11 騒ぎの前の段階で
さて私はどうしたいだろう。私は少しだけ考えた。私の希望はどうするか。
私の代わりとして、シャルロッテを母さんと引き合わせるのを、認めるか認めないか。
そんなの絶対に認めないに決まっている、だって母さんの娘は私で、シャルロッテはおかみさんたちの大事な大事な一人娘だ。
私がいいと言った所で、おかみさんたちが返せと声を大にして、言うに間違いない。
そしてもともと、私は私だと偽らせてまで、シャルロッテを母さんにあわせる理由もない。
私が、どうしても自分を母さんにあわせられないと思っているなんて、そんな事は絶対にない。
私は母さんと再会した時に何も後ろ暗い事がないくらい、ちゃんと人生を生きてきたんだから!
堂々と胸を張って、あなたの娘はこんなに立派に育ちました! と言える人間になると決めて、私はどんなに職場のギルドで酔っ払いに絡まれても、果敢に立ち向かって来たのだ。
どんなにすごまれても、泣き叫んだりしてこなかったのだ。
母さんに、堂々と再会するために!
「君はこれからどうするんだ」
「どうもこうもない! 母さんに会う! 母さんがここにいるんでしょう!」
力いっぱい断言した私の眼の中に、何を見たんだろう。王族様はしばし私の目を見て動揺したように、瞳を揺らした。
「そんなにきっぱりはっきり、私に言えるだけの心があるとは思わなかった」
「私は絶対に母さんに会いたい! それにロッテちゃんを助けたい!」
「その心に偽りはないな?」
何でそんなことを確認してくるんだろう。
怪訝な顔をしたこっちを見て、王族様は頷いた。
「まずはその問題の皇女様が、君のお母さんか、君が見極めるべきだろう」
それはそうかもしれない。状況的に母さんで間違いないけれど、違う人の可能性もあるのだ。
私は母さんかどうか、見極めることも必要だな、と彼のいう事にも一理あると判断した。
「そのためにはまず、君がお母さんであろう皇女様を、見なくちゃいけないわけだが……そうだな、この時しかないかもしれない」
この時が、どの時かはわからなかったものの、私の悪いようにはならない、と彼の言い方から判断した。
だからは私は身を乗り出して、こう言った。
「協力してください、王族様。私を母さんにあわせて!」
「君が本物の皇女様の娘である場合、公爵は色々な罪を犯している事になるしな」
「?」
私たちを問答無用で牢屋に突っ込んだ事、シャルロッテを誘拐した事、その他に何かあるみたいな事を、彼は匂わせていたものの、私に詳しく言うつもりはないのだろう。
それは私が知ってはいけない事なのかもしれない。
その可能性があるからこそ、私は私たちを守るために、その中身を聞かなかった。
「こう言う作戦があるんだが、聞いてくれるか」
お人よしであろう王族様が、私にその作戦を聞かせてくれる。
だから私は頷いた。
その時だった。
「王族様、調べが取れました。どうやらそちらのご夫婦の一人娘は、銀髪菫の瞳であり、赤毛の平凡顔ではないそうです。赤毛の方が、いきなり母親がいなくなったから引き取ったと、近隣の住人が快く教えてくれました。というか、公爵の配下たちがおこした騒ぎで、連れて行かれた彼等を皆心配しており、ギルドに訴えに行こうかと相談していたため、それはまだやめてくれと説得する羽目になりましたよ……」
現れたのは、どこにでも溶け込みそうな、平凡な顔をした男性で、ちょっと頭が寂しかった。いかにもどこにでもいそうな、普通というものを型ではめ込んで作ったような人だった。
こう言う人を、王族様は雇っていたのか。なるほど、誰でもするりと口を開きそうな人でもある。気安い感じもするし、親しみを持てる感じもする。この人は有能には見えないけれど、それもこの人の計算なのかもしれなかった。
「本当か?」
「ええ、連れて行かれた夫婦は、それはそれは人望の在る下町の大家さん一家だそうで、家を借りている人間もその近所も近くの出店の子供も、皆心配していましたよ。いないから家賃を払わなくていいとか、言っている店子が一人もいない所からも、人望の厚さがうかがえましたね」
「その夫婦の一人娘は間違いなく、銀髪に菫の瞳なんだな?」
「ええ! 小さい頃から界隈で評判の美少女だったそうですよ、よちよち歩きの時から、そりゃあもう可愛くてかわいくて、近所で可愛がっていない大人なんていなかったとか。近所の若者たちも、何としてでも彼女に一目と思って、近くを通ろうとしているとか。彼らにひとしきり聞いてみたところ、おかみさんが産んだのは間違いなく、銀髪に菫の瞳の可憐な美少女で、その美少女はおかみさんの妹さんにそっくりだ、と言っている老人などもちらほら」
「……間違いようがないな」
「それと、若者の一人が、数日前にこのあたりで似たような事を聞かれた事を、記憶していました。彼はあそこに娘がいるかどうかを聞かれたため、銀髪の大変美しい娘と、その娘ととても仲のいい平凡顔の娘がいる、と答えたそうです。何でもこのあたりで、おかみさんの娘が超絶美少女だというのを知らない人間はいないから、詳しい事などを言わなかったらしいです」
王族様はそれを聞いて頭を抱えた。私も思った、聞き込み調査杜撰過ぎないかそれ……
しかし、美貌の皇女様と共通点の在る娘を探していた人たちからしてみれば、これ以上ない一致した物だったのかもしれない。
だがそんな物、もっと詳しく聞いていれば、間違いだって気付かないものかな。
「……その話の後に、皇女様のドレスを着ていたら……認識を謝る可能性は否定できないが……ずさんだ……そんなのでいいのか……」
王族様がうめいたのちに、私に真顔で言った。
「公爵の関係者が、君たちに大変申し訳ない事をした、この国の王族として謝罪しなければならない、申し訳ない」
「王族様は関わっていないんだから、謝らないでくださいよ……謝るならその公爵の関係者とその雇い主ですよ……」
私もそう言うほかなかった。しかしこれで、王族様の考えが完全にまとまったらしい。
「……という計画があるんだが、これに乗ってくれるだろうか?」
私は彼の話したある計画に、頷いた。
多分それが一番手っ取り早く、母さんにもシャルロッテにも、会える方法だったからである。




