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1. ここから

お楽しみ頂ければ幸いです。

よろしくお願いします

 入学式当日、教室に到着した私は自分の席を見つけ荷物を整えてから、勇気を振り絞り前の席の子に話し掛けた。

 とは言ってもビビりすぎてなかなか声を掛けられず、既にグループになってしまってる人達もチラホラいて、半ばパニック状態で話しかけたんだけど。


 だめだぞあたし。中学の時は存在感がない聞き役に回っちゃったけど、高校では頑張るって決めたんだから。パリピとまではいかなくても、誰とでも話せようになって可愛い彼女を作るんだ。


 そんな私と同じグループになってくれたのは、さらっさらな黒髪で日本人離れした鼻筋、健康的な肌色をしたアジアン美人甲斐田蛍(かいだ ほたる)ちゃんと、芹沢亜子(せりざわ あこ)ちゃん。


 蛍ちゃんは一番最初に声をかけてほぼ無表情でよろしくとだけ返してくれたんだけど、その5分後くらいに、話しかけてくれてありがとう、とぼそっと呟いたのを見て私は沈没した。美人で人見知りさんの破壊力高すぎる。同い年なはずなのに母性本能とか庇護欲をくすぐられるっていうのかな、お姉さんがまもってあげるからね...って気持ちにさせられた。


 亜子ちゃんは左隣の席で、前日に切られ過ぎてしまったらしい前髪を恥ずかしそうに撫でながら話しかけてくれたのだ。おでこが見えてるからか少し幼い印象で妹系アイドルですって言われても信じちゃうしむしろ推せる、推させてくださいって私の中のロリ魂に火が付くところだったあぶないあぶない。


 二人ともパリピって感じじゃないし、話しやすくって何よりすごくかわいいからひとまず初日の目標は達成した。 私の美少女センサーは日々精度を増しているらしい。これは学校生活楽しめそうだ。



「しいちゃんとほたほたは部活何するの?」


 しいちゃんとは私、雫のことで、おそらくほたほたっていうのが蛍ちゃんのことだよね。

 どうやら亜子ちゃんは友達にあだ名をつけるタイプみたいだ。あだ名っていいよね、距離がぐっと近くなった気がする。さすが国民的妹。

 私たちが答えを言うより先に私はね私はねと腕をぶんぶん振りながら亜子ちゃんは続ける。


「決まってなかったら二人ともバスケ部の説明会きてみない?めちゃくちゃカッコイイ先輩がいるんだよぉ!」

「部活じゃなくて、先輩目当てなの?」

「もちろん部活がメインだけど、憧れの先輩も重要じゃん!あたし、その先輩追い掛けてこの高校入ったんだよね」


 なんという行動力。ぜひ見習いたい。という私も、幼なじみのお姉ちゃんが同じバスケ部なので、二つ返事で了承した。


「りょーかい!私も見に行こうと思ってたから行く。蛍ちゃんはどうする?」

「......」

「蛍ちゃん?」

「ほたほたは?」

「......あ、ほたほたって私のこと?」

「ほかに誰がいるんだよ!!」


 無表情で聞く蛍ちゃんに対して亜子ちゃんは大げさにツッコミをいれ大笑いしていた。

 美人で人見知りでド天然って蛍ちゃんもキャラが立ちすぎている、羨ましい。


「私は帰宅部希望だから真っ直ぐ帰る。ごめんね、明日感想きかせて」

「おっけーおっけー!ちょー詳細レポとっとくから期待してて!」

「ん、楽しみにしてる」


 蛍ちゃん帰宅部なんだ。バイトとかするのかな。美人だしスタイルもいいからモデルとか似合いそうだ。

 コンビニとかで働いているのは全く想像がつかない。

 仮に働いてたとしても、美人店員がいるぞって評判になって毎日長蛇の列になっちゃいそう。


「あ、ほたほた気を付けてね、噂によるとやばい先輩もいるみたいだし」

「やばい先輩?」

「あたしもさ、あっちの子たちが話してたの盗みぎきしちゃっただけなんだけど」


 そう言って亜子ちゃんは、窓側で男子達とひと際大声で話しているパリピグループの方に目配せしてこそこそ話はじめた。


「超絶美人だけどP活やってるとか、誰とでもヤっちゃうみたい有名な先輩がいるんだって」

「それの何がやばいの?」

「顔がいい子なら誰でも手を出すらしいよ」


 私が心配されてないことは置いとくとして、ははーん、確かに蛍ちゃんは美人だし、帰宅部なら一人で帰ることが多くなるよね。そうしてその先輩の毒牙にかかったりしたら、確かにやばいかも。

 私の中のお姉ちゃんモードが顔を出す。


「そうだね、蛍ちゃん。今日はお姉ちゃ...私たちと帰ろうか」

「雫も亜子も自分の心配したほうがいいんじゃない?」


 ほえっと亜子ちゃんと私は二人で目を合わせた。亜子ちゃんは頭の上に「?」マークがみえる。


「二人とも小さいし可愛いんだから気を付けるんだよ」


 私と亜子ちゃんの頭をぽんぽんして、蛍ちゃんは帰っていった。

 な、なんだあれ!イケメン王子様ですか?ほぼ無表情だったのに、こういう時だけ笑うのずるくないですか?さっきまでのド天然無表情人見知り蛍ちゃんはどこへ!?

 そのギャップにやられてしまい、私は小さく喉の奥でうなった。

 亜子ちゃんも照れ臭かったのか、くそぉぉといいながら蛍ちゃんの机をバンバン叩いていた。

 めちゃくちゃわかるよ、その気持ち。



 ◇◆◇◆



 蛍ちゃんとバイバイしてからバスケ部の説明会が行われる体育館へ急いでるんだけど、中々目的地に辿りつけない。学校って普通迷うもの?せめて場所の地図とかチラシとか配ってほしいよね。


「しいちゃん、あれ?第一体育館ってテニスコートの裏にあったって言ってたよね」

「学校来た時それっぽいの見たと思ったんだけど...ない??」


 校舎で迷うなんてと思うかもしれないけど、私は極度の方向音痴で、亜子ちゃんにもその気があるらしい。

 この高校は運動部の活動が盛んで、体育館が2つと、武道場、弓道場など、違いがわからないけどそれっぽい建物がありすぎるのだ。


「学校公式サイトに位置情報付きのマップ出しといてよ!!!!」

「亜子ちゃんやばいよ、あと5分しかない!」

「えぇ?!しいちゃんどうしよ!!!ぎぶみーどこでもドアーーーーー」

「第一体育館は西棟とつながってるんだなぁこれが」


 後ろから突然声を掛けられつんのめりながら振り向くと、よく知った顔があった。


「あ、りょ」

「涼様!?!??!?!?!?!?!?!」


 私の声をかき消す超デカ声で叫んだのは紛れもなく亜子ちゃんだった。


「あー、どうも。二人ともバスケ部の説明会に行くでいいかな?」

「はいぃ!!そうです!!!!!!!!」


 亜子ちゃんは急に直立不動になった。でも顔だけはキラキラしていて今までにないくらいハキハキ返事をしている。


「......もしかして亜子ちゃんの憧れの先輩って」

「そうです!涼様です!!!!!!」


 あはは照れるなぁとのほほんとしているのは、亜子ちゃんの憧れの先輩であり、かつ、私の幼なじみの先輩である黒瀬涼くろせ りょうちゃんだ。

 すらっと伸びた手足は、細いけど鍛えられていてほどよく引き締まっている。

 急いで探しにきてくれたからか額にうっすら浮かんだ汗を手で拭う姿に、一瞬ドキっとしてしまった。


 あーもう私のバカバカ。こんな時に反応してどうすんの!!

 入学前の喫茶店近くで目撃してしまったあの一件から、私は手フェチになっちゃって、女の人の手を見ると反応してしまう体になってしまったのだ。もちろん誰にでもってわけではない、はずだ。

 でもでもでもでも友達もそんな目で見てしまうなんて、発情期か。


「涼ちゃん、いや、涼先輩。どうしてここに?」

「いつも通り呼んでよ、しーちゃん。全然来ないし連絡つかないんだもん」


 迷ったら連絡するという手を完全に忘れてた。スマホをみると、涼ちゃんからの着信履歴が5件ほど残っていた。


 心配したんだよと言いながら、頭をぽんぽん撫でられる。

 いくつになっても子ども扱いされる恥ずかしさはあるけど、嬉しくていつも受け入れてしまうのだ。


「しいちゃんと涼様って、知り合い??」

「説明はあとあと!今はいそげー!」


 廊下は走っちゃいけないから早歩きねと涼ちゃんに言われたけど私たち二人との身長差があり過ぎてまるで入っているみたいだった。

涼ちゃんがいると一気に周りの空気が明るくなるから凄いなぁって思う。

 亜子ちゃんも色々聞きたいことはありそうな顔をしてたけど、今は憧れの先輩といるだけで嬉しそうだった。


「じゃ、この辺座ってみてね。終わったらちょっと待ってて。迎えにいくから」


 無事体育館について、事前に確保してくれていたであろう場所に私たちを案内してから涼ちゃんは、爽やかな笑顔でそう言い残しコートの方に向かっていた。


 これはまずい。

 私は昔から見てきたから涼ちゃんの笑顔に免疫があるけど、恐る恐る亜子ちゃんの方を振り向いてみるとその不安は的中した。


 完全に涼ちゃんの女の顔だった。本当に人間って目がハートになるんだね。

 それも周りにいる何人かの生徒まで巻き添えを食らっていた。

 恐るべし、爽やか王子様涼ちゃん。


 その後の説明会で、簡単な説明と3on3のミニゲームをやっていた。

 涼ちゃんがコートに入ってボールが回ってくる度にどよめきと黄色い声が湧いたのは言うまでもない。



 ◆◇◆◇



「しいちゃんわたしいろいろもたないからかえるね」


 説明会が終わり、涼ちゃんの言われた通り待っていたところ、亜子ちゃんは幸せそうだけど今にも昇天しそうな顔をしていた。間違いなく、涼ちゃん過剰摂取である。


「大丈夫?一人で帰れる??」

「本当はこの後もいたいけど、人型を保てる自信がないの」


 またねとダッシュで帰って行った。さすがバスケ部志望。すばしっこそうでガードに向いてそうだ。


「お待たせ」


 制服に着替え直した涼ちゃんが戻ってきて一緒に帰路につく。こうやって歩いて帰るのも約一年ぶりくらいだっけ。久しぶりだけど、前と変わらない時間が嬉しかった。


「涼ちゃん!とってもかっこよかったよ」

「あたしも久しぶりにしーちゃんに見てもらえてうれしかった」


 ところで、と涼ちゃんは続ける。


「バスケ部のマネージャーやってくれる気になりまして?」


 涼ちゃんは、お願い事する時必ず瞳の奥をじっと見つめてくる。

 この大きなわんちゃんみたいなところにみんなやられるんだよね、同情するよ。


 私は運動はさっぱりだめだけど、昔から涼ちゃんのバスケの試合は見に行っていてその流れで中学三年間はバスケ部のマネージャーをしていたのだ。


「んー、実はあまり考えてない、かな。」


 そっかぁと涼ちゃんは見えるはずのないケモノ耳と尻尾をしょんぼりさせる。

ここで可愛いなんて流されちゃったらまさに涼ちゃんの思うツボだ。


「高校生活の目標のため?」

「そうなの、マネージャーって中学時代よりも忙しそうだし」

「試合の時だけ来てる子もいるよ?かわりばんこに」


 涼ちゃんには、喫茶店の一件があった次の日に、バイトをしてみたいこと、彼女を作りたいって目標を話した。もちろん、目撃した内容までは話してないけどね。

 それにしても今日の涼ちゃんは意外としぶとい。そんなに人が足りてないのかな?


「んん、なんかそれだと中途半端になっちゃはないかな。」

「じゃあ、目標達成できたらいいのかな?」

「え?」

「しーちゃんに恋人が出来たら、マネージャーやってもいいってことだよね?予定があるならお休みすればいいわけだし」


 そ、そうなのか?目標達成したあとの事は全く考えていなかった。

 バイトを週に1-2して、彼女と遊べたら確かに出来なくはないか、ってこれは完全に涼ちゃんのペースじゃん。


「そ、そんな涼ちゃんじゃないんだからすぐできるわけないよ!」

「あたしはそうは思わないけどな」

「も~涼ちゃんは私のモテなさを知らないんだよ」


 そう笑って見せると、涼ちゃんは何か言いたげな顔をして黙ってしまった。

 もしかして、バスケ部のマネージャーが入らなくてとってもピンチとか??

 でも説明会のにはたくさん来てたし、一人くらいは入ってくれるよね...?

 そう一人であたふたしていると、向かいから女の人が歩いてくるのが見えた。


「綺麗...」


 無意識でつぶやいた自分の言葉にはっとする。私何いってんの。さっきの涼ちゃんの手といい、今度は通りすがりの人なんて。

 いくら高校生になって美少女センサーが有能になったからって見境なしにもほどがある。


「あれ、桔梗」

「よ、黒瀬」


 さっきまで黙っていた涼ちゃんが口を開く。どうやら知り合いらしい。

 一応私の先輩にあたる人でもあるから挨拶しておかなきゃだよね、うんうん。これは断じて下心ではないからね。礼儀だから礼儀。


「こんにちは!!」

「こんにちは、いやもうこんばんはかな?新入生?」

「はい、そうです。金丸雫と言います」

三角桔梗(みすみ ききょう)です、よろしくね」


 アイスコーヒーを片手に、ガソリンスタンドのロゴが入ったオレンジ色のつなぎを着て、ポケットからはくたくたになった軍手が見えている。

 女子高生のバイト姿には見えないけどお顔の良さなのか、全身から漂う雰囲気からなのか、全部カッコよく見えてしまう。


「桔梗、今バイト帰り?てかその恰好で帰ってるの?」

「うん。着替えるのめんどくさいし、楽だから」

「な、何のバイトしてるんですか?」

「すぐそこのガソスタ。家近いからね」


 右手のお家を指さす。ガレージにはバイク2台止めてあった。どっちかが先輩のなのかな。

 水に触れる機会が多いのか三角先輩の手は少し荒れていて、当たり前だけど涼ちゃんや私とはちがっていた。

 まるで、手にも表情があるみたい。

 初めて見たのに不思議とその手に触れてしまいたい気持ちになるのは、なんでだろう。


 じゃあねと手を振る三角先輩の手を目で追いかけてることに気づき、なんだか罪悪感が沸き上がって私は深く頭を下げた。


「お疲れ様でした!!!」

「お、黒瀬とは違って礼儀正しい」

「黒瀬とはってなんだ、黒瀬とはって」

「いい子にはこれをあげよう」


 三角先輩はポケットから何かを取り出し、私に差し出した。


「コーヒーのスタンプカード?」

「そう。全部溜まったから一杯無料だよ」

「......しょぼくない?」


 涼ちゃんが呆れたように笑ってそういった。


ほかの人から見たらただのカードかもしれないけど、私にとっては宝物のようにキラキラ輝いて見えた。

それはもちろん、コーヒーが好きだからではない。

 スタンプカードをきゅっと握りしめる。きっと私はこれを一生使えないと思う。


「大事にします!!!!」


 そのスタンプカードからは少しだけガソリンの匂いがした。



 これが三角先輩との出会いだった。

 その時の私はまだ、三角先輩がクラスで噂されていたやばい先輩だっていうことに全く気付いていなかった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

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