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残念ながら、母の娘はそこの美少女ではなく私です!!!コミカライズ中!  作者: 家具付
本編 母の娘は私です!!

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9 石造りの向こう側から

二日目、私たちに食事は与えられないらしく、ここまで来ても一食ももらえていない。

どんなカチカチのパンだって、うっすいスープだって、美味しいだろう今じゃ。

特に私は、走り回った後につかまっていて、一番お腹が減っていた。

ぐうぐうと腹の虫が鳴る。

でも何かが出てくるわけがない。


「ごめんな、私たちが言い争ったばっかりに、無関係なエーダまで巻き込んでしまった」


「普通娘が攫われたら、頭に血が上るものだよ……」


私は家族同然の親友が連れて行かれたから、やっぱり頭に血が上ったし。

そんな事を言いながら、身を寄せ合って二日目、暗闇に明かりがともる事もなければ、食事が与えられるわけもなかった。


そして三日目、水さえもらえていないから、私たちは地下牢を落ちる、衛生的に最悪と言ってもいいだろう水を舌で受け止めて、なんとか気力を保っていた。

お腹が空いているだけではなく、極端な水不足で、おまけに凍えるほど寒くて、私たちは限界だった。

でも、誰かが様子を見に来る気配もない。

このまま打ち捨てられるのか……という事も、私の頭の中をよぎる言葉だった。

そんな矢先だ。


「……ん」


私の耳は幻聴だろうか、人の声を聞きとったのだ。

その誰かは……歌っている?

私はぐったりと動けないおかみさんたちから離れて、そっと声の方に寄って行った。


「歌だ」


こんな地下牢に歌なんて……と思いつつ、私は暗がりで適当に探った、堅い何かを掴み、がんがんと地下牢の石造りの壁を叩いた。

歌がそれを聞いてやむ、聞こえたのだ!


「助けて! 無実なの!」


私が渾身の力を振り絞って出した声を聞き、壁の向こうの誰かが、かろうじて聞こえる声でこう言った。


「誰だ……?」


「エーダ。一緒に暮らしてた友達が、皇女様の娘だとか変な事言われて、逆らったらここに放り込まれたの」


「……皇女様の娘が、城に戻ってきたとは、確かに聞いたが……それが友達だった? 変な事?」


「うん。友達にはちゃんと素敵な両親がいるの。それに、友達が着ていたドレスは、私のいなくなっちゃったお母さんが、大事に持っていたドレスで、友達のお母さんの物じゃないの、それなのに、ドレスが似合うっていう理由だけで、友達が、皇女様の娘だって事にされて……いきなりお金だけ持ってこられて、養育ご苦労って言われて」


「……なるほど。つまり友人は、今、身分を偽称させられているという事だな?」


「よく分からないけど、友達には優しくて素敵な家族がいるんだよ!」


そうだ、のんきに喋っている場合か。


「おかみさんも旦那さんも、あ、友達の両親なんだけど、三日も何も貰ってないから、もう限界なの! ぐったりして喋れないし、目も開いてないみたいなの! あなたが誰だか知らないけど、とにかく、助けて! 歌う余裕はあるんでしょ!!」


「地下牢に入れられて、食事を与えられていない? それはおかしい、刑が決まるまではきちんと食事を与えられるはず」


「貰ってないっていう事実だけがあるんだってば! 誰も来ないし様子を見に来る兵士もいないし! とにかく助けて、おかみさんも旦那さんも、死んじゃう!!」


私が必死に叫んだ声を聞き、その中身をよくよく聞いたのだろう。

声の主が、しばし黙った後に、言った。


「お前は嘘を言っていないようだな」


「言ってどうするんだ!!!!!」


私が渾身の力を振り絞って怒鳴ると、相手は感心したらしい。


「三日三晩何も与えられていないのに、お前は頑丈だな……」


「そう言うところ感心しないで! 厚かましいとは思うけどとにかく助けて!!!」


それから、声は聞こえなくなった。

私はそこで、祈るように両手を組んで、助けが来る事を待った。あまりにも体力を失うと、命に係わる。

そこで私は、おかみさんたちを抱きしめ、私の体温を分け与える体制に移ったのだった。





それから、何時間経過しただろう。分からない。でも結構な時間だった気もするし、そうじゃなかった気もする。

とにかく。何もないここで、時間の経過を判断するのはとても難しいのだ。

そんな中、にわかに、通路だろう方向がざわついたのだ。


「どういうことだ、誰の許可を得て地下牢へ入れた!」


誰かの迫力のある声に、へいこらしていそうな声が響く。


「公爵様のお使いの方のご命令です!」


「この地下牢は王族の許可がなければ入れられない地下牢だぞ! 王族を侮辱しているのか! 地下牢へ入れたという記録がなければ、食事も与えられないし、排せつ物の処理もされないだろう! 馬鹿ども! ここで死人を出し、鼠に食わせるつもりだったのか!!」


「申し訳ございません、申し訳ございません!!」


謝る声が聞こえて来る。誰かえらい人が来たのだ。助かる? というか私たちがこの場所に入れられたって記録がないから、何も貰えなかったの?

そんな事が頭の中をめぐっていた時だ。

三日ぶりの橙色の灯りで、私はとっさに目を閉じた。

地下牢の向こうに誰かがいる。

私は出来るだけそうっと目を開けて、そっちを見た。

そこには、身なりの整った男の人が立っていた。そのお付きなのか、燭台を持つ人が複数。

そして顔色の悪い兵士たちが何人か。

地下牢の格子の向こうで、その人は、私を見ていた。

私と目が合うと、彼が言った。


「大丈夫か、安心しろ、ここからお前たちを出してやるからな」


私はそれを聞き、おかみさんたちを揺さぶった。


「おかみさん! 旦那さん! 出られるって!」


しかし二人はぐったりしたまま動けない。

それを見て、その人が舌打ちした。


「相当体力を削られているな、それもそうだ、ここは氷の中と同じだけ冷えている。お前たち手を貸せ。彼等を運び出すぞ」


「しかし、この者たちは罪を」


「王族の許可なくこの地下牢をにぶち込み、記録も残さず、世話もせず、殺すつもりだった貴様らの方が罪が大きい。追って沙汰を待て。生易しい刑にはならないぞ」


そう言ってその人は入口から、複数の……従者だろうか、そんな人たちを入れてくれて、彼等が丁寧におかみさんたちを運んでくれた。

そして最後に私が出た時、彼は言った。


「お前のおかげで、公爵のふざけた横暴が分かった、感謝する。それにこちらの二人は俺の責任の下手厚い看護を受けさせよう」


「あ、ありがとうございます!」


涙が出てきた私は、彼に頭を下げようとしてふらふらとよろめいた。

よろめいた先には彼が立っていて、彼は私を平然と受け止めた。


「お前も三日三晩食事も水ももらっていないのだ、お前も思っている以上に弱っている。お前ももちろん俺の責任の下看護させてもらおう。先ほど聞いた事の詳しい話も、聞きたいからな」


それを聞き、私は肩の力が抜け、そのまま目を閉じてしまった。


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