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任務:上

夜の暗い空を端から白くかつ、青く染めながら陽の光が登る刻。

まだ朝露でしめる草木。鳥のさえずりよりも早いこの時間に、差し込みつつある陽が反射して眩しいと思わせる雪のようなの白の毛並み。

彼の名は白名。

目隠しをしてより表情が分からぬ彼は壁にぶつかることなく。台車に載せた多くの籠をもって中庭に姿を現した。

それを等間隔に並べ、見渡せる距離まで離れると袖から安物の短刀を取り出し地面に魔方陣を描く。

まだしっとりとしているそれに触れながら自分の中の意識を高揚させていく。


「《御霊。其に宿すは我が言霊の命。其れを以て其れを為せ…『スライムオヴジェ』》」


魔方陣から数個の大きめなスライムのように、ブヨブヨとした泡が宙に浮いた。それを確認するとそれぞれに並べておいた籠の中身を入れていき、道具袋から羊皮紙に包んだほのかに桃色の石鹸を、短刀で適量ずつ削ぎ中に入れる。すると入れられたスライムから石鹸を溶かし、中に水流が作られ衣類を水の中で泡と擦り合わせていく。


そう。洗濯である。


各騎士団ごとに分けたそれに、繊細なものなども更に細やかに予め分けてもらい。皆がまだ起きぬであろうこの時間に。市民に泥汚れと汚臭のする騎士ではないと誇示するために、一人でするのがもはや日課である。

けして白名本人、潔癖症ではないのだが彼がここに来ての二年前。その時は日務は当番制であった。だが、当たる隊によっては雑だったり、力が強くて破れたりと悲惨ではあった。

ここまで熟すのに時間は費やしたのは言うまでもない。まずそれを可能にする最低限の技量を身につけると、騎士総長に報連相を持ちかけ、その実力を披露する。そこから許可を貰い、予め分けてもらっても、更にそこから今に至るまでには半年は掛かった。

だが本人からしてみても、より精密に魔術を操作するにいたり。それによって他の術を編み出す、操るようになれたことを思うと、もはや彼にとっての日課は修行のようなものだった。

短刀を一本宙に投げると頃合を見計らって空中に氷結固定する。これも洗濯から得たものと思うと微妙な感じだが、本人はより活動の範囲が増えたと考えている。短刀が落ちる頃、それが洗濯物終の合図として次の日課に移る。


未だ消していない魔方陣にまた手を沿え、同じ様に意識を高揚させていく。


「《察水。之を以て我は知る。我は得る。之を以て、我に宿る。『サーチミスト』》」


唱え終えると魔方陣から魔力を有した霧が作られた。それの量を増やしていき、範囲を拡大させていく。

この魔術は本来唱えた通り索敵用である。術師なら勘づかれてしまうが、霧に触れたモノをすべて把握し。自分の脳内に把握するために用いる術。


これを今、ゴミを探すのに使っていた。


自然的なチリやホコリはもちろん。騎士の中には実力は有るが、法を準じずゴミを隠して捨てる者もいる。だがそれを掃除するには広過ぎる騎士団に、担当を決めていては雑な部分がまた浮き彫りになる。

こうしてゴミの洗い出しが終えると、書いてある魔法陣を消し。非常に複雑な作りのを二つ描く。 そしてそれぞれに手を置き、先程よりも強く、深く力と意識を高揚させる。


「《誘われしは摂理。墜つ事に抗えし力を除き、汝に名を与える。名は『墜淵』》」


ひとつの魔方陣が真っ黒な穴に変わった。添えていた手が落ち、吸い込まれそうになるのに抗いつつ。もうひとつの魔方陣に思考を馳せる。

その内容とは先の把握の際に入手した内容で、ゴミのみを意識し、それ以外を思い描く地図の中から消していく。すると近場の洗濯籠は、吸い寄せられて転がるのが止まり。それよりも遠くのチリやホコリ。廃棄ゴミなどだけが穴の中に落ちていく。

これもまた本人の日課兼修行の成果で、未だに調整は難しく他言できない技術。『マーキング』という技。見ての通り対象のみを選択するという、支援術に近い効果だが。これをしなければ支援術以外は範囲内のもの全てを対象に、攻撃してしまう性質がある。

例えば爆撃が起こる物なら、仲間。建物を巻き込んで起こることがある為、仲間に離脱の指示を出したり、市街地では向かなかったりする。

墜淵もまた攻撃術。本来なら騎士団内で使えば被害しかないが、一人でゴミを集めては一日終えてしまう。だが他者とでは雑がある。 一人こなすまでには時間はかかったが、最初に着手した洗濯の成果もあり、長くはかからなかった。


こうしてゴミ集めが終わり、墜淵を終わらすとゴミの山ができる。 チリなどが飛ばないよう、一旦は氷結させ二つの魔方陣を消す。

すると仕掛けていた短刀が落ちてきて、洗濯終わりを告げた。

まずは浮き出た汚れを外側に寄せるとゴミの近くに動かし氷結。次にそれぞれの籠の中に水のまま入れ、繊維という繊維。水気という水気を慎重かつ迅速に抜き取り水泡を離す。

念の為にと仕上がりを確認すると、入れた石鹸がほのかに香り。イヌ科である自分の鼻にも臭くない仕上がりに出来た。汚れが落ちにくい脇下などを二、三枚確認するが問題なく。濡れた様子もないのに今日もうまく出来たと息をつく。

残った水を使ってもう一度サーチミストをしてゴミの確認をし、問題もないことを確認する。


あとはこのまま洗濯籠の中に入れたまま中庭に置いておけば、各隊の誰かはいつも回収するので放置し。ゴミの分別を行って正しくゴミを廃棄した。


次に食堂に入り、皿洗いに使う水溜に溢れるほど水を流す。そのまま先の洗濯の要領で食堂全体を清潔にし。皿。調理器具。調理場なども綺麗にする。 し終えると水を止め、残った水をまたスライム化させると今度は緑色の石鹸を適量落とし、「昼時、使用推奨。」と書いた紙を、重くするために凍らせて近くに置く。 遠くの未来の言い方を借りるなら、自動食洗機であるそれの動きを確認し、問題がないと分かると次に移る。

二枚の既に魔方陣が描かれた紙を机に間隔をあけて敷き、それに両手を乗せる。


「《響察。鐘として鳴れ。鳴るなら成せ。その音色が知恵となる。『エコークリスタル』》」


二つの魔方陣から氷の結晶が小さく作られ、溶けないように紙の魔方陣が結晶を維持する。そして耳の良い種族なら聞こえる、作られたと同時に音叉のような音が響いていた。

このエコークリスタルは蝙蝠などが使う超音波と似た性質で、サーチミストとはまた別の索敵用。 超音波が当たった情報を所有者に細かく伝えることが出来る。

これの間に、先程綺麗にした包丁類を並べていき、一本一本間においては右と左に分けていく。


そう。刃こぼれの確認である。


もっとも摩耗が激しい刃物は、切れ味が悪いと味の劣化や調理停滞に繋がる。それを前もって防ぐ為に二つに分け、そのうち一つは元の場所に。残るものは見える場所に対応の筒に入れ、「刃こぼれ注意。砥推奨」と書いた紙を下に敷く。


全てを終えて食堂を出る前に振り返り、膝まづいて誰も居ない食堂に敬意を払う。理由により目隠しを取らず、故に臨機応変な調理は自分には無理だと考えているその思考は。いつも人を笑顔にさせる料理人達に重々たる敬意を示していた。

その行為を終えると出ていき、道具袋から、まるで粘土のような見た目、触り心地と匂いのした物体を口の中に含み、租借いていく。味も世辞でも美味いと言えるほどのものでは無いそれを、白名は眉ひとつ動かさずに食べ終え、同じ業務を王城警備兼用でこなす為に騎士の寮からも出ていく。


これと入れ替わりに、朝の訓練が始まる声が開始されるのは、もはや彼の日課であった。


─────────────


あの後は王城の兵や使用人に声をかけ、騎士寮と同じく洗濯、掃除。調理場の徹底を行い。サーチミストとエコークリスタルを用いて城全体の警備にあたった。

そして昼時。入れ替わりの兵に業務報告を終わらせ、またも粘土の物体で済ますとまた寮へと戻ってきた。またもすることは掃除だが、今度は個人部屋の方である。


これに至ってはつい最近提案し、部屋掃除を希望する者の部屋を確認し、その部屋のみ行うというもの。

存外個人室すら散らかす人が多いのか利用者は多く、ごく稀に遠征やその他理由から各団長の名前が乗ることもある。

鍵は願板と称したこの仕事を確認する場所に掛けると、不埒な輩が稀に侵入に成功し、合鍵を作られては良くないと警戒し、鍵は貰っていない。ではどうやって掃除をするのかというと、これもまた魔術修行の賜物と言えるものだった。

エコークリスタルを小さく作り、鍵穴近くにかざすと自分に鍵穴の構造が入ってくる。それに合わせて氷で鍵を作り解錠するというものだ。

あとはサーチミストや墜淵。スライムオヴジェを使って綺麗にし、ベッドも清潔にして、あとは溶け始めている氷の鍵で閉錠する。

こうすることで合鍵が自然に融解するし、鍵のような細やかな物を作るのもまた修行になると考えている。更には清潔にすることによって心身が休まる場所が確保され、そこで睡眠が良好であるなら仕事円満にも繋がる。

本人も自覚的に縁の下の力持ちを理解しているからこそ、これらの事に手を抜いたことはないし。誰かがしなくてはいけないことと責任をもっている。


こうして終えた昼時。騎士業務の確認で自分の隊に寄り、状況を確認する。

こうして見れば、本来なら第九番騎士団ではなくても良かったが、この所属は本人の強い希望があったのだ。

そして今日は、自分宛に任務を言い渡された。

その仕事姿こそ、暗部たる第九番騎士団のみに相応しい。と言う物だった。


─────────────


山という天然の砦を基盤に、襲撃経路を絞りつつ脱出経路は隠し通路も含めて多数有ると言う、正に難攻不落とも言える砦。

そこを根城に、山賊によって周囲の村への被害が甚大であると報告を受けた。


白名の受けた任務は偵察。及び可能なら制圧せよ。との事だった。


ひとたび目的を定めた強盗なら徒党は揃うが、それ以外ではやはり人の集団。

夫々の個が浮き彫りになる警備。瓦解させやすい所から狙いを定め、白名は動いた。


「──ふぁっぁぁあ~~……。ねみ。

っち。賭けに負けてなけりゃ、今頃寝られてるのによっ!」


盛大に欠伸をした後、不満を隠す事無い声の大きさで、警備の狐人は悪態をつく。

そして耐える事が苦手の様に、警備付近で徘徊したり、体を掻いたり動かしたりし。余りじっとする様子は見受けられない。

終いには貧乏揺すりの流れで地面を蹴り続ける狐人の前に、小さく金属音が響く。


「ぁ゛ん?──お!

っへへ、ラッキー。金貨じゃねぇか。

たまにはクソだるい警備もする────」


「もんだな。」

しかしその先の言葉を出せず、金貨を拾おうとしゃがんだ顔が水に包まれ声が遮られる。

慌てて顔を上げるが水は張り付いたように取れず。手で払おうとしても物質は液体。手で払い退けられる筈が無かった。

そして呼吸の限界に気泡を盛大に吐き、水を飲み込んでしまう。

すると途端に意識が遠のき始め、ぼやける視界に月を背にした白を見て、侵入を許してしまったと思いながら倒れた。



うつ伏せに倒れる狐人を見下ろしながら左手で手招きの動きをすると、狐人の顔の水泡が白名の足元に留まる。

苦しかったようで盛大に咳き込むが起きる気配は無く、そのまま鼾をかいて寝始める。


これこそ秘かの日々が成果に反映された一つ。様々な用途で使用していた『スライムオヴジェ』だ。

水によって音、空気を遮断して助けを叫ばさせず。その上で音も無く襲撃させたのだ。

後は飲み込むと昏睡してしまう薬物を混ぜ解除する。

その特化した薬学。基毒学と、精密とまで言える術の操作は、不意打ちされればたまったものでは無い。


更には可視が難しい程に細かい『サーチミスト』で入念な警戒も忘れておらず、見張りが倒れた事に中はまだ気付いていないのすら把握した。

そのままサーチミストで砦の全景。構造を把握し、スライムオヴジェを肩に乗せると仕切の言葉を口にする。


「現時刻より任務、山賊砦の制圧。──開始。」


─────────────

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