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残念ながら、母の娘はそこの美少女ではなく私です!!!コミカライズ中!  作者: 家具付
外伝2 新婚珍道中!!

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12 かつて過去であった場所

晴れ渡る空の下、私は荒廃した街並みの前に立っていた。そう、今いるのは旦那の故郷の、オアシスが枯れて滅んだ町が、あった場所なのだ。

確かにここには町があったという事が、色々なものからわかる。建造物、標識らしきもの、町の街路を覆っていたらしい土レンガの朽ちかけた物。

私が生まれる前には人々が行き交っていて、でも、今はもうそんな過去をしのぶ事も出来ないくらい、滅んだ、町だ。

鼻に流れる荒廃の匂いに似た物。水分を含まない乾いた風に混じる砂の熱。もうここには何もないのだ、と言わんばかりの雰囲気と、無言の主張に似た物が、その街だった場所には存在していた。


「ここが、俺の故郷だった場所だ」


立ち止まって周囲を見ていた私に、旦那が淡々とした声で告げる。……ここに来る前の町で、お昼ご飯を食べる時に立ち寄った屋台の人に、行く先を尋ねられたから答えたら


「あんな、不気味な所に行くなんて、ずいぶん物好きな旅行客なんだな」


そうやって不思議がられたけれども、確かにここは、そんな不気味さも纏っていた。

人がいた、でも、もういない。誰もここにはいない、生き物すらいない、という様な場所は、そう言った場所を見た事のない私にとって、とても不気味な何かを感じさせたのだ。


「入りたくないなら、町に戻るか」


立ち止まったまま一歩も動けないでいた私を見やって、旦那が静かにいう。私は彼を見上げて、首を横に振った。


「行くよ。ただちょっと雰囲気に圧倒されてただけで」


「……そうか。気分が悪くなったらすぐに伝えろ。……十数年でここまで朽ちたとは思っていなかった」


彼は……何かの象徴だったんだろうか、町の中に立っている高い置物に似た物を見つめて、遠い昔を、まだ暮らしていた頃を思い出しているかのように、呟いた。

そんな旦那を見ていたら、不意に、この人がどこか遠くに行って帰ってこないような、どこかに引きずり込まれるような、そんな気持ちになって、私は慌てて、相手の自分よりずいぶんと大きくて、骨格も違っていて、肌の色も質感も、何から何まで大違いな手を握り締めた。


「どうした」


「迷子になりたくないだけだよ」


「そうか。……行くぞ」


彼がゆっくり歩き始める。その後に続いて、私は、朽ち果てた、来訪者など滅んだ今一人もいないのだろう街並みを、進んでいったのだった。


「この町はどれくらい大きかったの」


「それなりに貿易が盛んだった。青い国の珍しい植物が出回る事も有る位には」


「豊かな町だったんだ」


「一概には言えん。だが、浮浪者の数はかなり少なかった。……今にして思えば平和で幸せな町だっただろうな」


「あなたが好きだった場所はある?」


「俺は……そうだ、あの頃は」


彼は私の質問に一つ一つ答えていきながら、遠い過去をゆっくりと思い出すような調子で、色々な場所を見ている。


「あの頃、俺はずいぶんと物好きだった。仲間や弟妹が暑がって嫌がるような、高い場所に一人で登って……登りすぎてしこたま怒られたな。最後に登ったのはあれだ」


そう言って彼が空いている手で指さしたのは、町の中にあったのだろう、鐘楼だった。そこももう、壊れているみたいで、誰かが持って行っちゃったのか、あったはずの鐘もなかった。


「どんな景色がその時は見えたの」


「町が一望できた。赤い土レンガで組まれた、他の町から夕空の町と言われた世界が、はるか先まで」


彼は目をかすかに伏せた。もしかしたら、もう、思い出話をさせちゃいけないかもしれない、と思うほど、彼は過去を悼んでいた。


「……ねえ、もうあなたの昔と、この町の昔を聞かない方がいい? 大丈夫?」


「構わん。俺はお前に話してようやく、この町にいた頃を思い出してくる。……請われるまで、この町の事など何一つ思い出せなかったというのに」


「それは、いい事なの? 辛くない?」


「お前に話していると、安らかな気持ちになる。思う存分聞いてくれ。……俺が知っていた町の話を」


きっと。がむしゃらに、ひたむきに。

誰からも王と呼ばれるこの人は、私の旦那様は、故郷の事も思い出せないくらいに、砂漠の国を守ろうと、助けようとして、生きてきたんだ。

子供と言っていいくらいの年齢の頃から、水神の怒りを受け止められたから、王様になって、それから、ずーっと、砂漠の国のためだけに、生きてきた人なのだろう。

過去を振り返る時間も、彼にはなかったのかもしれない。

そんな事が頭の中に浮かんできて、私はそれって、どれだけ大変な人生だったんだろうか、と考えた。

でも、考えても、きっと私の考える過酷さの数百倍は辛い生き方のような気がした。

その彼が、安らかな気持ちで、故郷を語れるなら、私は、ありったけ話を聞こう、と決めた。


「ねえ、この町にも、売り物の区分けがされてたの?」


「されていたぞ、オアシスがある場所の方が、過ごしやすい空気だったからな。すぐにしおれる物はオアシス付近で売られていた。毎朝毎朝、場所取りの争いが行われていてな、近くに住んでいた親戚は、鶏よりも早く起こされるとぼやいていた」


「そうなんだ」


そんな会話をしながら進んでいく。道だった朽ちかけたレンガの敷かれた場所にも砂はかなりたまっていて、かろうじてレンガが見えるくらいで、建物もぼろぼろな場所を進んでいき、そして。


「ここが俺の家だった場所だ」


町の少し外れなのかな、きっと中心部からは距離がある場所の一角で、彼が立ち止まって、そう言った。割と小ぢんまりした、増築が重なっていそうな建物だった。

その建物の前には、壁があって、庭が覗かれないようにされていたんだろう。


「……」


立ち止まって、自分の家だった場所を見ている彼は、私には想像できない感情が渦巻いていたのだろう。流動する黄金の瞳が、揺れていた。


「大丈夫? やっぱり、町に戻る?」


無表情が常なのに、ほとんど表情筋が動いていないのに、彼がとても危うく見えて、握る手に力を込めて問いかけると、彼は私を見て、静かに答えた。


「問題ない。……あまりにも長く、俺は家を留守にし過ぎた」


それだけを言って、彼は出入口に立って、いろんな思いが乗せられている声を出した。


「ただいま」


誰も聞いていないだろう。ここに人は一人もいないのだから。でも、きっと、今の言葉は、きっと。

ずっと、何年も、十何年も、彼が、言いたかった言葉の一つに違いなかった。


「庭に墓を作ったと聞いている。行くぞ」


そう言って、彼は私の手を引いた。そうだ、確かに、お墓はあった。でも。


「……墓荒らしに荒らされたな。……骨は朽ちたか」


お墓らしきもの、朽ちた墓標というべきものの近くは、乾いた世界だったからこそ、かろうじて遺物が残っているような状態で、詳しくない私でも、お墓を荒らされた事が感じ取れるものだった。


「あなた……」


何て言ったらいいんだろう。やっと来る事が出来た家族のお墓が、荒らされているなんて、どう言えば。

言葉を探した私に、彼は言う。


「仕方がない。十六年も、来なかったつけだ」


「怒らないの? 腹が立たないの? 辛くないの?」


「それで肉親が戻ってくるなら、いくらでも感情をむき出しにしよう。だが俺の肉親は誰も冥界から戻りはしない。俺が出来るのは」


彼の手が燐光を放つ。彼が私の知らない言葉を口に出す。ふわりと柔らかな風が吹いて、そして。


荒らされまくっていたお墓は、見る影もなかったお墓は、お墓としての体裁を取り戻していた。

放り出されたり、ぶちまけられていたような遺物も、皆お墓の中に納まったんだろう。


「今度は」


彼が、まともになったお墓たちを見て小さな声で言う。


「もっときちんと、帰って来る。俺の横にいるのは、俺には不似合いな程、出来た妻だ。きっとみんな、俺なんぞに嫁いだ妻を、歓迎しただろう。……ああ」


そう言って、旦那は懐にしまい込んでいた、綺麗な細工物の瓶を取り出した。


「墓参りに、何も持ってこないわけがない」


瓶の封を開けて、彼がお墓にそれを注ぐ。きらきらした、虹色の輝きを放つ水が、お墓と、その砂にしみ込んでいく。


「あ」


それを見て私も、懐から瓶を引っ張り出した。

瓶の口を開けて、彼のように、お墓にかける。


「……えーと、妻のエーダです。あなた方の息子さんであり、お兄さんである旦那様は、とても申し分のない人です。この人と、人生を重ねていきたいと思います」


砂漠のお供え物で、一番格式が高いのは、純度の高い飲める水。それに花の香りとかをまとわせたものが、一番、価値のあるお供え物だとされているのだ。

私はアヤさんとかマーヌールさんとかサラさんとかに頼んで、お花の匂いのする飲める水を用意してもらった。それの匂いが、風に流れて、どこかに散っていく。


「いい趣味だ」


瓶をお墓に置いて、旦那が言う。


「そうね、用意してくれた女の子たちの趣味がとても上品なのよ、私だったらもっとよく分からない趣味になったと思う」


「そうか。……お前の目的の一つは、竈の灰だったな。もう家と呼べるかも怪しいが、中に入るぞ」


「出入口そこなの?」


「庭の脇に勝手口があった。おそらくここだな」


「うーん、建物が朽ちすぎてるんだか何だかで、勝手口らしきものが乱立している……」


「崩れる前にお前を外に出すから、安心して入れ」


「そこは信じてる」


そんなやり取りをしながら、私は建物の中に入って、ろくな調度品もない空間の中に、かろうじて存在していた竈だという場所を覗き込んだ。

そして、あれ、と思った。


「ねえ、真新しい灰がある」


「なんだと?」


「これ、新しいよね」


竈を覗いて見つけた物、それは昨日か今朝だかに、燃え尽きたと思わしき灰だった。量はとても少ないけれど、灰を見間違えるわけもないし、手をかざすと火の熱の残滓に似た物を感じた。


「人がいた形跡は見当たらないが……」


彼は周囲を確認し、まあいい、という。


「その灰を持ち帰って、誰も苦情は言わんだろう。城でそれを額と手足にこすりつければ、儀式は終わる」


「わかった。 竈の神様、灰をいただきますね」


言って私は、その灰に一応声をかけてから一握りの灰を、このために用意した革袋に入れて、当初の目的を果たしたのだった。

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