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残念ながら、母の娘はそこの美少女ではなく私です!!!コミカライズ中!  作者: 家具付
外伝1 泥棒と私 ※本編と雰囲気違い過ぎます。ご注意ください

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11 馬子にも衣装にすらならず

このまま今日一日は、寝て過ごしたいな、と思っても、必須単位と言っても過言ではないという、初夏の舞踏会への参加をさぼるわけにはいかないのだ。

さぼってもいいけど、その後また、ひそひそくすくす、厭味の嵐および教員の白い目、とさぼった時の利点とさぼらなかった時の利点を考えるに、さぼらない方に軍配は上がるわけなのだ。

夜の舞踏会が一番本格的な大事な所で、昼は準備とかがあるからまだ寝ててもよくて。

今の時間から、他の正統派なお姫様たちは、衣装をどういう組み合わせで使うかとか、化粧はどの感じでやるかとか、髪型どうするかとか、そういう事を一生懸命にしている頃だろう。

私のように、全て侍女任せで、ごろ寝している女の子は、いないに違いない。

たとえ実家で虐げられていたお姫様だったとしても、この初夏の舞踏会で、いい人を捕まえれば、実家のあれこれから逃げられるし、場合によっては実家が利益を優先させて、そのお姫様を大事に扱う方向にもなると聞いた。

あくまでも、女の子たちの噂話から総合した事だけど、きっとそれは事実だ。

お貴族様は、お家が大事。家名という物に命を懸けている。

家の利益になる結婚や恋愛をするのであれば、疎んじている娘だって、後の事を考えて大事に扱い直すものであろう。現金っちゃ現金だけど、そんな話は庶民の間でだって転がりまくっている事実の一つだ。

天井を見てまどろんで、目を覚ましたら水差しから水を飲んでまた寝て、を繰り返して、とうとう、そろそろ動き出さなくちゃ間に合わない時間になってしまった。

そのため私は、ぼさぼさになった髪の毛を適当にまとめて、制服を着て、頬をばっちんと叩いて気合を入れて、塔の階段を下りて行った。

階段を下ってシャルロッテの部屋に行くと、シャルロッテの部屋の扉の向こうでは、ばったんばったんという忙しない音が響いていた。あと布地の音もすごい。

あの子どれだけドレスを広げているんだろう、ありったけ広げている気がするわ、と思いつつ扉を開けると、色の洪水のように、ドレスが出せるだけ広げられていた。


「あ、エーダ様! もう大丈夫なんですね」


「そろそろ支度をしないと、夕方からの舞踏会に間に合わないでしょう」


「そうですね。エーダ様、どれにします? どれでも身頃の調整はすぐに行えますよ! そういうやつを選びました!」


選んでこんなにたくさん広げたんだ……


「……どれでもいいわよ、あなたが選んで」


これを聞き、またシャルロッテの敬語がはがれた。


「またエーダちゃん面白くない事言う! 初舞踏会なのに、気合い入れなさ過ぎ! エーダちゃんが格好いい王子様と出会うかもしれないのに! エーダちゃんが気合い入れてドレス選ばないでどうするの!」


シャルロッテがふくれっ面をした。そりゃあ、ドレス好きが高じて、町一番の仕立て屋のお針子になって、技術を認められたけど、意見の相違で店を辞めたシャルロッテからすれば、私の乗り気じゃない感じは、面白くないし楽しくないだろう。


「……大体、私に似合うお姫様ドレスなんてないわよ」


私がぼそっと事実を言うと、シャルロッテが泣き出しそうな顔で私の手を握った。


「エーダちゃんだって、可愛い女の子なんだよ! 女の子はお姫様になれるんだよ!? そんな事言わないでよ」


「いや、客観的に見ればわかるでしょう。肉付きも悪いし、顔もぱっとしないし、美人の条件になるつやつやの長いまっすぐな髪の毛でもないし。まして一番残念って言われる、赤毛の癖毛だよ」


美人の条件はつやつやのまっすぐな髪の毛である、というのは万国共通の物だ。

つやつやの波打つ髪の毛でも、美人はいるが、美人の顔じゃなかったらそう判断はされない。

赤毛は不美人。これも割と共通の認識の一つだ。血の色に似ているからだという。

しかし、単なる事実を並べただけなのに、シャルロッテは目じりを吊り上げた。


「エーダちゃんは自分を残念に見すぎ!! もうわかった! 私がエーダちゃんをとびっきりのお姫様に仕上げるからね! 本気出すから!」


事実を並べてこんなに、シャルロッテが怒り狂う顔をするなんて、思いもよらなかった私は、彼女の迫力満点の顔に、頷くしかなかった。

でも心の中で、どう頑張っても、シャルロッテみたいな、お姫様みたいな姿にはならないよな、と判断していたのだった。




実際に衣装を見繕い、髪型を仕上げて、化粧を施しても、私としては、ぎりぎりお嬢様、とてもお姫様ではないな、と思う仕上がりにしかならなかった。

シャルロッテの方は、自分の実力を総動員してくれた。それは間違いないし、本気で私を綺麗にしようとしてくれた。

それなのに、私は、平凡、中の中くらいまでしか、格上げされなかったのだ。

しかし私のお姫様としての風貌は、下の中くらいだったから、相当シャルロッテが頑張ったのは間違いない事だった。

でも、私は鏡の中に出来上がった自分を見ても、綺麗だな、とか素敵だな、とか思わなかった。

感じたのは、居心地の悪さだった。何でこんな事してるんだろうって、シャルロッテにはすごく申し訳ないけど、思ってしまったのだ。

綺麗なドレスラインに仕上げるために、たっぷり詰め物を入れたおっぱいとか、スカート部分を膨らませるための大量のパニエとか、それらは一枚一枚はそこまでの重さじゃないんだけど、こうもたくさん使うと、ずっしり重たかった。

それはちょっと消耗ぎみの今、すごく重りみたいだったけど、それを伝えられなかった。

使わない選択肢もあったのだけれど、そうするとあまりにも、貧相な感じになってしまって、見栄えが悪すぎたから、シャルロッテは詰め物を大量に使用する事を選んでくれたのだ。

その代わりと言っちゃなんだけど、胴回りはすごく楽になっている。シャルロッテの渾身の調整の結果だった。

髪の毛もしっかり結い上げて、それに金の鎖で編まれたヘアネットをかぶせて、豪華な仕上がりにはなっている。

衣装だって布地は最高級だし、モードの方だって最先端の流行だ。

それでも、私は、綺麗な女の子、とはとても言えない見た目だった。

なんというか、顔立ちがまあまあな男の子が、一生懸命に頑張って女装したという感じが否めない。

何でだろうと考えた後、肩の線とかが、シャルロッテと違って、結構硬質な線を描いているのと、全体的な、ふっくらした女性的な肉付きのなさの結果だと、気付いて何とも言えなかった。

いかに肉と脂肪が、女性らしい線を描くものかってのが改めて実感させられるわけだ。

ドレスのデザインの都合で、肩はむき出しだから、そこに詰め物をして誤魔化す事は出来ない事情もある。

そんな事を客観的に思っていた私と違って、シャルロッテは泣きそうだった。


「なんでうまくいかないの……っ!」


「ロッテちゃんが着飾る時と、私が着飾る時じゃ、条件が色々違うからだよ。泣かないで。ロッテちゃんはすごーく頑張ってくれたよ」


「だって、だって、もっと美人にするはずだったのにぃ!」


喋っているうちに悔しくなってきたのか、シャルロッテの眼からぽろぽろと涙がこぼれだす。

綺麗になれない自分が、なんだかすごく申し訳なく思った。

その感情のままにシャルロッテを抱きしめて、頭を撫でて、私は、繰り返した。


「泣かないでよ、すごく見違えたから」


嘘も貫けばまことになる。ええっと、嘘から出た実って奴だ。

だから私は、綺麗になった自分を見違えた、というふりをした。これ以上泣かれたくなかったから。


「本当に?」


「うん。今日の私は、今年一番の美人の私だよ!」


だから安心して、と笑いかけると、シャルロッテはごしごしと目をこすって泣き止んだ。


「じゃあ、舞踏会、楽しんできてね、私は入れないけど、侍女の皆さんと情報収集するから! エーダちゃんがもっと、学校が楽になるように、色々やってみるから!」


「何時も色々ありがとう、ロッテちゃん」


いじらしいと思っちゃって、私はぎゅうっとシャルロッテを抱きしめた。親友にこんな事を言わせて、私は何をしているんだろうって、思ったくらいだった。




初夏の舞踏会に出席した証明として、リストに署名をする。受付嬢の頃から、署名だけは見栄えが良く綺麗にする事が求められてきたから、そこだけは綺麗な文字を書けるのだ。

署名をしたら会場入りして、開催の音頭を学園長が行うわけだ。それからダンスとか社交が大々的に行われる。

私は割と会場入りが遅かった方で、準備に手間取る人は遅くなるから、それに対しての厭味はない。

それにしても……会場にいるお姫様は在学している人全員で、すごい人数だ。

そしてこの舞踏会に招待されている貴族男子も、かなりの数である。

かなりたくさんの国から招待されている様子で、見知らぬ風貌の人とか、異国情緒のある服装の人とかもそれなりにいる。

まるで大規模なお見合いみたいだ。あながち間違いじゃないだろうけどね。

貴族男子は大なり小なり、間違いなくお姫様である在学生と、縁を結びたいんだろう。

お姫様である在学生も、いい結婚を求めて、舞踏会で泳ぎ回るに違いない。

私は、さっさと教員のどなたかと課題であるダンスを踊ったら、部屋に戻る事しか考えてない。

着付けの間に、シャルロッテは色々根回しをした事を教えてくれた。

教員の中には、侍女の料理で体調を崩した私が、長い時間舞踏会にはいられないだろう、という一般的感覚を持つ人もいて、その人が他の教員たちにも、あの子は体調がすぐれないからダンスの課題の後はすぐに退出しても、怒らないようにと言ってくれているそうだ。

もしかしたら、私と直接授業で会話する教員以外は、ましな感性の人の方が多いのかも。つまりくじ運みたいなものが、悪かったんじゃないかと思う。

早く、学園長の音頭始まって終わってほしい。

そんな事を考えつつ、私は生徒グループの近くで立っていて、開始の時刻とともに学園長が、舞踏会開催の音頭を取り、演奏家たちがダンスの曲を奏で始めたのだった。


「聞いた? 今回の舞踏会では、普段招待を拒否する国の重鎮も出席しているそうですわ」


「それも複数だと聞いておりますわ」


「今年の初夏の舞踏会は、本当に、本気を出さなくてはなりませんわね」


お姫様たちがひそやかに喋っている。私はそんな人たちの隙間を縫って、シャルロッテが話を通してくれた教員に話しかけた。


「すみません、課題のために一曲躍っていただけませんか」


「体調があまりよくないと聞いていますが、本当に顔色が悪いですね。早く終わらせて、直ぐに部屋に戻れるようにしましょう。今までよく、がんばって立っていてくれましたね」


教員のその人は優しい事を言ってくれたから、やっぱり教員によって対応は千差万別だな、とちょっと泣きそうになった。私の当たってきた教員って、あんまり褒められない側だったんだなというわけだ。

とにかくその教員の方は、すすす、とダンスフロアに私と出てくれて、一番短い曲を一曲分踊ってくれて、直ぐにダンスフロアから遠ざけてくれた。


「眼は回っていませんね? 一人で立っていられますね? どんどん蒼褪めていくから、倒れるんじゃないかと不安で仕方ありませんでしたよ。でもすみません、私もここから離れるわけにはいかないので、自分だけで帰れますね?」


教員の人はそう言って、私はこくりと頷いた。そして色々な考えを持っている人たちの間を縫って、舞踏会の会場から出て行こうとした。

しかしそれは、意外な形で阻まれたのだ。


「もし。お体の具合が悪いのだろうか」


人の間を縫って歩いていた時、いつまでたっても慣れない高い踵の靴で、私はうっかりよろめいたのだ。

よろめいて、運悪く近くに立っていた人に、ぶつかってしまったわけだ。


「ご、ごめんなさい」


私はすぐさま謝って、その人から離れようとしたのだけれど、その人はずいぶんと私より高い位置にある頭を、私に向けて、こっちを見下ろしていた。

それから、私の肩に、そっと手が乗せられている。軽く支えられている状態だと、気付いたのはすぐだった。


「だ、大丈夫です、少し空気にあてられただけですから」


そう言いつつ、私はやんわりとその人から離れようとして、でも、軽く、本当に軽く、肩に乗せられた手に力がかかっただけで、動けなくなってしまったのだ。

その人は、純度が極めて高い黄金みたいな色の瞳で、私を見下ろしていた。

美男子、という顔ではない。イケメン? そんなやわっちいなよなよした印象さえ与えてしまう顔では、もっとない。

その人は、迫力と覇気を持った顔の人で、眼光は鋭いし、表情は読めないし、この会場にいるお姫様の大部分が、怖くて泣き出しちゃうものを持っていた。

肌の色は浅黒い。確か大河の向こうの土地の人は、浅黒い肌が多いと授業で言っていたから、出身はそっちかもしれない。

体つきも、迫力のある人だった。こっちの国の人は、筋肉がたっぷり乗った体の人ってあまりいない。王族とか上流階級だったら、剣を持たなくても生きていける事はステイタスの一種だから、なよっちい体つきの人も多い。

この会場にいる貴族男子のほとんどが、そんな体つきだ。

でもこの人は違った。

戦う事、剣をとる事、そう言った事が当たり前で、それを恥だと思っていないと、漠然と感じる人だった。

私にとっては、馴染んだ感情を呼び起こす人でもあった。

例えば、一時的にギルド同士の協力のためにやってきた、異国の猛者に対する憧れとか、うらやましさとか、そんな物を。

よくわからない、仮面みたいな笑顔を張り付けて会話する人達よりも、肩の力が抜ける人だったのだ。ここまでこわもてで異風体の人相手に、そんな感情が湧くのは、ちょっとなんだかな、と思っちゃうけれども。

私は、ぱっと見でそれだけ見て取った。見て取った後に、その人の着ている衣装とかは、相当なお金持ちで、上流階級のもので、この舞踏会に来る事に対して何ら瑕のない物だと気が付いた。

いったいこの人は何者なのだろう。

というか、いい加減に肩から手を離してほしいと思った。その手は力が込められていないのに、奇妙に動きを封じる手のひらだった。

肩に相手の体温を感じながら、私は相手の硬質な線を描く唇が動くのを、見ていた。


「本当に? では外まで案内しよう」


……後からこの言葉を思い出して、これに対する選択肢が違っていれば、私の運命というか人生は、また違ったものになったんだろうな、と思う事がある。

どれが最善策だったかなんて、分かる事は一生ないだろうけれども。

ただ私がこの時出来たのは、その言葉の低い落ち着いた響きに、こくり、と頷く事だけだった。


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