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任務:下

短刀を空中に氷結固定し、それに括りつけた紐を短くする反動で宙へと跳ぶ。

そのまま一度空中で静止し、ミストによって砦を確認した。その結果、殆どの者が眠りについているのが解り、静止した空中から飛び降りて侵入する。

そして肩に乗せたスライムに手を触れ、その体を霧に変換していく。

こうすれば霧を吸い込むだけで睡眠毒を摂取してしまい、より意図せず砦内の全員を昏睡させた。

更にはミストを濃くさせた事により、一層高い探知を実行する。


その結果。考えていた事態通りになる事を一足先に把握出来し、その人物を正面に見据えた。


「随分とまー静かに。しかし大々的に暴れてくれたもんだなぁ…なあ?

格好からしててめぇ、騎士だろ?」


怪訝に眉を顰めて睨むハイエナ種の人物。

本来なら昏睡するこの場において眠気を感じさせず。それどころか武器である棍棒を取り出し背負う。


その様子を白名は一言も返さず、右腕を自分の体に隠しながら半身で構える。


「っけ!シカトたぁいいご身分だなぁ、あ゛?

だが門から入らず、空から来たのは愚策だったな?俺はこれでも術を使えんだよ。だから空から来たらすぐ分かるよう、察知の術を仕掛けてたんだよ。

さしずめ。俺含めて全員が昏睡──」


ハイエナが肩を竦めて首を左右に振ると同時に白名は右手に持った短刀で斬りかかった。

だがその一撃は武器の棍棒によって防がれる。


「──俺がまだ喋ってんだろうがっこの雑魚術士が!!」

「くっ──っぅ!」


そのままハイエナは力押しで白名の短刀を打ち上げ、振り下ろす流れで白名を殴りつける。

だが寸前の所で辛うじて回避が間に合い、間を作った。

その必死な様に、ハイエナは舌打ちをし、また棍棒を担ぎ直す。


「言ったろ、察知だって。てめぇのステータスも俺は把握してんだよ。

なのに……なんだこのステータス?術の値が低すぎて、付け焼き刃で体でも鍛えたってぐらいの身体能力。

足の速さは種族に助けられてるだけで、他ほぼ全部クソゴミじゃねぇかっ!てめぇ良くもこれで……っく、はは!1人でがんばって手柄立てようと思ったなぁ?!

察知の術の為に目も塞いだだけっぽいし……くっはは!ここまでゴミみてぇに恵まれてねぇやつそうそういねぇよ!!あっはっはっは!!」


ハイエナは隙だらけに空を仰いで盛大に笑う。その隙にと白名は再び短刀を取り出し、今度は逆手に持って正面で構えた。

その構えをみてハイエナはニヤリと笑い、棍棒を両手で構える。


「いいぜぇ……?んならお望み通り……ぶち殺してやんよっ!!」


真っ直ぐに距離を詰めると力任せに棍棒を振り下ろす。それを白名は短刀で受け止めた。

だが明らかな力の差に押し負けてしまう。

なんとか耐える白名に、ハイエナはその無防備な腹へと蹴りを繰り出すと、そのまま壁へと蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。


血反吐混じりに白名は咳き込む。

その隙にとハイエナがまたも距離を縮めて振り下ろす。

それを必死に避けようと、逃げる先へ転ける様にしてなんとか逃げた。

だが余り距離も時間も稼げない避け方に、直ぐにまた棍棒を振り下ろされる。

今度はそれをまた別の短刀で受け止めた。


「っへ!一応騎士様してるだけはあるなあ!!

だったら全部防いで!死なねぇように気ぃつけろよっ!!」


体制が不利としか言えない、白名の上に乗られた騎乗位ではその猛攻の致命を防ぐ事しか出来ず。不利な状況から逃げ出せずにいた。

そしてその猛攻を防ぎ続け、足蹴にされる攻撃を寸前で防御する。


「ははっ!はーっはっはっは!!いいじゃねぇかっいいじゃねぇか!!耐えるな騎士様よ!!その努力が涙ぐましいぜ?!

んならその頑張りには……そうだな。その綺麗な面を俺たち全員で汚くしてやるよっ!!」


防がれた足蹴に力を込め、大きく棍棒を振り上げ。防ぐ手立てが無い頭目がけて振り下ろす。


───はずだった。


正しくは振り下ろす事はした。

だがその手には棍棒が握られて……いや、握る事が出来なかった。

それは知らぬ間に指の数本が切り落とされていて、残る親指と小指では握る事が叶わなくなっていたからだ。

その手の異変に。自分の背後で落とした棍棒の音に。事態をわからないまま、認識していく痛みに悲鳴を上げた。


反して先程まで必死であった白名は息も整い、何事も無かった様に軽く服の土を払う。


「て──ってめえ!!?!

なにした?!俺はなにをされた!?なんで──!なんでてめえはそんなに平気でいやがる!!?!!」


切られた手を必死に抑えながら、声の在らん限りに叫んで白名に問う。

それを一歩ずつ。ゆっくりとした歩みで間を詰めながら返した。


「返答。二箇所時限式の短刀の罠の一つに誘き寄せただけで御座います。

貴方達山賊等の情報で。逃げ惑う弱者をより加虐的に追い立てると伺っておりましたので。」

「いつだっ!!いつ……いつ俺が!俺だけが来ると予想したんだ!!

そんな時間!」

「残念ながら、充分過ぎる程に頂いておりました。

魔法によって飛行出来る現代。余りにも空への対策が手薄過ぎる要塞。そこを貴方様の力で把握されていると理解するのは自明の理。

だから敢えて、姿を隠しもしないで空から。かつ探知の領域で留まったのですよ。

しかしその時点で鳴らされるはずの警笛が鳴らず。それどころか調べた結果、自室からゆっくりと姿を現す……。


その節々と、事前情報の照合との結果。

演技の血反吐も。回避にも高揚したまま高らかに笑い。最後には狙い通り、大振りをして頂けた。

……以上で質問には応対出来たでしょうか?」


明らかな異質に。目の前の惨状を起こしながら無機質な声に恐怖が悪寒として背筋を走り、情けの無い声を上げて逃げようとした。

だが背を向けた途端その両足に鋭い痛みが走り、立つ事も出来なくなって倒れ込む。

慌てて確認すると、的確に袋萩に真っ直ぐと短刀が突き刺さっていた。


「なん……っ!いやだ!!なんなんだよお前はっ!!

いやだっ!やめ……来るな!!」

「応答。第九騎士団、所属特殊拷問」

「違う!!何でこんなっ!こんな事……何も思わないで!淡々とできるんだよ!!」

「最悪の事態を想定していた為です。


弱い術故に耐性者。術者には効かない事を想定。

更にはその者が複数。又は能力値が極めて高い場合。

加え知略、策略に長け。自尊心を無い物として自分を取り扱う事が出来る相手。


今回は残念ながら。貴方様は二つ目迄です。

故に只四肢を。筋肉を。指を。潰せば無力に成った。それだけで御座います。」


非常にゆっくりとした。皮肉にも視認し、認識出来る遅さで騎乗位となって押し倒す。

そして刃の冷たさを感じさせる様に肌にくっ付けた。少しでも切れば致命となる頚動脈の上へと添えた。


「それでは………御休みなさいませ。」


ゆっくりと刃を動かす。

とても不釣り合いに、優しく微笑みながら。



─────────────


「(──殺せ。宵の剣。)」



─────────────


一陣の風が吹いて、静寂を覚ます。

月明かりを反射する短刀に、一雫紅の線。



押し倒したハイエナは。まだ生きていた。


正しくは途端に白名の様子が悪くなり、刃を動かせたのが皮膚を裂く程度に浅いものだった。

荒々しい息を。過呼吸になるそれをする白名。

今までの無機質さ。不釣り合いな笑顔。それを見ていたハイエナは、なぜ突然こんなにも不調になったのかわからなかった。


白名は荒い呼吸のまま短刀を自分に向け、顔を切ってしまいながらも雑に包帯を切り裂いて解く。

そしてハイエナの胸倉を掴んで半身を起こさせる。


「ーっ!!眠るな!!眠るなっ!眠るなっっ!!!」


いきなりの言葉の連呼に言葉を返す前に、劈く程の割れる音が辺りに響く。

そして凡そ普通では無い、瞳が二つ並んだ、白と黒の異眼球。


その眼球が月明かりとは別に、一層輝きを放つのを見ると途端に眠気が。抗う事が間に合わない程に巨大な睡魔に、意識を手放さざるを得なかった。



ハイエナが気絶する様に昏睡したのを白名は、それでも必死な形相で。相手の状態の確認もできない様子だった。


「(──殺せ。宵の剣。)」

(……っ!だ、まれ……。)

「(──殺しなさい。宵の剣。)」

「だまれ…っ!!」

「(──宵の剣よ。仕留めてこなかったのか?)

「黙れと言っている…っ!」

「(──殺せないあなた……いえ、剣など不要よ。)」

「ーーー!!黙れぇ!!!」


一刀腰から剣を抜くと周りを切り払った。

だがその声の相手は。人影は誰も。何も居ない。

それでも声は……白名を過去に縛り付ける声は止まない。


「(──宵の剣。何をしている?

──よもや謀反か?武器の……道具の分際で。犬にでもなって手を噛む気か?

──道具なのにか?剣。なのにか?)」

「黙れ黙れ黙れっ!!俺は剣じゃない!!道具じゃない!!宵の……!宵の剣と呼ばれるモノじゃないっっ!!」

「(──殺せ、宵の剣よ。

──それだけがお前の……いや。それの価値だ。)」

「違うっ!違う違う違う!!ーーっちがう!!」


辺りへと我武者羅に剣を振るう。

居るはずの無い幻影へと。当たる筈の無い剣を振るう。


「(──宵の剣。)」

「違う!!」

「(──宵の剣。)」

「黙れ!!!」

「(──宵の」

「違うっっ!!!

俺はっ!!ーー……っ。俺……は………?

はぁ……はぁ……。おれ………は………。」


握っていた剣が手から滑り抜ける。

一人も。誰も起きてない砦に切なく、淋しく。金属音が響いた。


「(──薄命、な。)」


違う声が頭に思い響く。

そこから紐解く様に、会話が思い出されてしまう。


本人の意思も無視して。


「(──名前が無いと……いつまでもドウグクーンじゃ人町に行かせれないかんね。


──名前、やるよ。それは目印だ。釣りで言うなら浮きだな。浮き。

──人町に。国に。人と縁を作るために外に行かす。

──んでもって………たくさんたくさん。いっぱいいーーっぱい、人と仲良くなったお前を………殺すんだよ。ステキだろ?

──決められた薄い命。亡くなる事がわかってる儚い命。だからそう……お前の名は……


──白名。


──あ。いくらなんでも薄命なんて名前はつけないゼ?これみよがしに助けてって名前じゃん?楽しくないじゃん?じゃんじゃん?

──だからお前と仲良く仲良く。わいわいきゃーきゃーできてる奴らの目の前で………救えなかったよーうえーんってさせる為に……な?



──だから無事、殺されて。苦しんで。もがいて。足掻いて。抗って。

──死ねよ?白名。)」


「──………は……はは……。

白名………死ななきゃ……。殺されなくては………いけない……。道楽の道、具……。


ーーーっ!死に……たくない……っ!

殺される……怖い……っ!怖い……誰か……誰か……助けて、下さい……ぅ。ぅぅ……っぅぁ、ーーぁっ。ぅぅぅ……っ。」




一人しか……自分しか居ないこの場に。

誰も聞いていない助けを、無意味に求め続けた。



救われると縋って。

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