第 六 話
先ほど説明したように和紙の屑が貼付いていて汚い小さいお社だ。
窓や扉がない。全て白壁で覆われている。
屋根にも隙き間がない。びっしりと砂らしいものが埋められていた。
「うそ。これホントにおかしくない?」
「たしかに。中の神様を絶対に出さないぞって感じだな」
先輩たちは、そのお社の周りをグルリと回って怪しいものがあるかどうか探した。
オレは全身をふるわせてそれを見ていた。
正面に戻って来た先輩たち。
「何もないな。帰って廃ホテルのほうへ行ってみるか」
ここから出て来た道を戻るという提案に、オレはすぐに反応した。
「いやぁ。オレはもうお腹いっぱいっす。旅館に帰りたいっす」
「そーかそーか」
おもむろに西森さんがお社に近づく。
中瀬さんもカメラを構えたまま西森さんに近づいて行った。
おそらく西森さんが何かするのに期待をしている。
「ここまで来て何にもしないなんておかしいっすよ」
西森さんは思い切り懐中電灯の柄の部分を白壁に突き刺した。
その瞬間、翠里が頭を抑える。
懐中電灯に刺された白壁はあっけなく穴を開けた。
「ホラ。全然厳重じゃない。厳重そうに見えてもこれがたたり神なら誰でも出すことできますよ」
そう言いながら懐中電灯の柄を突き刺して行く。
「おいおい。神域で狼藉な真似すんなよ」
南条先輩は言葉では止めたが、そのままにしていた。
オレの恐怖は最高潮。
歯がガチガチと音を立てた。
その内に西森さんが開けた穴から別の穴にヒビが入り、ドサリと音を立てて壁は崩れた。
その時、カシャンと音を立てて丸い鏡が落ちて来て割れてしまった。
「うわ! 南条さん。見て下さいよ」
西森さんの呼びかけに南条先輩は近づいて行ってお社の中を見た。
東先輩も懐中電灯を照らす。
だからオレと翠里にも見えてしまった。
ヒザを抱えて小さくなっている少女らしきミイラが……。
それは50センチほどの小さいものだった。茶黒く変色し、長い髪が残っているので女性と分かった。
ただ手が短い。体の中に入ってしまっているようだ。
二の腕がない。肩から直ぐに肘が生えているような感じだった。
そして、後ろ、左右に丸い鏡が挟み込まれている。
どうやら、四方を鏡で囲まれていたようだった。
その一枚が壁を壊したことで割れてしまった。
とんでもないことをしたような罪悪感が押し寄せてきた。
ざわざわと木々が風に揺られて不気味な音を立てる。
オレたちは完全に固まっていた。
一拍おいて西森さんの方を一斉に見る。
さすがに罪の意識があるのかバツの悪そうな顔をしたが、外国人のように肩をすくめて両手をひじの部分から挙げて眉毛を上げ、調子の良い顔に変えた。
「南条さん。私の見解を語ってもよろしいですか?」
「……聞こう」
「おそらくこの集落で日照りなどがおき、作物が取れない状態が続き、最悪の方法を思いついた」
「……人柱と言いたいんだろ?」
「その通りです。人身御供。今では考えられない悪習ですが、彼女のように腕が短く産まれてしまった者を泣く泣く雨乞いのための生け贄としてシカガネ様へ捧げた。そして罪の意識から彼女の魂を慰めるために地蔵を備えたのではないでしょうか?」
「なるほど……。そう考えると辻褄が合うな」
「でも……この内側に向けた鏡は?」
「それは、おそらく何でもない。それらしいことをして意味なんて持ってないと思う。小さい集落のできる限りの彼女を神として祀るための祭器だ」
妙に納得できる話だった。
たしかに西森さんの言うことには説得力があるし、昔のことは分からない。本当に悪習のための生け贄だったんだろう。
「しかし神様をこのまま剥き出しにしておくわけにはいかんな。みんなで元に戻して供養をしよう」
「はい」
元通りとはいかないが、壁を元の位置に据え、穴を開けてしまった場所には小石を挟み、壁が落ちないように棒切れでつっかい棒をして手を合わせた。
「神事なら二礼二拍手一礼の方がいいかな?」
西森さんは余り罪の意識がなく悪びれている。
オレは怖すぎて足も腕も硬直していたというのに。