遊び人なんですけど勇者パーティが全滅したので勇者に昇格しましたテスト版
ツイッターで知人と話していた時に思いついた短編です。
序章的なもので、この先には続いておりません。
また、思い付きですので既にどなたかが書いてらっしゃる作品に類似する点があるかもしれません。
問題があれば削除いたしますので、ご連絡ください。
今、俺の目の前で勇者パーティが全滅した。
魔王の配下‘死四天’を倒し、魔王城の攻略も目前。
後は魔王の部屋へと続く回廊を突っ走るだけという状況で、ソイツは現れた。
どんな上級魔族とも違う異様な姿。白い翼を生やし、それでいてからくり人形みたいな機械的な姿。
言葉も通じず、正体も分からないソイツは、甲高い咆哮と共に勇者たちに襲い掛かった。
勇者たちは当然、応戦した。
大賢者・ローレンス。
戦士・シェリンガム。
武闘家・チャド。
そして、勇者・ラザフォード。
全員が全力を尽くした。“死四天”と戦った時よりも激戦だった。
ローレンスが魔力を使い果たして倒れた。
シェリンガムは武器を折られて地に沈んだ。
チャドは自慢の拳を食いちぎられて動かなくなった。
ラザフォードは、勇者の剣を砕かれて、力尽きた。
俺は、それをただ見ているしかできなかった。動けなかった。
俺はただの遊び人。お調子者で、みんなが落ち込んだ時におちゃらけて場を和ますしかできない役立たずだ。
戦闘じゃ、みんなに道具を配るのがせいぜい。戦いに参加なんかしちゃ、邪魔になるだけ。
みんなはそれで良いと言ってくれた。嫌味なんか全然ない。俺がいるだけで旅が楽しくなると、本気で思ってくれていた。
だというのに。そんなみんなが全員、動けなくなったというのに。俺は一人で立ち尽くすしかできなかった。
勇者が砕かれた剣でソイツにとどめを刺し、血を吐いて倒れ込んだ時になって、俺はやっと動けた。
「ラザフォード! しっかりしてくれ、ラザフォード!」
俺は慌てて、道具袋から最上級のポーションを取り出す。
最上級のポーション、エリクシルなら、せめて勇者だけは助けられると信じて。
だけど、エリクシルでも間に合わなかった。
勇者は左腕を失い、腹に大きな穴をあけられていた。
「ラザフォード……」
エリクシルを飲ませても、勇者は、大切な友人ラザフォードは、
「や、やあ、ジョシュア、ケガは、無いかい?」
なんて、死にかけなのに、にっかりと笑いながら俺を心配してくれる。
「無いよ、ケガなんてどこにもない。みんなが、みんなが俺を守ってくれたから。だから……」
「そうか、それは良かった。君は、俺たちの大切な仲間だから、な」
ボロボロと涙が落ちる。友人を助けられない無力感が、俺に絶望を押し付けてくる。
俺はエリクシルを何本も飲ませた。最後の決戦のためにとっておいた最後の一本も、残さず使った。
「はは、さすがにここまでやられちゃ、もうダメ、かな」
「そんなこと言うなよ! 君が倒れたら、世界はどうなるってんだ! それにみんながいなくなったら、誰が俺の冗談で笑ってくれるんだ!?」
「君は、ホント泣き虫、だな。言ったじゃあ、ないか。今度君を泣かせる時は、魔王を倒して、君のジョークを劇場で披露させる時だって、さ」
「そんなの、そんなのみんながいなきゃ意味ないぜ……」
「うれし泣きってのをさせたかったんだけど、ゴメン、な」
ラザフォードの瞳には、もう力がなかった。ケガが治らない。伝説とまで言われた秘薬も、もう無い。
「なあ、ジョシュア」
ラザフォードが、もう焦点の合っていない瞳で俺を見る。
「ここから、逃げるんだ。逃げて、生きてくれ。俺が倒れても、また別の勇者が魔王を倒す。その時には、また君が必要になる、だろう」
「そんなことあるか! 俺を必要としてくれるのは、君たちしかいなかったじゃないか」
「そう、そうかもな。君のジョークは分かりづらい。俺たちじゃなきゃ、楽しめない、かも、な……」
ラザフォードは、最期まで笑って、
「もう一回、君のジョークを聞きたかった、なあ。この前のとか、最高に面白かった、の、に……」
笑顔のまま、逝った。
「ラザフォード! ラザフォード……!」
俺は親友を抱きしめた。抱きしめて、泣いた。
一生分泣いたかもしれない。泣き声は叫びに変わり、喉が痛くなってしかたなかった。
涙も枯れて、声も出なくなってきた時、ソイツがわずかに動いた。
俺は、それを見逃さなかった。
ラザフォードが護身用にくれた短剣を持って、ソイツに飛びかかった。
「お前が、お前がみんなを、みんなをぉぉ!」
目なのか腹なのか、とにかくどこだか分からないところを刺しまくった。
ソイツが本当に動かなくなるまで、何度も、何度も。
どれくらいやっていただろう。ソイツはピクリとも動かなくなって、でも俺はやり場のない感情をソイツにぶつけるしかなくて。
俺がやっと自分を取り戻したのは、場違いな音を聞いてからだった。
「レベル、アップ?」
音と言っても、外に聞こえるものじゃない。自分の中だけで聞こえる、福音みたいなものだ。
力が湧いてくる。感覚が研ぎ澄まされる。体力がみなぎってくる。
「なんで、こんな時に……っ!」
レベルなんか上がっても、意味がないじゃないか。俺はただの遊び人だ。レベルがどれだけ上がっても、勇者や戦士には遠く及ばない。
だってのに、
「レベル99になっただって? ふざけるなよ……っ!」
人類最高の到達点、レベル99。勇者ラザフォードですら至れなかった極みに、俺は立ってしまった。
ソイツが持っていた経験値が、全部俺に流れ込んだのだろう。みんなが受け取るはずの分が、全部。
ソイツは死んだ。俺がトドメを刺したんだ。
嬉しくない。何が人類最高だ。最強の遊び人なんて、笑い話にもならないじゃないか。
俺はのっそりと立ち上がると、友人たちの亡骸を集め、祈った。
カミサマなんて、曖昧なものにじゃない。今まで頑張ってくれた友人たちの正義に祈った。
それが何の慰めにもならないというのは分かっている。でも、俺は見てたんだ。みんなの活躍を、みんなの勇気を、みんなが手に入れようとした平和への願いを。
俺は唯一の武器である短剣と、道具袋を持って、回廊を進んだ。
前へだ。後ろなんて向いちゃいけない。ラザフォードは逃げろなんて言ってくれたけど、俺にはそんな気などさらさらない。
暗い回廊は、まるで俺の心の闇を象徴するかのようだった。俺を先へといざなってくれているようだった。
やがて、重苦しい大きな扉が俺を迎えてくれた。
俺は扉を殴るようにして開けた。この先は、魔王の部屋だと知っている。
「……」
俺は決意を込めて、魔王をにらみつける。
でも、そこにいたのは魔王ではあったけれど、想像とは全く違うものだった。
少女だった。燃えるような赤い髪、ルビーのように輝く意志のこもった瞳。
何も知らない奴から見たら、十人が、いや、百人が揃って美しいと言うだろう。
玉座に座る少女は、魔族の証である立派な角こそあったけれど、十歳かそこらの女の子にしか見えなかった。
だけど、俺は知っているんだ。そんな女の子を倒して、平和を手に入れないといけないことを。
女の子は、俺を見ていた。魔族の目は全てを見通すと聞いている。きっと、呆れられているんだろう。
遊び人、レベル99。魔王から見たら、肩透かしもいいところだ。遊び人が魔王に挑むなんて、バカげていると思っているのだろう。
鉛のように重い空気が、俺と魔王に覆いかぶさっている。
先に口を開いたのは、魔王だった。
「先ほどの不気味な怪物、貴様らの差し金か?」
怪物、差し金? 何のことだ。
「我をも苦戦させるとは、なかなか面白いものを持っているではないか」
魔王の言っていることが分からない。俺たちの差し金? 化け物なんて、俺たちは知らない。
「ふん、おかげで魔力をかなり使わされたぞ。こんな小娘の姿にさせられるとは、酷い屈辱だ」
「待て、何を言っている?」
要領を得ない話を聞かされて、俺は混乱した。魔王は、何か勘違いをしていないか?
俺が、いや、俺たちが魔王の姿を見るのは、今が初めてだ。何も差し向けちゃいないし、むしろ、
「ふざけているのか? 怪物を放ったのはお前の方だろう! 俺の仲間たちを皆殺しにしやがって!」
すると、魔王はいぶかしむように首を傾げた。あっちも話が分からないといった感じだ。
「“死四天”を退けた貴様らが、皆殺し……? バカな。勇者を倒せるのは、我だけよ。貴様と先の化け物は、勇者の先兵だろうが!」
ダメだ。話がかみ合わない。
そこで、俺はやっと気が付いた。暗闇に覆われた部屋にある、奇妙なガラクタに。
「……それは!」
さっき、俺がトドメを刺したはずの、からくり人形だ。翼もある。間違いない。
「魔王が、倒した……?」
どういうことだ? ソイツは魔王が俺たちを倒すために作った怪物じゃなかったのか……?
「……おい、遊び人」
魔王も、俺が戸惑っていると分かったのだろう。俺と魔王の間の空気が、変わっていく。
「先ほどから聞いていれば、どうにも話が合わぬ。勇者たちを皆殺しにされたと言ったな。どういうことだ?」
俺は、さっきの激戦について話した。
勇者も、賢者も、戦士も、武闘家も、今目の前にあるソイツが殺したのだと。
話終えると、魔王は、
「バカな……。このような怪物、我は知らぬ! “死四天”亡き今、勇者を倒せるのは我だけだぞ! それが遊び人を残して全滅だと……?」
どうやら、ソイツは二体いたようだ。それが、俺たちと魔王の両方に襲い掛かっただって?
人類と魔族の両方を相手にする怪物なんて、俺は知らない。魔王も心当たりがないのか、考え込んでしまった。
そこにだ。急に変化が現れたのは。
目の前の光景がねじれる感覚。あり得ないはずの、空間の断裂。まるで世界というガラスを砕くかのように、またソイツが現れた。
やっぱり魔王の手先!?
「ちっ、またか!」
いや、魔王もソイツを警戒している。
「おい、遊び人! 貴様もそれだけのレベルがあるならばこれの相手ができよう? 今は四の五の言っていられぬ。手伝え!」
魔王が、血のように赤いオーラを発した。殺意が向けられているのは、俺じゃない。俺の前に出た、ソイツだ。
俺は急いで道具袋を漁った。何か、俺が装備できるような武器は無いか! もしくは、爆弾みたいな道具でもいい!
ソイツは、臨戦態勢を取っていた魔王よりも、焦っている俺に狙いを定めたらしい。突進してきた。
マズイ、やられる!
俺は一か八かで指先が触れた道具を取り出した。
剣だった。でも、これは……。
「ぐっ!」
いや、今は余計なことを考えている時間がない。
俺は握った剣で、なんとかソイツの突進を受け止めた。
レベル99は、伊達ってわけじゃないらしい。普通なら潰されて終わるはずの突進を、俺が防げたのだから。
しかも、今、俺が握っているのは、
「ユグドラシル……!?」
遊び人には装備できないはずの、聖剣だ。熟練の戦士、もしくは、
「聖剣だと!? 貴様、ただの遊び人ではないのか!」
魔王も驚いている。でも、一番驚いているのは、俺だ。
ユグドラシルは、戦士じゃなきゃ、勇者しか装備できない。遊び人は触れただけでも失神する。それだけ強烈はプレッシャーを放っているのだ。
なのに、どうして?
「よい! そのまま抑えていよ!」
視界の片隅で、魔王が魔法を唱えているのが見えた。
「飛翔鮮血槍!」
ソイツの背後から、魔王の魔法が襲い掛かる。血色の槍がソイツの背中、だろうか、とにかくよく分からない部分に刺さっていく。
甲高い雄たけびが、目の前で発せられた。耳が痛い。しかし、今はそれ以上に、
「お前が、俺の友達をぉぉぉぉ!」
ユグドラシルを装備できる理由なんて、どうでもよかった。
今の俺が戦えるというなら、全力で目の前のソイツを叩き潰すだけだ。
俺は剣なんて使ったことがない。だから、滅茶苦茶に振るのが精いっぱいだ。
勇者たちの戦いを見ていたとはいえ、みんなは天の上の存在だった。俺なんか、見ていても勉強にすらならなかった。
でも、なんとかソイツの動きを封じることはできた。魔王が新たな魔法を唱えている。攻撃はあっちに任せて、俺はひたすら防戦に努める。
それから、どれくらい戦っていただろう。
俺は肩で息をしながら、魔王も額に汗を浮かべながらの辛勝だった。
トドメは、俺の一撃。翼を斬り捨て、脳天をたたき割ってやった。
「はあっ、はあっ」
まだ息が整わない。
「おい、遊び人! これは何者だ!」
「俺が、知るかよっ!」
心当たりなんてあるもんか。ソイツはみんなの仇、俺が知るのはそれだけだ。
「我と貴様の二人がかりでやっと倒せるだと? ふざけるな。こんな怪物、見たことがない!」
人類が知らないだけではなく、魔王にも分からない怪物だと?
でも、確かにこいつの出現は異常だった。今までどんなに強力な魔族であっても、空間を割って出てくるなんて芸当、見せたことはない。
「ちっ、魔力が底をつきそうだ。遊び人、ここは一時休戦だ! またこいつらが現れるかもしれん。我に協力せよ!」
くそっ、確かに俺のジョブは遊び人だけど、連続で呼ばれるとむかついてくる。
「俺には、ジョシュアって名前があるんだ! ただの遊び人じゃねえ!」
「名前など知るか! っ!?」
俺と魔王が言い争っていると、またさっきみたいに目の前が裂けた。
「うそだろ、おい……」
ソイツは、今度は一匹だけじゃなかった。二体、三体、まだだ、まだ増える!
「ちいっ!」
魔王が、俺のところまでひとっとびしてきた。
「おい、魔王!」
「ええい、我にもロスヴィータという名があるわ!」
魔王・ロスヴィータと俺は背中合わせになって、ソイツらと相対する。
力を使い果たした魔王と、遊び人。なんてコンビだ。こんな冗談、ラザフォードだって笑ってくれねぇよ。
「何か作戦はないか?」
ダメもとで、俺はロスヴィータに聞いてみた。
返事がない。あっちも何も思いつかないようだ。
俺にも何もなかった。こういう時、賢者がいてくれれば……。
いや、みんなはもういない。俺が、なんとかしないと。
こうしている間にも、ソイツらはどんどんと裂け目から出てくる。
ん? 裂け目?
「なあ、ロスヴィータ……」
「気安く呼ぶな!」
「いいから聞け! このままじゃ絶対に負ける。だから、逃げ道を探すんだ」
「ふざけるな! 魔王たる我に、敵に背を向けろというのか!」
「その魔王様でも苦戦してるんだぞ!」
「ぐ、むぅ……」
ロスヴィータも状況を認識しているようだ。となれば、ここは悔しいが逃げの一手しかない。
「だが、どこへ逃げろと言うのだ。こやつらはどこからともなく現れる。走ろうが飛ぼうが関係ないぞ」
確かに。
「だから、あそこを狙う」
「あそこだと……?」
俺が指さした先を、ロスヴィータがにらんだ。
「あの裂け目に飛びこむというのか!?」
「他に逃げ場はない。それに、虎穴に入らずんば虎子を得ずって奴だ」
「……敵の親玉を叩くとでもいうのか?」
「それができるなら、俺はやりたい。コイツらは、俺の友達を殺したんだ。復讐してやる」
暗く苦い感情が胸に湧く。じりじりといら立つ感覚が熱を帯び、一気に膨れ上がりそうだ。
ロスヴィータは俺の感情を察したのか、薄く笑った。面白い物を見たとでも言いたげだ。
勇者の仲間が、しかも遊び人が復讐なんて言い出すんだ。確かに魔族からしたら面白いかもな。
「よかろう。貴様の思いに乗ってやろうではないか」
とん、と背中に何かがあたった。それが小さな少女の背中だと気づくと、ロスヴィータは、
「我が最後の魔法で血路を開く。おそらく、それで我は力尽き、気を失うだろう。いささか以上に不本意ではあるが、貴様に我の身を一時任せる」
魔王が遊び人を信じる、か。ついさっきまでは思いもしなかったよ。
「いくぞ」
「ああ」
ユグドラシルを握りしめて、俺は魔王の魔法を待つ。
す、と息を吸う音が聞こえ、次には、
「爆破鮮血砲!」
背中の方から、とんでもない衝撃が来た。
「ぐ、ぬぅ!」
ロスヴィータが唸る。本当に最後の力を振り絞った一撃なんだろう。さすが魔王、とてつもない一撃を放ったらしい。
「後は、任せる」
衝撃が消えると同時に、俺はロスヴィータを抱きかかえた。コイツらの中を、全力で突っ走る。
攻撃が来る。紙一重で避ける。避けきれないなら、ユグドラシルで受け流す。
全く、なんてことができるようになったんだ、俺は。勇者や戦士だって、こんな芸当やりそうにない。
裂け目は目前。後三歩。
走り抜ける。潜り抜ける。そして俺は、残り三歩の距離を埋めた。
行くぞ!
この先に何が待っていようと関係ない。いや、コイツらの親玉がいるなら、全力で抗ってやる!
俺は復讐を強く心に持って、空間の裂け目へと飛びこんだ。
この後、主人公と魔王は意外なところに転移するのですが……。
続きの用意はしておりません。すみません。
201806042113追記
続編というわけではありませんが、続きのようなものを書いてみました。ただ、これも短編です。
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