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2 居候の仕事

朝ごはんを食べたら、そのまま私とシャルロッテは出勤だ。でも働いている場所は大きく違っている。

ただ同じ道を使っていくから、一緒に行き帰りしているのだ。


「ふあ……あ、昨日も遅くまで針を使っていたから、まだ眠たいわ」


「あんまり根を詰めると体がもたないよ」


可憐な欠伸を上品に手で覆い隠しながら、シャルロッテがぼやく。

体に悪いのは事実なので、私はそれだけ言う事にした。

その理由は簡単だ。


「だってエーダちゃん、宿題の出来で、お給金が変わるのよ? すっごく上手な物を作った子は、お給金も上げてもらえるし、臨時手当だってつくんだから!」


「ロッテちゃんの所は、大繁盛しているお店だから、気前がいいね」


「だからあそこでどうしても働きたくて、針の練習一生懸命やってきたんだもの」


そう、シャルロッテの働いているお店は、今大繁盛のドレスを仕立てるお店で、とっても賃金をはずんでくれる事で知られているのだ。

そこで、働いてお貴族様の流行のドレスを作ったり、最新モードを知ったり、実際にこうかな布地を扱ったりする事に、憧れを抱く女の子は少なくない。

シャルロッテもその一人で、自分で作ったものを持ち込んで売り込み、見事お針子になったのだ。

なれた日は、お祝いだ! という事で、豪勢なソーセージが出たっけ。


「私、ロッテちゃんの努力が実って、嬉しそうに働いているから、うれしいよ」


「ありがとう。……ごめんね、私はあなたのお母さんの消息を、調べられなくて」


私が素直に彼女に言うと、彼女は憂い顔になり、申し訳なさそうにそんな事を言った。

シャルロッテがそんな事、気にしなくっていいのに。


「いいんだよ! 母さんの情報がなくて十年も経つんだから。……もしかしてどこかで生きてくれればいいな、とはすっごく思うけど、ロッテちゃんがきにしたりしなくっていいんだからね!」


それどころか。


「昔、寂しい時とかに、一緒にいてくれたり、母さんの話を聞いてくれたりしたの、すごいうれしかったんだから! ロッテちゃんは十分、私を助けてくれてたよ」


「エーダちゃん……!」


私たちは歩きながら見つめあった。シャルロッテの、澄み渡る紫の瞳に、少し涙がにじんでいる。やっぱり美少女だよなあ……と思った矢先だ。


「おう、受付お嬢さん! なに町一番の美少女泣かせてるんだよ!」


いきなり私の頭は、わしゃわしゃとかき回されて、私はその遠慮のなさにつんのめりかけた。

そしてつんのめる私を無視して、その誰かは、シャルロッテに花を差し出した。花屋さんで買う綺麗なお花だ。おい。


「麗しのシャルロッテさん、ぜひ今度の王子様の誕生祭、俺と回っていただけませんかね?」


花を差し出して話しかける、悪い虫のむこうずねを、私は遠慮なく蹴っ飛ばした。

そう、シャルロッテが一人で歩いていなくても、こうして口説く男は後を絶たないから、私はもしもの時のために、一緒に歩いているわけだ。


「何ロッテちゃんの事を朝っぱらから口説いてるんだよ! これから仕事! 間に合わなかったら、ロッテちゃんの遅刻の理由をあんた謝って、賃金も払ってくれるわけ?」


「いってえ……受付お嬢さん、見逃してくれよー」


「見逃すわけないだろ!」


私が力強く断言すると、シャルロッテがくすくす笑ってこう言った。


「ごめんなさい、私誕生祭は、仕事仲間たちと遊ぶ約束なの。皆でこんなにぎやかなお祭りを見るのは初めてだから、皆でとっても楽しみにしているのよ」


「やーい、ふられてやんのー!」


私が意地悪く言うと、男はううう、とうめいてから、こう言った。


「それは残念。是非お友達と楽しんでクダサイ……」


涙が見えた気がしたものの、私は気にしない事にした。

だって誕生祭が近付いてからこっち、シャルロッテを誘う男連中が後を絶たないのだ。

毎日毎日、行きや帰りに声がかけられる。いい加減諦めろよと思う奴までいるものだから、いかにシャルロッテが憧れの美少女か、わかるものである。


「そういうわけで、ケビン、ほら、行った行った!」


「犬みたいに追い払わないでくれってば! 受付お嬢さん、一緒に行こうじゃないか」


「それはいいけど」


話しかけた男性……ケビンが私にそう言うから、私は素直に頷いた。

そしてちょうどシャルロッテの働くお店が目の前になったから、私たちはそこで別れた。


「じゃあねロッテちゃん、帰りはお店の裏で待っててね!」


「またねエーダちゃん!」


彼女がちゃんと店の中に入った事まで確認して、私は待っていたケビンと歩き出した。


「まったく……女の子なのに騎士様みたいだよ、受付お嬢さんは」


「だってケビン、ロッテちゃんはあなたの言う通り、町一番の美少女なんだよ? いかにも巻き込まれやすそうじゃん。もしも何か酷い事に巻き込まれたら、おかみさんも旦那さんも、私も、死ぬほど後悔するんだよ? だから行と帰りは一緒に帰るんだから!」


「受付お嬢さんは、ギルドの皆に護身術習ってたもんな」


「短剣のジャハネッドじいさんとか、盗賊のスアハばあちゃんとか、私に喜んで教えてくれるからね!」


私が胸を張ると、ケビンがぼそっと


「だから悪い虫がつかないんだけどなあ……自覚ないんだよなあ……」


というから、私は笑い飛ばした。


「悪い虫もへったくれもないでしょ! 私はロッテちゃんみたいな美少女じゃないんだから!」


そう、私は美少女とは縁もゆかりもない感じだ。髪の毛こそ目立つ、燃え盛るような赤い髪をしているけれども、目鼻立ちもぱっとしないし、声も可憐とは言い難い低めの声だし、母さんの美女要素を欠片も受け継がなかったのだ。

母さんは小さい頃それを


「お父さんに似てくれてうれしいわ」


と言っていたから、赤毛もぱっとしない顔も、顔も知らない父さんの血なのだろう、と思っている。


「受付お嬢さんは、美少女じゃないけど、可愛い系だよ」


ケビンが慰めを言う物の、私はジトっとした目を向けた。


「慰めたからって、ロッテちゃんへの仲介はしないからな!」


「ばれたか……」


そんな事を言いながら、私たちは、この町でも一、二を争う名門冒険者ギルド、黄金の牡牛亭に到着していた。


「じゃあねケビン、一緒に歩いてくれてありがとう。今日も仕事が成功する事を祈っているよ」


「ああ、ありがとう受付お嬢さん!」


私はそこで裏口に回り、ケビンは表口に回る。

裏口に回ってから、私は中に入り、すでにいろんな人が仕事の受注のために来ているからか、裏からもにぎわっているのが分かる中を進み、通路を進んで依頼受付のカウンターまで向かった。

カウンターの前では、早番の人が数人来ている。私は別に遅れていないけれど、物音からこちらを見た人が、私を確認して、助かった、という顔をした。

そのため私は、空いていたところに座り、朗らかに並んでいる人たちへ声をかけた。


「三番カウンター、空きましたよ!」


そう、私の仕事は冒険者ギルドの受付。依頼受付をしているのだった。


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