表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/68

1 居候の朝

明け方に、街中に鳴り響く鐘の音が聞こえて来て、私は否応なく起こされた。

起きてすぐに寝台からはい出して、私は身なりを整えて、三角巾を被って、掃除道具を片手に、他の誰もが寝ている家を出る。

私の仕事はまず、家の前の掃き掃除だ。大家さん……おかみさんが持っている建物はいくつかあって、私はその建物の共有部を、軽く掃除するのだ。

明け方なら、とりあえず誰にも邪魔されずに、掃除ができる。

せっせと掃き掃除をして、あらかたのごみを取り除くと、それだけで周囲がすっきりとして見えるから、私はこの掃除も好きだ。

それが終わったら、次は台所に火をつける番だ。まずは近くの公共の井戸で水を汲み、木でできた桶に入れて、台所のかまどの前に置く。それから私は、昨日の灰をかき出して、新たに薪を組んで、火を熾すのだ。灰は、近隣の農村部で、肥料にするそうで、指定の位置まで運んでいく。結構重たい仕事だが、これもすっかり慣れたから、大した事ではない。

火を熾したら、次は朝食の支度だ。麦のお粥を煮ている間に、牛乳を売る人が通りを歩いてくるから、いつも牛乳を買う。

からんからんという鐘の音、ほら、牛乳売りがやってきた。

私はブリキの入れ物を手に取って、勝手口から家を出る。

それ位の時間になると、ちらほらと、起きている人が現れ始めるので、私だけが牛乳を買うわけではない。


「おはよう、エーダ」


牛乳売りの人が、常連である私に、声をかけてくれる。エーダというのは私の名前だ。少し変わった響きの名前だから、覚えられやすい。


「おはよう、今日もいい日だといいですね」


「そうだよなあ!」


そんなやり取りをして、銅貨一枚を手渡して、私は牛乳がこぼれないように気をつけながら、家に戻る。

その頃には、おかみさんが起きだしてくれているから、私は牛乳を台所に置いた。

今日もおかみさんが、麦の粥を、焦げないようにかき回してくれていた。


「おかみさん、おはようございます」


「おはよう、エーダ。牛乳はちゃんと買えた?」


「今日は売り切れる前に、ちゃんと買えたよ」


「たまに売り切れるからね。買えてよかった」


「シャルロッテはまだ寝ているの?」


「昨日遅くまで、縫物の宿題をしていたみたいだからね。全く、見習いの針子に、縫物の宿題なんてさせないでほしいものだよ」


「じゃあ起こす?」


「そうだね、お粥が冷める前に起こしてちょうだい」


「わかった!」


私は、お粥の面倒をおかみさんに任せて、家の二階にあるシャルロッテの部屋の扉を叩いた。


「ロッテ、ロッテちゃん! 朝だよ、起きる時間だよ!」


しーん。返事がない。だから私は、さらに強く扉を叩く。


「ロッテちゃん! 朝! 朝!!」


これの後に耳を澄ませても、部屋の中で動く気配がない。

仕方がない。私は扉を開けて、いたるところに散らばっている布地を踏まないようにしながら、寝台の中で丸まっている、彼女に手を伸ばした。


「ロッテちゃん! 遅刻したら給料減るんでしょ! もうすぐお祭りだから、忙しいって言ってたじゃん!」


手を伸ばして、結構強く揺り起こすと、のそのそとした動きの後に、寝台の持ち主が、目を開ける。

ぱっちりした瞳は紫色、そして髪の毛は艶のある銀色、整った目鼻立ち、今日もシャルロッテは美少女だ。でも、寝ぼけ眼だから、ちょっと抜けて見えた。


「もうそんな時間……?」


「時間だよ! おはようロッテちゃん」


「おはよう、エーダちゃん」


ふわあ、と可憐な欠伸をしたシャルロッテが、起き上がって、着替えるために動き出す。

それを見届けて、私は階下に降りて行った。

階下では、起きてきた旦那さんが、朝食を待っている。待っている間にめくられているのは、厚めの本だ。旦那さんは大通りにお店を構えている所の、帳簿の計算をする仕事をしている。

計算が早いのが自慢だし、計算の速さで出世した人でもある。

彼が顔をあげて、私に声をかけてきた。


「おはようエーダ。貸家の周囲で、酔っ払いに絡まれなかったかい」


「おはようございます、今日もそう言う人に出会わなかったですよ」


「それはよかった。シャルロッテはまだ寝ているのかい?」


「今起きて着替えてると思う」


「シャルロッテは、夜更かしなのがよくないね」


「あんた! 仕方がないだろう? 昼間は仕事、時間が空くのが夜なんだから。それにシャルロッテは、裁縫の宿題もあるんだ」


「そうだったね」


おかみさんと旦那さんが、そんなやり取りをして、テーブルにお粥の入ったお皿を並べる。そこに牛乳が置かれて、支度は整った。味付けは各自である。

そしてその頃になると、身支度を整えたシャルロッテも、階下にやって来るのだ。


「おはよう、父さん、母さん」


「おはよう」


「おはよう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ