9 休憩の雑談
思いっきり改稿したので話が違います! ご注意ください!!
新婚旅行という名前の、私の結婚報告にかかった日数は全部で三日。大河の町から一晩だけかけて大河を渡って、国境を越えて青の国に入って、ギルドで挨拶して、夜におかみさんたちの暮らす場所に行って、そのまま転移魔術で砂漠の国に戻ったから、それ位しかかかってない。
私が旦那と、もう見慣れて来て、何というか安心できる場所である、都の中でも、よほどの目的地がない限りはここに転移してくれ、と旦那におばば達が念押ししまくっている場所に降り立った時、周りは呆気にとられて、こう叫んだ。
「新婚旅行からの離婚劇はやめてくださいね!!?」
「……何がどうなったらそうなるわけだ?」
心底理解できない、という口ぶりで旦那が言って、見回りの兵士たちが慌てて駆け寄ってきたり、誰かを呼びに言ったりしている。
私はもう夜更けと言っていい時間だし、眠たくなってきて欠伸を一つしたけれど、帰宅の知らせを聞いてきたらしいおばば様達と、長老様達が各々、かなりの速度でやってきてこう言った。
「日数は一週間と言っていたではありませんか!! いったい何をどうしたら、三日という短い期間で帰って来る事になるのですか!!」
「王!! 念押ししましたよね!? 王の新婚旅行の日数が短いと、王の結婚生活も短いとされ、不吉だと言われると!!」
何時そんな話をしていたんだろう、と真面目に考えてしまった私とは違い、旦那はどこ吹く風といった調子で言い放つ。
「そこまでの事ではあるまい。俺は何もかもが前例のない王だ。新婚旅行の期間が短い程度、いまさらの事だろう」
「こちらにも色々予定があるのですよ!! 王のこれは公務の一種なんですよ!! 公務を適当に切り上げないでください!!」
「……ごめんなさい、私が帰りたいって言ったんです」
旦那がおばば様達や長老様達に囲まれて、色々文句を言われているから、私は急いで間に入って、事実を言った。
私の言葉に、彼ら彼女らは顔を見合せた後、私の顔を見て、何か感じ取った様子だった。
「どうやら、あまり楽しい里帰りにならなかった様子ですね」
「分かります?」
「分かりますとも。そのようにお顔を曇らせて居れば、王の様に表情筋がまるで動かない男でもないのですから、すぐわかります」
「エーダ様はお疲れなのでしょう。話はこちらの王に聞きますので、エーダ様は一足先にお休みなさってくださいな」
「でも、これは私のわがままで予定を狂わせてて」
「エーダ様は何も心配なさらなくていいんですよ。ちょっと王に詳しい話を聞いた後、こちらであれこれ考えなおしますからね」
「……本当にですか?」
実際に私は、さっきからやけに眠たくて、欠伸を抑え込んでいる状態だけれども、彼等は穏やかな声で言う。
「大丈夫ですよ。王の無茶ぶりをどうにかするのが、一族の我々の役目ですからね」
「じゃあ、お言葉に甘えます。……ごめん、すごく眠いから先に寝てる」
「あれだけ歩き回った後だ。それに続けて転移術の魔力にあてられて疲労しているのだろう。エーダ、一人で寝所まで戻れるか」
「子供じゃないんだから大丈夫だって」
私はそう言って歩き出した。
夜更けの城は普段と違うって、見慣れない顔を見せて来る。今までは日中の明るい時間しか歩いてこなかったからか、純白のアラベスタの彫刻とかが、ある程度距離を置いて灯っている明かりの蝋燭の、ゆらりと揺れる炎に、また違った雰囲気を見せて来る。
これは雰囲気がかなりある。ここでお化けとかと出会ったら、きっと悲鳴を上げてしまいそうだ。
そんな事を思いつつ、私はてくてくと慣れ親しんだ、寝床に向かう通路を進んでいった。
結局新婚旅行はどうなったのかというと、長老様とかおばば様とかが、しきたりとか今までの前例あれこれそれとかを鑑みて、やり直す事になった。
一週間近く、新婚夫婦が家を空けるというのは、儀式的な物だったそうで、三日という最短を叩きだした私達は、何か不吉な事があると困るから、という理由で、今回の事は、私の知り合いへの結婚報告に向かっただけ、という形で収まる様子だった。
そしてとりあえず、三日分の仕事を片付けたら、またどこかに今度こそ、本式の新婚旅行に行かなくちゃいけないらしい。
はっきり言って、王様が関わる儀式とか公務とか言われるものって、形重要視しすぎてないだろうか。
でも、故郷の青い国でも、そういう物があるのは知られた話で、王位継承権を持っている人以外、王族様とか公女様とか呼び分けるんだから、それも他国から見れば形だけを重要視しているって言われちゃいそうだ。
そして私は今度こそ、どこに行けばいいのか全く分からなくなった。
旦那が私の意思をそれなりに尊重してくれるのは明らかで、多分私が行きたいと言えば、どこでもある程度は大丈夫だろう。
でも私には、ギルドとか、おかみさんの所とか以外に、行きたい所なんて何一つなくって、さらに言えばこの国の色んな地域については、まだまだ勉強不足なのだ。
一族の女の子とかが、一緒に勉強してくれるし、一般的な見識とかも教えてくれるから、それはすごく助かってる。
何しろ人生の大半で、自分の暮らす町以外に出かけようなんて思う事はなかったから、どこかに出かけようとか、思っても、結局街中のどこかで済んじゃったのだ。
街を渡り歩いたりするのって、女の子には危険がいっぱい過ぎるっていうのも、理由の一つだったりしたけどね。
「エーダ様が好きそうなところってどこでしょう」
「それがわかれば苦労しないの。行きたい所には挨拶しに行っちゃったし」
国の事を学ぶためのお勉強会で、休憩としてお喋りが始まった時、サラさんが問いかけてきたから、私は腕を組んだ。
「私の人生で、こう、憧れのものとかって……あんまり、なくって」
「綺麗な服とか、素敵な小物とか、心が躍る料理道具とか、憧れなかったんですか?」
「綺麗な服はお金がかかるし、素敵な小物をそろえてどうするんだかって思ってたし、お国柄なのかな、私の作れる料理って、結構少ないの」
「やっぱりそれを聞くと、お国柄ですね」
「こっちだと、綺麗な織物も染物も、素敵な小物も、女の子がちょっと頑張れば手に入れられますし。こっちはどの家庭でも、男でも女でも、自炊の能力は求められますし」
余りの事に私は目を見開いた。え、料理するの、男女の差がないの……?
「女の子だけが料理するんじゃないの?」
「まさか! だって男の人じゃないと重たくて扱えない塊肉とかあるでしょう? だから街に出れば、男の人が腕を振るう出店も多いですし、女の人の方が味覚が少し繊細だって事で、香辛料を使った芸の細かい料理を出すところもいっぱいありますし」
「エーダ様の暮らしていた地域では、どんなものを食べていたんですか?」
「……パンとチーズ、それから燕麦のお粥が庶民の一般的な料理だったかな」
「私エーダ様の故郷にお嫁にいけませんね」
「私もそれは思いました。だってこっちだと、毎日女の子でもお肉や卵を食べられますし」
「……本当に?」
「本当ですよ。砂漠羊を飼っている人が多いですし、砂漠鶏なんて町中をうろうろしまくってますし、町のあるオアシスの近辺では、砂漠羊や砂漠豚を放牧している人たちいっぱいですし」
「干し肉の文化があるからじゃないですか? いい時期に一斉に干し肉にしちゃって、一年通して使う生活だから」
「ああ、青い国だと干し肉が腐りそう」
「腐るというかかびそうです」
「湿気が多いとすぐに干し肉はだめになりますしね」
「こっちだと、干し肉と主食と野菜を少ない水で蒸し煮にして、結構な頻度で食べますからね」
「魚は……オアシスが干上がるとすぐにいなくなるものだから、あまり食べませんけどね」
彼女たちの言っている事は納得がいくもので、なるほどな、地域差は森の多い青い国と、砂漠が広く領土を覆っているこの国では、かなりの物であるようだ。
「そうだ、エーダ様も今度お料理の勉強しましょうよ」
「できるかな」
「こっちの料理だって、慣れていた方がいいですよ。たまには王に、手料理をふるまえば、更に王がめろめろに」
「あんたねえ」
マーヌールさんが笑うと、サラさんが呆れた調子で言った。
それをくすくす笑いながら、アヤさんが言う。
「でも、好きな人の手料理って、ぐっときますからね。覚えておいて損はありませんよ」
「エーダ様はナイフの扱いが上手ですから、すぐ覚えられますって」
「それに最初は失敗あってこその料理ですから」
「これは地道な練習がものを言う世界ですからね!」
彼女達はどうやら、私にどうしても料理を教えたいらしい。きっとそういう価値観なのだろう。
そして、私はそれが嫌だと思わなかったから、こう返した。
「今度教えてもらうね」




