暴者でも、ギルドの受付には弱い、という話もよく聞く話だ。だって受付に嫌われたら仕事を承認してもらえないからな。
そういう事もあるし、受付に何かしたらギルドの上の人たちが出て来るし、場合によっては仲のいい冒険者たちが、酷い事をしたやつを蛸殴り、なんて事も聞く話だもの。
受付は色々大変なのだ。
そんな会話をしている間に、ちらほらと、見知った顔が近付いてきた。
皆揃って、シャルロッテのドレスとお化粧をした見事にきれいなお顔に目を奪われて、口をぽかんと開けている。それを見ているとなんだか、いいだろう、私の友達とってもきれいだろう! って胸を張りたくなった。
そして近寄ってきた皆が、口をそろえてこう言うのだ。
「え、シャル! なにそれ! 本物のお姫様の登場かと思ったわよ!」
「すっごい美少女のお姫様って感じよ!」
「やだ、超ステキ!」
「私たちもあらゆる伝手を頼ったのに、負けてる!」
なんていう物だから、シャルロッテは彼女たちを見て真顔で言うのだ。
「皆だってとっても似合っているじゃないの、すごく素敵よ?」
「だってシャルが、本物のお姫様みたいな雰囲気出まくってるんだもの! 負けたって気分になっちゃうわよ!」
「私たち、お姫様とその侍女みたいな一行になっちゃうじゃない」
「……皆いやなら、着替えて来るわ、貸衣装店、今日は混んでるけれど、何かあるはずでしょう?」
「いやだよ! ごめんシャル! 着替えないで!」
「目の保養させて!」
「友達だって自慢させて!」
「私たちが悪かったから!」
皆言いたい事はあったらしいが、着替えられるのは嫌だった様子だ。そりゃそうだ、こんな美少女滅多にいないもの。
さて、シャルロッテのお友達はそろったみたいだ、私は一人自由にお祭りを楽しんでこよう。
そう思って私は、皆に声をかけた。
「じゃあ皆揃ったみたいだから、私行くね」
「エーダさん一緒じゃないんですか?」
シャルロッテの友達が声をかけて来るから、私は予定を話した。
「私はお昼から、仕事仲間と演劇を見に行くって約束だから、それまで一人で楽しみたくてさ」
「じゃあ、もしかして、私たちが来るまで、一人で待たせられなかったから、一緒にいてくれてたんですか?」
別の子が、目を丸くして私を見ている。
「え、いけなかった?」
「ううん! 助かった! だってこんな超絶お姫様が一人で立ってるのに、近寄れる勇気、私たちなかった物」
「皆酷い言い方よ」
なんだかんだ言って、皆仲が良さそうで結構だ。そこまで見届けてから、私は、お祭りの美味しいものを食べ歩くために、いそいそとそう言う通りまで、歩いて行ったわけである。
朝ごはんも、このために食べていないんだからね!




