記憶を取り戻しました。
「どうしてこうなったの・・・。」
ズキズキと痛む頭の中に急に流れ込んできた膨大な量の記憶に私は戸惑いを隠せずに頭を抱えた。
その日、調子に乗った私は足を滑らせ自宅の階段から転がり落ちた拍子に気を失った。自室のベッドに寝かせられていた私は目を覚ましたとき、何度も頭を打ったことが原因なのかふっと泉が湧き出てくるかのように記憶が頭の中に流れてきたのだ。
『私』は何者だったのか、ここは何処なのか、そして――
この世界が『私』がいた世界で一世を風靡した乙女ゲームの一つ、『DEAD OR LOVE』の世界であることを。
「まさか、最近流行ってた異世界転生者に私がなるとはね・・・。」
未だにズキズキと痛む頭を抱えながら私は独りごちて、姿見の前へと移動した。階段から落ちたときに頭だけでなく、全身を打ち付けたのだろう。立ち上がり姿見の前へ移動するだけなのにも関わらず激痛がはしり、顔を顰める。しかし、私は痛む身体に鞭打っても姿見の前に行かなくてはならなかった。どうしても確認しなくてはならないことがあったのだ。
そう、姿見に映る現実の『私』の姿を――。
腰まで伸びる白銀のサラサラストレートの髪に翡翠色の双眸。そこにはまさしく異世界での私――ルディア・フェニシアの姿が映っていた。その姿は私が知っていた彼女に比べるとかなり幼いが、ゲームの中の彼女で間違いないだろう。ゲームの中での『私』の役割といえば――。
――そう、俗に言う『悪役令嬢』だった。
「どうしてこうなったのよぉぉぉぉぉ。」
先ほどよりも更に痛みが酷くなった頭を抱え込みながら蹲り、私は嘆くように悲鳴を上げた。