消えたサッカーボール
しまった、また居眠りをしてしまった。康は桔梗ヶ丘小学校六年二組の教室で目を覚ました。つまらない小学校の授業では、康はこうして杉田先生から叱られることもしょっちゅうだ。担任の杉田先生は筋骨たくましい体育向きの先生で、算数の授業ともなると面白味が全くない。
「大谷、また居眠りか。調子に乗るのもいい加減にしろ」
「はいッ」
とりあえずいい返事をしてみたところで、六時間目はやっと終了。
走り寄ってきた親友の竹本祐が
「康はいいな。あんなにテキトーに授業受けて学年一位ってズルイぜ」
とぼやいた。
「オマエは体育ができるからいいよ」
康も言い返す。
「ははっ、そういえば康は体育あんまりだったな」
「何をッ」
康は少し腹が立ったが、祐が言うこともまた事実なのだ。
言い争っていたところ、同じクラスの山本健太が困ったような顔で近づいてきた。
「大谷に竹本、僕のサッカーボールを知らない?」
「どうしたの、いきなり?」
康がきく。健太と祐とは先週一緒に公園でサッカーしたばかりだ。
その時は健太のボールを使った。健太はサッカーが得意だった。
「うん、サッカーボールは僕の家の外にある倉庫にいつもしまってあるんだけど、昨日の夕方にはなくなってたんだ」
「なくしたんじゃないの?俺たちは知らねえよ」
と祐。
「でも、僕はいつも朝と夕方にサッカーの自主練をしてて、昨日の朝にはちゃんとあったし、自分でしまった記憶もあるよ」
「倉庫に鍵はついているの?」
康はだんだん興味が湧いてきた。
「それがついてないんだ。ボールは二週間くらい前に買ってもらったばかりのほぼ新品で、それをなくしたともなると。。」
「ぬすまれたカノウセイが高い!」
お調子者の祐が叫ぶ。
「僕もそう思うな」
康も言った。三人は同じ通りに住んでいる上、健太の家が一番手前だから直行で見に行ける。
康が提案すると、二人は賛成した。
「下校時刻、五分前です」
耳馴染みのもの寂しげな音楽とともに解散。固まった二人はランドセルを振り落とさんばかりのスピードで走っていく。運動神経イマイチな康を尻目に、トップを祐が駆けていった。
六、七分後、やっと康が健太の家に着き、全員が到着した。
一足早く倉庫の中を見ていた祐が、
「大谷サン、指紋とか採れないんすかあ」
とやる気のなさそうな声を出す。
「僕は専門家じゃないんだ。足跡も残ってないし、盗まれたのかもわからないよ」
倉庫の周りの地面の砂はカラカラに乾き、康たちの足跡さえ見えなかった。
「二人ともありがとう。今日はもう」
健太が言いかけた矢先、近所の小学三年生の佐々木広樹がやってきた。
「どうしたの?ランドセル背負ったままで」
「健太のサッカーボールが盗まれたから、俺たちスーパー探偵団が手がかり探してんだ」
「まだ盗まれたと決まったわけじゃないよ」
康が祐をたしなめた。
「でも、僕のことは疑わないでね!僕は昨日は朝から一日中出かけてたんだから」
「お前を疑うわけねえよ、広樹。犯人は昨日の昼ごろ盗んだのかな?」
「盗まれたんじゃなくて僕が勝手になくしちゃったのかもって。。」
「いや。やっぱり盗まれたんだよ、ボールは。僕にはわかる」
(康は、なぜサッカーボールが誰かに盗まれたとわかったのだろう。)