第二話
いつもなら空気みたいな扱いをしてるバスの運転手に遊園地のことを聞いてみたら、実際存在したよだなんて軽く言われたり、じゃあ全部は無理だろうから、どの噂を調べるのか、とかDと相談したりして、バスに揺られること数十分。
雨風で汚れまくったベンチしかない停留所に降り立った俺たちは、民家もなさそうな山の中で、所々に置いてあった錆びた看板を目印にして、噂の遊園地を捜索し始めたんだ。
幸い、俺以上に運転手と話し込んでたDが、遊園地までの道のりも詳しく聞いてくれて、そんなに迷うことはなかった。
遊園地に到着したのは、昼を大分過ぎた時だったと思う。
『ようこそ! Uドリームランドへ!』
なんてデカイ看板があった。その下に入園口が四ヶ所あって、全部鎖で封鎖されてた。立ち入り禁止の看板も、あった気がする。
まあ、ここまでは、ごく普通の? 廃園になった遊園地にしか見えなかった。
だけど。
俺「Aのヤツ、遊園地は廃園になってる、とか言ってたよな?」
D「自分もそう聞いた。バスの運転手もそう言った。間違いない」
Dも廃園したのは間違いないって、力強く頷いてくれたけど、遊園地の看板が光ってたんだ。何回見ても、光ってた。
おかしいだろ? 話を持ってきたAも廃園してるって言ってて、ここを知ってたバスの運転手も廃園したって言ってたのに。
だけど、入り口の看板に付いてる電球は、当たり前のように点滅してたんだ。絶対におかしい。
でも、俺は楽しみで仕方なかった。この先、何が待ち構えてるのか、予想も出来なくて。
俺「おいD! D、これ! どういうとだよ!」
D「聞かれても困る。とりあえず行って、確認するしかないだろう」
俺「いや、そう、だけどさ…………なんつうか、お前、冷めてんなあ」
D「十分驚いてる」
興奮して、怒鳴るように叫ぶ俺とは逆で、Dは驚いてるとか言ったくせに、いつもの、詰まらなさそうな顔のままだった。
冷静な突っ込みまでもらって、若干テンション下がりつつ、Aからふんだくって…借りてきた遊園地のパンフレット片手に、俺とDは、入り口を封鎖してた鎖をまたいでいったんだ。
俺「うっわ! すげえな!」
D「……廃園してるとは、思えないな」
俺「だよな! だよなあ!」
遊園地の中も明かりが点いてて、しかも、いかにも遊園地っぽい音楽まで流れてた。ただ、明かりは点滅してるのも多くて、音楽も所々音が飛んだりしてた。
それでも、普通じゃないのは確かだった。
またテンション上がってきたけど、とりあえず落ち着こうって思って、パンフレットを確認することにしたんだ。
俺「ふんふん、なるほど…おお…」
左側に、ジェットコースター、その奥にアクアツアー。遊園地の一番奥には観覧車。観覧車の手前、つまり、俺たちの目の前にドリームキャッスル。
右手前には、メリーゴーラウンド。その奥にミラーハウス。
俺「うおおおお…」
俺たちが目の当たりにしてる光景と、パンフレットに書かれてたアトラクションの位置は、完全に一致してた。
もちろん、廃園になってるから、園内はきれいとは言えなかった。
どこも雑草と錆と苔ばっかだったけど、ジェットコースターの骨格はあるし、観覧車は動いてて。
メリーゴーラウンドからは物悲しい感じの音楽が流れてきて…ってところで、あれ? って思ったんだ。
D「動いてるのは観覧車だけだな」
俺「だな、って! お前、当たり前のように言うなよ! 普通突っ込むところだろ!」
D「突っ込んだって仕方ない。業者らしき人も車もないし、大方、誤作動とかだろう」
俺「誤作動ぅ? ホントかよ」
廃園になった遊園地だっていうのに、観覧車が動いてる!
なのに、Dは平常運転だった。しかも、淡々と「噂を確かめに行くぞ」とか言うわけ。
一緒に驚いてくれるのが当然だと思ってた俺からすれば、肩透かしを食らったみたいな感じだった。
そんなこんなで、楽しくなってきた俺と、楽しいのか分からないDとで、どのアトラクションに行くのか、もう一度確かめ合ってさ。
結局、バスの中で決めたように、ドリームキャッスルかミラーハウスにしよう、っていう話に落ち着いたんだ。
俺「んじゃ、まず城に行ってみようぜ!」
D「了解。それから、城じゃなくて、ドリームキャッスル」
俺「どっちでも一緒だっての!」
この頃には、どこまでも平坦なDの声も気にならないぐらい、俺は胸を弾ませてた。
存在するのかも分からなかった遊園地があっただけでも驚きだっていうのに、明かりがついてるわ、音楽が鳴ってるわ、観覧車が動いてるわでさ。
一目見て、誰も手入れしてないっていうのが分かるのに、完全に稼動してる。これで、興奮しないわけがないだろ?
ウキウキしながらDと二人、荒れに荒れた遊園地の道を歩くこと数分。何事も無く目的地の、ドリームキャッスルに着いたんだけどさ。
俺「うえっ、コレすげえヤバくね?」
D「ドリームはドリームでも、悪夢見そうだな」
城…ドリームキャッスルは少しだけど、傾いてることが分かるぐらい、傾いてた。ここまでテンション上がりっぱなしだった俺も、びびって声が小さくなったぐらい。
一方のDは、相変わらず涼しい顔して、楽しみだとか、頭おかしいこと言って余裕ぶっこいてたけど、俺はコレ無理だ、無理無理って最初から諦めてた。
俺「地震でも起きりゃ、潰れそうだしよ。D、どうすんだよ」
D「そうだな…」
ドリームキャッスルは、かなりデカい城で、壁に蔦が這ってるのは、それっぽかった。
だけど、アトラクション全体が傾いてる以外に、城についてる塔の屋根が崩落してたり、外壁が崩れてたりと、身の危険を感じる位、ヤバイ雰囲気が漂ってた。
笑える所は、ドリームキャッスルの入り口に突っ立ってたデブウサギの人形に、錆びた看板が直撃してたことぐらいだった。
正直、ホラーキャッスルっていうアトラクションだって言われても、全然問題なかったと思う。
俺「ミラーハウスにしとこうぜ。これ、探索してる途中で崩落すんだろ」
D「それはない…と言い切れないな。けどお前、バスの中で、あれほど城だ城にするぜ! って乗り気だったじゃないか」
俺「やめやめ! とっととミラーハウス行ってよ、別の俺見つけて帰ろうぜ!」
D「見つけるというか、入れ替わる…」
ヤバ過ぎる外観を前にして、もう俺はこの傾いた城を探索する気はなくなってた。けど、Dは危険だの何だの言いながら、未練があるみたいで、やたら目を向けてたんだ。
それなら、ってことで、俺はミラーハウスの噂を確かめてくるって言って、全力で逃げることにしたんだ。
ミラーハウスは、ドリームキャッスルに行く前、Dと確認してきたんだ。
もちろん、建物は傾いてなかったし、中は鏡でできた迷路らしいから、噂の確認をするだけなら楽勝、って思ってさ。
だから、城に入るかどうか、まだ悩んでたDの肩を、後は任せたって感じで叩いて、俺はミラーハウスに行ったんだ。