第一話
先行している「夢城譚」の、ミラーハウス側視点となります。
よろしくお願いいたします。
あれは本当に現実だったのか。
それとも恐怖のあまり見せた幻なのか。
今でも分からない。
だから、あの時体験したことを忘れないためにも、聞いて欲しい。
胸張って田舎って言える場所に住んでる俺たち五人は、いつも図書館兼集会所に集まって適当に過ごしてた。
田舎だから、ほとんど人は来ないし、冷房も効いてるから、だらだら過ごすのに最適な場所だった。
そこでゲームしたり、近場から怪談話を探してきては披露し合ってさ、下らねえって笑って、夜になったら解散する、っていう感じで毎日過ごしてた。
その日は、やたらAがテンション高くて、俺たちがゲームしたり雑談してる間も、落ち着きがなかった。
A「聞いてくれよ! 実はとっておきの怪談話があってさ!」
C「あ」
B「おいA! お前のせいでミスっただろ!」
突然身を乗り出したAの肘が、つい最近発売したゲームをやってたBに当たったけど、Aは気にしなかった。
それどころか、自慢げに紙を取り出したんだ。それも、ただ白い紙じゃなくて、やたらカラフルだった。
見た感じ、古臭さが漂ってたんだけど、妙に保存状態が良かった。
それを、Aは得意げに見せびらかしてきた。
俺「なんだ、その紙?」
A「紙じゃないぞ俺君! パンフレットだ! パ・ン・フ!」
B「くっそ! おいA! お前のせいで! 折角ノーミスだったのに! こンの馬鹿!」
C「なんだ? 『Uドリーム…ランド』?」
Bのゲーム画面を見てたCが、パンフレットの文字を読み上げたんだけど、意味が分からなかった。
確かに、ここらは辺は『U』っていう地名だけど、ドリームランドなんて名前の場所、聞いたことがなかった。
A「知らねえ? お前とかDさ、ずっとココに住んでるだろ?」
D「そもそも、そのドリームランドって…公園か? それとも遊園地?」
Aの言うとおり、俺やDだけじゃなく、俺たち五人は、ずっとこの辺りに住んでた。けど、心当たりなんて全くない。
名指しされたDも、眉を寄せて首振ってたしな。
A「遊園地遊園地! ほら、向こうに山あるじゃん、U山。その中に、ぽっかり平地があって、そこだD君!」
困惑する俺たちの中で、Aだけは鼻息荒く興奮状態だった。
そして、持ってたパンフレットを、Bが座ってた机の上に広げ始めたんだ。
ゲームを続けようとしてたBは迷惑そうだったけど、Aは知ったこっちゃないって感じだった。
A「へへん、どうよ!」
B「…へえ。意外とマトモなアトラクションあるじゃん。普通に遊べるんじゃね?」
D「ジェットコースターに観覧車、アクアツアー…ふうん」
確かに謎の自信が満々なだけあって、パンフレット自体はかなりしっかりした物だった。
ジェットコースターだとか観覧車は遊園地として普通だったけど、アクアツアーにミラーハウス、だなんて聞き覚えないアトラクションまであった。
釣りか? と疑ったけど、それにしては手が込みすぎてるパンフレットに、ゲームを妨害されて悪態吐いてたBや、普段から楽しくなさそうな顔をしてるDも、いつの間にか釘付けになってた。
もちろん、俺もその一人だった。
B「…U線から送迎バス………U交通からは…って」
俺「おい! おいおいおい! これマジかよ!」
パンフレットの表には、遊園地の案内図が載ってたんだけど、裏には交通機関が書いてあったんだ。
驚いたことに、普段から俺たちが使ってるバスや電車の名前が当たり前のように載ってた。
これもしかして本物じゃないかって、皆興奮して、一気に騒がしくなった。
だって、遊園地だなんて馬鹿デカイ施設が、俺たちの生活圏内にあって、しかも、その存在を誰も知らないんだ。
もう全員が、好奇心を刺激され過ぎて、テンションがヤバい状態だった。
A「この遊園地、廃園になったんだけどさ! その原因に、色んな噂が関わってるんだと!」
そんなこんなで、しばらくパンフレット眺めて俺たちが盛り上がってたら、横からAがそんなことを言ってきた。
俺「噂ぁ? どんな噂だよ?」
B「人が殺されたんだろ? よくあるよな!」
C「いや、遊園地が廃園になる理由なんて、利用者数の減少ぐらいだ。あとは、運営会社の方で不祥事があって倒産したという可能性も…」
D「C、真面目な顔してボケなくていいから」
一人明後日の方向に飛んでったヤツがいたけど、その頃には俺も含めて、皆Aの話に夢中になってた。
話を急かす空気の中、誰も存在を知らなかった遊園地と、廃園した原因になったっていう『噂』についてまとめると、こんな感じだった。
一つ、開園してから廃園になるまで、何人かの子どもが遊園地内で行方不明になった。
二つ、ジェットコースターで、大きな事故が何度も起きた。なのに、どんな事故なのか、誰も知らない。
三つ、アクアツアーで、不気味な生き物の影が、何度も目撃された。
四つ………
B「なんだその……それ」
俺「らしい、っちゃあ…らしいか?」
C「なるほど、そういう噂か」
怪談話じゃ良くある噂って言えばそれまでなんだけど、まさか噂が七つもあるだなんて思わない。
Aは最後まで得意げだったけど、皆は微妙な顔になって「それで?」って感じだった。
けど、Aの話は、そこで終わりじゃなかった。
A「つうわけで!」
A「七つあるこの噂さ、誰か確認して来てくんね?」
俺BCD「は?」
はあああっ? って話だ。
普通なら「実は俺、その遊園地に行ってきて、こんな怖い体験をしてきて…」ってなるだろ? それが違った。
Aはイイ笑顔浮かべて、噂の検証を全力で俺たちにブン投げてきた。当然、皆、嫌な顔をしてたと思う。
遊園地が実在するのかCが聞けば、分からないとか答えるし、金がないから噂の調査を誰かに任せる、とかAは言うわけ。
その後も、BとCがAと言い合ってたんだけど、俺はヒマだったし、まあ行ってもいいかな、程度の軽い気持ちで、手を上げたんだ。
俺「よっし、俺が行ってやるぜ!」
D「分かった、自分が行くよ」
そしたら、なんかハモってんの。
俺の他に、こんなワケ分からないことに付き合うヤツがいるのか、って見たらさ、いつも詰まんなそうな顔してるDが、俺を見て驚いてたんだ。
いや、驚いたの俺の方だから。
その後、CもDが手を上げるなんて、って茶化したり、心配してくれたBに、Dが、言いだしっぺのAが金払うから大丈夫だとか言って、Aが大反発したのを無視したりとか色々あった。
でも最後には、俺とDが廃園になった遊園地を調査するのが決まって、数日後、集会所近くのバス停で、Dと待ち合わせることになったんだ。