4 お姫様学校
大幅改稿したため、中身が前と全く違います、ご注意ください!!
ちょっとだけまた訂正かけました!
とにかく延々と馬車に乗る時間だった。いくらなんでも、こんなにお母さんの領地から離れているとは思わなかったくらいに、長い間馬車に乗っている。
「これ、ギルド経由で手紙を送ったらいくらかかるんだろう……」
「そこでギルドの郵便料金を計算し始めちゃうエーダちゃん、受付歴長いもんね」
「そりゃあ、十二歳から、お母さんの情報を集めるために、頭下げまくってギルドの受付になったからね」
「だから、他の人は名前で呼ばれてたのに、エーダちゃんだけ受付お嬢さんって呼ばれてたんだもんね」
「間違いがないから楽。今はエーダとさえ皆呼んでくれないから、ロッテちゃんが呼んでくれるとほっとする」
「お城の人たちは、エーダ様とか、そんな風に呼ばないの?」
「なんかものすごく言いにくそうに、姫様って呼ぶ」
それは仕方がない事だと思う。だって私は、領地のお城勤めの人よりも、ずっとお給金が低い生活を続けていて、立ち振る舞いとかにそんなのは、どうしたってにじむのだ。
お母さんみたいに、黙って座っているだけでも、気品のにじむ、すごいお姫様とかなら、たとえ針仕事してても、すごいお姫様に見えるのだろうけれど、私は立てば庶民で座れば猫背、歩く姿は大股闊歩という、お姫様扱いがとても似合わない女の子だから、皆頭が受け付けないんだろうと、思っている。
受け付けない人は仕方がないし、そう思われる事をしているのは私の方で、彼等に無礼だの何だのというのは、ちょっと違う気がするんだ。
いきなり、現れたお姫様が、お姫様とはとても言えない、平凡顔で立ち振る舞いも落第点の女の子だったら。
お姫様として敬うなんてとても出来っこないだろうしね。
「エーダちゃんが、リリーさんの娘なのは否定しようのない事実なのに……皆そんな風なのはおかしいよ」
「でもロッテちゃん、考えてみてよ。私のあれこれ。灰かぶりのお姫様は、王子様とダンスが出来るだけの教養があったから、お城で受け入れられたんだよ。その段階ですらない私が、突然お姫様として登場したら、物語の中ではド顰蹙ものでしょ? それと一緒」
「……でも」
ロッテちゃんは何か言いたそうだった。でもそれ以上言えなくて黙ったから、私は外を眺める事にした。
外は雨が降り出している。なかなか強い雨で、これは進むのに支障が出るだろうな、と馬車に詳しくはないだろう私でも、わかる位だった。
そして一晩、中継地点の町の高級宿で夜を過ごして、また馬車に乗って、夕方。
私たちは、お姫様学校に到着したのだった。
初めて見る、お姫様学校という未知の世界の建物は……すごかった。
「城だね」
「お城だね……」
そのお姫様学校の建造物は、高くそびえる感じではないけれど、お城と言って間違いのない建物だった。すごすぎると思う位だ。
「下は領地のお姫様、上は一国どころか、帝国のお姫様まで通う学校だから、そりゃ建物もすごいか」
私はそう言って納得しようとして、馬車の扉が開いたから下りた。
降りて周りを見回すと、一人の女性が近付いてくる。質素なお洋服を着た女性で、彼女は私を見て頭を一度下げた。
「ようこそ、エリーゼ貴族学校へ。私は案内役のレナと言います」
「初めまして、レナ様。私はエーダと申します」
馬車を降りて、とりあえず頭の中に叩き込んでおいたお嬢様のお辞儀をする。
ただ……私が名乗った時、レナさんの顔がちょっと変わったのが気になったけれど、きっと私の立ち振る舞いが、なっていないからだろうと判断した。
「こちらは侍女のシャルロッテです」
「初めまして、レナ様」
シャルロッテも一礼する。美少女っぷりが頂点を突破しているから、ちょっとぎこちない動作でも、すごく気品のあるお嬢様に見える。
やっぱり見た目補正ってあるんだな、なんて思っちゃいながらも、私達がレナさんを見ると、レナさんは私達を促した。
「これから、学園長室へご案内させていただきます。シャルロッテさん、必要書類を渡していただけますか?」
「はい」
そっか、侍女というくくりで来ているから、こう言う仕事をするのはシャルロッテなんだな、とここで私は知った。シャルロッテはすっとなめらかな動作で、レナさんに必要書類を差し出す。
質のいい封筒と必要書類の書面だ。
それを受け取ってから、レナさんが頷く。
「それでは、ご案内します」
「はい」
よし、ちゃんと書類も渡したわけだし、これで大丈夫だろう。
確認した後、私達は彼女に先導されて、すごいお城な建物の中に、入ったのだった。
お城の中は、もう、お姫様がたくさん入学する場所だな、と思う華やかさがあった。実に女性的な壁紙を使っているし、通路に敷かれている絨毯とか、飾られている物とかの雰囲気は、若い女性たちが好みそうな感じで統一されている。
寄付とかすごいんだろうな、とお金の計算を始めたくなる、くらいだ。
シャルロッテは目をきらきらさせて、周囲をきょろきょろ見回している。私もそうしたいけれど、通路をちゃんと覚える所からしっかりしないと、もしもの時に困るから、そっちに集中している所だ。
歩きながら、頭の中で見取り図を作らなくちゃいけないのだ。
そんな風に歩き続けて、そして私たちは階段を上がった。その時だ。
「きゃあ!」
女の子の悲鳴が上から響いて、あ、と思ったら実際に女の子が一人と、彼女を案内していたのだろうか? レナさんと同じような服を着た女性が、階段の上の方から、転がり落ちていたのだ。
その時、とっさに動けたのは私だけで、私は先導していたレナさんを無視して飛び出して、その女の子を、がっちり受け止めようとしたのだ。
でも、ここで、お姫様とかお嬢様が履くような、華奢な靴を履いていた事が災いした。
そんな物じゃなくて、ギルド受付嬢とかに支給されている、頑丈な靴だったら踏ん張れたのに、華奢な踵の靴は、二人分の体重なんて受け止めるわけもなく、ぽっきり折れちゃったのだ。
だから。
「ぎゃあ!」
私は可愛げのないカエルが潰れたような悲鳴を上げて、女の子を抱きかかえたまま、一緒に階段を転がったのである。
でも、女の子を意地でも庇ったから、結構しっかり私は階段にぶつかりまくったけど、彼女は大丈夫なはずである。
そして、階段の一番下まで転がり落ちた私達はやっと停止して、そこで何とか、私は彼女を見た。
同じような物音を脇で聞いたから、そっちを見ると、レナさんと女性が、ぶつかって、やっぱり私達みたいに階段を転がり落ちていたらしい。
ううう、と二人してうめいていた。大丈夫だろうか、受け身とか取れただろうか?
まずはこの女の子に、大丈夫か聞いてみよう。
「大丈夫?」
「ふ、ふええええ……」
彼女は私に声をかけられるや否や、ふるふると震えて、ぽたぽたと涙をこぼし始めたのだ。
うん、階段を転がり落ちるって、結構衝撃だし、階段の段数多かったから、えんえんと転がったし、怖かったんだろうな。
そのため、私は彼女を安心させるために、笑いかけた。
「大丈夫? どこか痛い所はない? 怪我してない?」
彼女は私の言葉を聞き、ぽかんとした顔になった後、首を振った。優雅な動作だった。さすがお姫様の一人である。
「大丈夫です……あの、あなたは」
「私? 私は頑丈な体だからね! 大丈夫、大丈夫!」
にぱっと小さい子に笑いかけるように笑うと、彼女はほっとした表情になって、そして、急ぎながらも足音を立てないようにして、必死に階段を降りてきたシャルロッテが、私達に聞く。
「大丈夫ですか!! どちらも、お怪我をしておりませんか!?」
すげえ。シャルロッテあっという間に上品な女の子になった! と切り替えの早さに感動しつつ、私は頷いた。
「大丈夫。彼女も大丈夫だって」
「良かった……」
「す、すみません……」
彼女は怯えたような顔で謝って来る。別に階段を踏み外した事を怒る理由もないから、私は彼女に笑ったまま言う。
「謝る事全然ないから。……にしても、レナさん達二人して書類ぶちまけたね」
「あっ……」
私が笑いながら言うと、彼女は慌てて身を起こし、立ち上がって、書類を拾い集めようとした。
でもそれを、階段を急いで降りてきた彼女の侍女と、立ち上がったレナさんともう一人が制止する。
「お二人は拾わなくて大丈夫ですよ。私たちが拾います」
シャルロッテが制止しなかったのは、私のぽっきりと踵の折れた靴を何とかするべく。持っていた鞄の中から、驚いた事に接着剤を取り出して、修繕を始めていたからである。
仕立て屋という物は、靴なども一組まとめて注文される事が多いから、お針子の女の子は、靴の即席の修理方法とかに詳しくなるのだ……と前に聞いた事がある。
彼女の侍女と、レナさん達が書類を集めて封筒に入れている。結構ぶちまけたけれど、枚数とか大丈夫そうだ。彼女たちの反応を見る限りでは。
「どうぞ」
女の子の侍女さんが、レナさん達に、集めた書類の数枚を手渡している。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「エーダ様、靴くっつきました!」
「あ、ありがとう、良かった」
「もしもくっつかなかったら、私の靴を履いていただくところでした」
「無理でしょ。あなたの方がかなり足小さいんだから」
「でも」
「くっついたんだからそれでよし!」
私がそう言って手を叩き、その場でのやり取りは終わった。
そして階段を上がり直して、私達は皆一緒に、学園長がいるという部屋の前まで、歩いたのだった。




