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アンダーカバー / Undercover  作者: iliilii
第四章 喪失
53/80

53 披露宴

 聖婚式に集う各国の王族はメキナ城に、神殿関係者はメキナ神殿に宿泊する。

 聖女宮殿には警護を兼ねたポルクス隊が常時滞在することになる。

 ファルネラさんとボナルウさん一家、ダファ族の族長夫妻とその次男でもある宿屋のご主人夫妻が招待され、パレード前日から聖女宮殿に宿泊中だ。

 残念ながら明日の披露宴に出席するのはダファの族長夫妻だけだ。本当は全員招待したかった。


 パレードで疲れ切った身体をお風呂で癒やし、嫌だと言うのに通ってみろと歩かされた聖女の家と宮殿を繋ぐ地下道は、じめっと暗いおどろおどろしい場所かと思いきや、所々に自然採光が取り入れられた、白っぽい石畳のきれいな通路だった。


「地下牢って聞いてたのに、なんか普通」

「サヤが想像しているような不衛生な拘禁施設は今時そうはない」


 想像していた地下牢は映画で見た中世のお城の地下牢だ。今時の拘置所や刑務所もそれに比べればずっと清潔なのだろう。

 ファルボナがちょっとアレなだけで、メキナもコルアも少なくとも王都はぱっと見た感じ清潔な都市だ。


 聖女神殿の広々としたやけに豪華な食堂でも、砦同様、みんなと一緒にご飯を食べる。先に厨房に顔を出せば、エニフさんたちポルクスレディを中心として、仕立て職人さんたちが食事の用意をしてくれていた。そのうち何人かはそのまま聖女専属となることが決まっている。


 食堂に顔を出せば、なんと! ファルネラさんたちがあのかっこいい衣装のまま待っていてくれた。


 近くで見るとますますかっこいい。ファンタジー映画の衣装みたいだ。本当は腰に家宝の剣を下げるのが正式な出で立ちなのだそうだ。パレードでは凶器の類いは全て事前に没収されると聞いて、帯剣しなかったらしい。

 見せて、と言ったら喜んで見せてくれた。男女ともに帯剣する。鞘の装飾が美しくて、柄と鍔が一体となったグリップもこれまたかっこよくて、手を叩きながら惚れ惚れと眺めた。


「サヤに喜んでもらえたことを彼らも喜んでいる」

「こんなかっこいいのリアルで見られるとは思わなかった。男の人たちもかっこいいけど、奥さんたちが美人過ぎて、おまけに凜々しくて惚れる」


 四人の奥さんたちの髪型もまたかっこいい。ポニーテールの根元をぐるっと覆っている富士山型の飾りはロングジャケットと同色で、その天辺から垂れ下がる長い髪が金糸のようで、もう本当にステキなのだ。


 さらに、男女とも黒みの強い銀色のサークレットで額を飾っている。その中央には自分の瞳と同じ色の石が輝やき、人によって少しずつ違う瞳の色が見事に石にも反映されている。

 サークレットは成人するときに両親が贈ってくれるものだそうで、代々受け継がれる衣装や剣とは違い、サークレットだけは自分のものになる。両親から贈られるのは一本の細い鎖と中央の石のみ。それに夫婦で様々な装飾を贈り合い、幾重にも鎖が重ねられたり、何かしらの記念にチャームを増やしたりするらしい。


 思わず目の前のシリウスに頭の中で彼らの衣装を着せてみる。あまりの凜々しさに興奮した。ものすっごくかっこいい!

 鼻息荒い私の思考にシリウスは目を泳がせ、耳の先を少し赤くした。


「帯剣すると一層映えるな」


 シリウスが照れを誤魔化すように、ファルネラさんたちを讃えた。

 頭の中のシリウスも帯剣した。くはぁ、帯剣すると一層かっこいい! くーぅ。これが今日から名実ともに私の夫とは。誰にもやらん。

 なぜデコピンの構えをされねばならぬ。なぜ呆れ目なのだ、我が夫よ。


──不審者を妻にした覚えはない。


 そんなに不審だったのか。にたにたした自覚があるだけに素直に反省する。だからデコピンはやめて。


 ファルボナには中型の飛行船が迎えに行き、初めてファルボナの外の世界を目にした婦女子たちは始終歓声を上げていたそうだ。

 男性陣は眼下の豊かな暮らしを見て思うところがあったのか、これまで傭兵として外に出ていた男たちを連合国で働かせることはできないかと道中話し合っていたらしい。


「だったら、まずはネラとルウがうちの隊で働かないか?」


 ここぞとばかりにシリウスが勧誘する。ポルクス隊長から基本給を聞いた二人の目が輝き、ダファの宿屋のご主人が、うちの息子もお願いできないかと交渉している。ファルネラさんが言うには将来を期待できる成人直前の男の子らしく、まずは学校に通わせることで話が付いた。

 ファルボナ男子は元々身体能力が高いらしく、その中でも鍛え上げられているファルネラさんやボナルウさんの体躯をポルクス隊の男たちも感心するように眺めている。


「ちなみに基本給ってどのくらい?」

「ファルボナならひと月分で一年は食えるくらいじゃ」


 ブルグレ解説員が果物をつまみ食いしながら微妙にわかりにくく教えてくれた。日本円でいくらかを訊けば、知らん、とそっぽを向かれた。さては計算できないな。蹴られたから図星だ。


 それぞれ思い思いの席に着き食事をする。砦同様、わりと適当な感じだ。食事そっちのけで会話もするし、途中で席を移ったりもする。かなり砕けた感じに思えるも、親しい間柄ではこれが普通らしい。


 仕立て職人の女性たちはファルボナの民族衣装に興味津々で、実は同じような腰帯をもらったことをジェスチャーで伝えたら、明日の披露宴でそれを腰に巻いてみないかと提案された。糸の組み方が独特らしく、職人ガールたちが鼻息を荒げながらその組み方をファミナさんたちに聞いている。

 これが連合国で流行ればファルボナ女性の仕事が増えるかもしれない。


「エニフのように外で働く女は珍しい。女は家で内職して稼ぐのが主流じゃ」

「それって、女は家にいろって感じ?」

「いや、違う。単なる役割分担じゃ。家のことをやりながら合間にできる仕事が主流なだけじゃ」


 だからなのか、女性官僚のエニフさんたちポルクスレディはみんなの憧れらしい。

 今回聖女専属になった職人さんたちは連合本部に雇われるため、いわばエリートの仲間入りだと喜んでいたとか。

 その彼女たちは、エリート中のエリートであるポルクス隊の面々をわかりやすく意識している。何気に食堂の一角が合コン化している。


「あの娘たちはそこそこいいとこのお嬢なんじゃー」

「お金持ちのお嬢様って働く必要ないんじゃないの?」

「家柄のいい娘は家のことをせんでいいから仕立屋で働ける。するとじゃ、腕さえよければ王家からも声がかかる。今回集められたのもそんな娘たちじゃー」


 身分が高いから働かないとか、お金があるから働かないとか、ここではそういうことはないらしく、外で働く女性が少ないから目に付きにくいだけで、腕の善し悪しが女としての魅力にも収入にも繋がる。

 男の人が国や軍の学校に通うのに対し、女の人が通うのは神殿の学校なのだとか。そこで読み書きのほかに内職に繋がる刺繍や裁縫などを覚えるらしい。


「手に職を持つ娘は多い。お前さんのようにゲームばっか巧い娘はおらーん」


 この世界にゲームはないのだから巧い娘もいるわけない。ブルグレ解説員が妙にご機嫌だと思ったら、私にも一応配られていた果実酒を舐めていた。


「精霊がお酒飲んでいいの?」

「飲んじゃいかんのか?」

「知らないけど、酔わないの?」

「気分はいい。いつもよりふわふわしとーる」

「それを酔ったって言うんじゃないの?」


 ファルネラさんたちと談笑しているシリウスに、ブルグレがお酒飲んだ、と頭の中でチクったら、しばらくしてノワが顔を出した。


「ちょっと舐めてみただけなんじゃー」


 典型的なダメおやじの言い訳に、ノワが思いっきり呆れた目を向けている。


「ノワも飲んでみる?」

「おいしいの?」

「うまーい!」


 ブルグレの上機嫌なひと言に、ノワに果実酒のグラスを傾けながら差し出すと、舌先でぺろっと舐めたあと鼻の上に皺を寄せた。


「おいしくない?」

「んー……微妙。舌がぴりっとする」

「アルコールは合う合わないがあるっていうから、ダメそうならやめて果物でも食べれば?」

「そうする。それにしても賑やかね」

「うるさい?」

「んー……まあ、悪くないわね」


 うるさいのは嫌、と不参加を表明していたノワは、一人が淋しかったのかもしれない。


「そうね、一緒にいることに慣れちゃったわね」

「楽しい賑やかさってなんかいいよね」


 黒猫ノワの登場に、ポルクスレディたちと遊んでいた子供たちが寄ってきた。触れようとする子供たちを、ノワがしゃーっと威嚇している。


「大人気ないよ」


 怖がるかと思った子供たちは、むしろはしゃいだ。

 ノワは触られないよう逃げながらも子供たちの相手をしてくれ、中庭の家に帰る頃にはぐったりしていた。




 披露宴は夕方に開かれる。

 結婚したという実感も湧かないまま、いつも通り朝ご飯を食べた後、シリウスに宮殿の方に連れて行かれた。待っていたのは輝かしい笑顔のポルクスレディたち。


「なんでまだ昼前なのに準備するの?」

「昨日は飛行船の中にいたからよく顔が見えなかっただろう。今日はよく顔が見える」


 つまり、メイクでレベルアップしろってことですね。


「違う。素顔を隠せということだ。エニフたちは腕がいい。素顔を晒したら色を変えたところで今後街を歩けなくなる。披露宴の前に広場に顔を出す」


 コルアでもボウェスでも、別人かと思うくらいメイクをされていたのはそういうことなのか。

 昨日だって割と濃いめにメイクされた。今日はそれ以上に濃いメイクになるのか。


「濃くはならない。顔の印象が変わるだけだ」


 なにそれ。詐欺メイクか。


 で、エニフさんたちに全身をこれでもかとマッサージされ、びっくりするくらい小顔になった。できれば毎日してほしい。おまけになぜか肌がもっちもちのぷっるぷるだ。


「何もしてないのに目が大きく見える」

「見えるな」

「シリウスもやってもらいなよ」

「俺はいい」


 お昼に顔を合わせたシリウスがエニフさんに「輪郭を変えろ」と無茶な注文を付けた。無理だろう、と思っていたら、再びこれでもかとマッサージされた後、丸と卵型の中間だった輪郭が完全に卵形に変わっていた。目を見開いている自分の顔が微妙に他人だ。顔がしゅっとしている。


「私ってデブだった?」

「いや。むしろ痩せすぎだ。もう少し肉を付けろ」


 だよね。大帝国でがりっがりに痩せてしまって以来、未だ元に戻っていない。元々中肉中背だった感覚が抜けず、今でもそのつもりでいるけれど、実際はまだそこかしこが骨張ったままだ。

 小顔になったのに頬はふっくらして見えるのだから不思議だ。しかもマッサージ効果で血色がいい。


 で、時間をかけてメイクされたら、あら不思議。なんとなく雰囲気が似ている別人ができあがりましたとさ。

 びっくり仰天だ。詐欺メイクとはレベルが違う。


「特殊メイク?」

「任務に必要だからな。男も必要なら顔を変える」


 すごすぎる。なんとなく女装した兄か弟に見えなくもないのが微妙だ。

 面白かったので休憩がてらポルクス隊のみんなとファルネラさんたちに見せに行った。思いっきり笑われたのはなぜだ。微妙にオネエっぽいからか。




 メキナ城の入り口は、城前広場から続く幅広で長い石段の上にある。

 広場に飛行船で乗り付け、そこから階段を上って城に入る。広場には大勢の人が詰めかけ、これまた人間柵によってガードされている。

 熱狂的──その感覚を身を以て知った。


「えー……階段めっちゃ長いし。何段あるの?」

「百と少しだ」


 私の後ろには長い羽織り物の裾を持った仕立て職人さんたちが続く。彼女たちの晴れ舞台でもある。


「だから基礎体力を付けろと言っただろう」

「普通、お城の、前の、階段が、百、段も、あると、思わない、よ」


 忙しない息の合間に喋るのは苦痛だ。あ、頭の中で喋ればよかった。疲労物質に侵されて思考力の低下が著しい。


「まだ二十ほどだぞ」

「後ろの、お嬢さん、たちは?」

「平気そうだ。サヤよりは体力がある」


 うそでしょ、とさり気なく振り向けば、美しい宝石と刺繍に彩られた羽織り物の裾を手にする彼女たちは晴れがましくも涼しい顔をしていた。私は間違いなく鬱陶しいほど暑苦しい顔をしているはずだ。

 このあとご飯食べるとか無理。吐く。

 そもそも一段一段が高いのだ。足の短い人種にも配慮してほしい。今までの感覚より更に数センチ足を上げるだけなのに、それが段を重ねるごとにじわじわ筋肉を痛めつけてくる。子供の頃によじ登った神社の石段みたいだ。祖母の「よいしょ、こらしょ、どっこいしょ」という掛け声を思い出す。


 昨日のパレードで、メキナ王都は思いの外起伏があることに気付いた。王都と言うくらいだから平らに均されているのかと思いきや、なだらかな上り坂や下り坂が普通にあった。普段空ばかり飛んでいると気付かないものだ。

 メキナ城は小高い丘の上に築かれている。だから、城前広場から城の入り口まで百段以上もの石段ができたのだろう。


 ひーひー情けない声を上げながら、こんなことならノワの背中に乗せてもらえばよかった、と頭の中でぶちぶち文句を言っていたら、仕方なさそうなシリウスに抱き上げられた。広場からの怒濤の歓声に目の前の顔があからさまにしかめられる。観衆に背を向けているからって、その顔はない。


「サヤの顔の方がどうかと思う」

「必死の嫁を笑うヤツはガバに蹴られてしまえ」

「ここで俺がこれをやってしまえば、後に続く者も同じようにするだろうと、民が勝手に期待する。メキナの第三王子は翌年の結婚が決まっているんだ」

「えー、やってあげればいいじゃん。ドレス着て品良くこの階段上るとか本当無理」

「王子は軍人じゃない。そこまで体力があるわけないだろう」

「結婚式までに鍛えればいいじゃん」

「サヤは聖婚式までに鍛えたか?」


 ぐうの音も出ない。そもそも昨夜シリウスがはっちゃけたのも一因だ。


「だから基礎体力を付けるよう言っただろう」

「なんでも私の体力の無さに結びつけるのやめて」


 そうこう話しているうちに階段を上りきった。一息吐いたシリウスの腕から降ろされ、広場に集まった人たちに顔を向ける。

 唸るような歓声に大気が揺れた。つい無意識に左手が上がっていた。それに一層の歓声が沸き起こった。




──ただ片手をあげただけで聖女崇拝が一気に蔓延した。

『人をウィルスみたいに言わないでよ』

──いや、思った以上にすごいと思ってな。

『手を振ればよかったかな』

──そこまで応える必要はない。


 左右に並ぶ長いテーブルの間を、シリウスと並んで勿体つけるようにゆっくり進む。視線を正面に固定して、決して左右に立ち並ぶ招待客を見てはならない、何があっても視線を合わせてはならない、ときつく注意されている。視線が合っただけでいいように解釈されてしまうという恐ろしい忠告も頂戴した。


 ここでも羽織り物の裾を持ったベールガールならぬ職人ガールたちが後に続く。彼女たちにしてみれば腕と顔を売るいいチャンスだ。お揃いのシンプルなワンピースに身を包み、入場前は緊張と期待に頬を上気させていた。がんばれ、と声をかけたら、意味もわからないだろうにそれぞれ笑顔で応えてくれた。


 私とシリウスの間を羽リスたちが囲んでいる。ブルグレの演出らしい。そのブルグレは私たちの前を誇らしげに飛んでいる。


 正面の雛壇に据えられた席に着く。職人ガールたちが裾を手際よくかつ美しく折り畳んで退場した。

 会場にいる全ての人が入場時から起立したまま手を胸に添え、聖女への敬意を表している。シリウスの声にその手が下げられ、彼らも一斉に着席した。

 シリウスの肩に乗るブルグレが「苦しゅうない」と偉そうに言うものだから、思わず笑いそうになった。ふんぞり返っているブルグレにいくつもの視線が集中している。


『王様たちの中にも能力持ちっているの?』

──王家は能力持ちを王妃に据える傾向があるからか、子が力を発現しやすい。

『お母さんに自然と習うみたいな?』

──そんな感じなのだろう。はっきりと証明されているわけではないが、母親が能力持ちの場合、その子供の発現率も高い。


 子供に一番長く触れているのが母親だからか、それとも、ギエナさんから赤ちゃんに力が移されたように、母乳によって力が移動するのか。


──ああそうか。子に母の力が移されるせいで、母が力を使うたびに、母の力を移された子もその感覚を得ているのかもしれない。

『だから発現しやすい?』

──そう考えると納得できる。


 一番近い席にコルア国王夫妻が並んでいた。その向かいには大帝国の第一王子。コルア国王夫妻の隣にはボウェス国王夫妻の姿が見える。

 聖女側に並ぶ長いテーブルには各国王、シリウス側の長いテーブルにはメキナ神殿長をトップに神殿関係者が席を占める。


『席順揉めたでしょ』

──揉めたなんてもんじゃない。神殿側はメキナ神殿の長に丸投げした。


 だろうなぁ。コルア国王がものすごく誇らしげだ。ダファ族長夫妻はどこかとさり気なく見渡せば、一番末席に座っていた。一番聖女と仲がいい国なのに、一番遠い席に着かせてしまうのが申し訳ない。


──今はまだ支援を受けているせいで完全な加盟とまではいかないんだ。今でこそ末席だが、国土的には一番広い国になる。これからの発展に期待する者も多い。

『やっぱりファルボナの民族衣装が一番ステキだね』

──周りからも注目されている。皆も初めて目にするようだな、感心している者が多い。おまけにあの夫妻は姿勢もよければ品もいい。ファルボナの民を見直す者も多い。


 出された料理をひと口ずつ摘まむ。ブルグレが遠慮なくテーブルの上に降り、果物を頬張っている。果実酒にまで手を出そうとして、シリウスに取り上げられていた。

 羽リスたちにもメロンに似た形のオレンジ色の果物を小分けにしてあげた。嬉しそうに両手で頬張る姿に頬が緩む。


 そこで羽ヒョウサイズのノワが姿を現したものだから、会場中がざわめいた。

 ノワは姿を隠してこっそり付いてきてくれたのだ。


「果物欲しくなった?」

「まあね。妙に甘い匂いがしてるわ」


 二股フォークで口元まで運んでやれば、くわっと牙を剥きながら口が開いた。さり気なく周囲を威嚇するのはどうかと思う。


「見過ぎなのよ」

「それはわかる。どんだけ見れば気が済むんだってくらい見られてるよね」


 私のお皿が空になったからといって、シリウスにまでねだるのもどうかと思う。ブルグレの「わしにも!」という必死のアピールも完全スルーだ。

 シリウスが苦笑いしながらノワに果物を食べさせている。シリウスの背後に控えるレグルス副長が無表情を装いながらも羨ましそうな目をしていた。






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