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素敵な夢に贈り物を  作者: 月出明人
1章:夢のような現実
8/24

1-5:窮地と始動

 パジャマでシ・ブ・ヤ♪

 こんにちは颯汰(そうた)です。自宅で美紀(みき)とイチャコラしていたら、渋谷駅にいました。


 なるほどわからん。


 てかどうやって帰るんだよ。パジャマのまま歩くとか罰ゲームってレベルじゃねーぞ。しかもこれ、みちるが『どうせ他人には見せないからいいでしょ?』って勝手な理由で上下ピンク(・・・)なんだよな……。

 当然、昨夜の一件で美紀(みき)にも見られているわけだが、この姿を見たあいつは両手で顔を押さえ、床を転げ回りながら悶絶していた。他人に見られたじゃねーかバカ姉貴め。まぁそのお陰で、かわいー! って抱き締められたから半分くらいはお礼を言ってやってもいい。それにしても、やっぱり胸なかったなあいつ……。


 閑話休題


 早めに美紀(みき)に無事を伝えないとな。いきなり俺が消えたんだ。今のあいつ(・・・・・)が、この状況で長時間耐えられるとは考えにくい。また、泣かせちまってるのかな。せめて電話ができれば安心させてやれるんだが。俺の両手にそれを叶えるものはなく、テーブルの上に置かれたままであろうスマホを思い出して舌打ちした。


美紀(みき)だったらこっから2分か。空を飛ぶとか憧れるよなー。急いで帰りたいけど俺はまぁ、走るしかないわな。」


 そんな風に空を眺めながらぼやいていたが、このままじっとしても仕方ないので少しでも早く帰るためにと走り出す。身体能力は上がっているんだ。全力で行けばそこまで時間もかからないかもしれない。車も人も見当たらない(・・・・・・)この世界ならショートカットできるはずだ!

 まるで、今ここにいる自分や美紀(みき)の存在を否定するかのような思い込みをしていることに気付かず、俺は道路を跨ぎガードレールも飛び越え駆け抜けていく。しばらくして、大通りから脇道へと角を曲がったところで、俺は誰かとぶつかった(・・・・・・・・)


「あ、すいません。え?」


 人がいた(・・・・)?! 慌てて振り返ると、そこには見知らぬ学生服を着た男が立っていた。美紀(みき)以外で見る初めての人だ。同じ境遇に身を置く者として勝手に仲間意識を生み出していたのだろう。俺は少し嬉しくなりながら思った。ここはしっかり挨拶をせねば。だが……。


「いてぇな。テメェ誰にぶつかったかわかってんのか?」


 随分なご挨拶だった。


 うわぁぁ、何このチンピラのテンプレ。なんか面倒なやつに出くわしちまった。ここは素直にもう一度謝って早めにオサラバするとしよう。


「ほんとごめん。じゃあ急いでるからこれで。」


 そう言って背を向けた俺の顔のすぐ横を、物凄い勢いで何かが(・・・)飛んでいった。それ(・・)は建物を貫通しながら風穴をあけていき、3回ほど繰り返した後でようやく止まったようだ。


「なっ!? 能力(・・)……か。」


「あ? お前男か? そんな格好で外うろついてるとか、頭イカれてんのか?」


 確かに天下の往来でピンクのパジャマはない。だが今は、いや今じゃないとしても放っておいて欲しい。でっけーお世話だ。


「好きでこんな格好してるわけじゃねーよ! てか、いきなり何すんだこの野郎!」


「お前、生意気だな。」


 理不尽ないちゃもんをつけながら、掌をこちらに向けてくる。そこから岩を削ったような細長いものが現れた。そして--


「なぁ、能力(・・)を知ってるってことはお前もなんか使えるんだろ? ちょっと俺に見せてみろ、よっ!」


 言い終わる直前。ヤバい、と直感した俺は咄嗟に横に跳んだ。それと同時、俺の耳のすぐ横で風を切るような音が聞こえたので、慌ててその音の正体を視線で追いかけると、先程と同じように建物を貫通していた。


 避けなければ当たっていた。


「んなっ!? まて! そんなの当たったら死ぬだろうが!」


 肩ぶつかっただけで殺す気か。イカれてんのはてめぇじゃねえか! 俺はそれ(・・)を食らった姿をイメージしてしまい、汗が噴き出し呼吸が荒くなった。どうする? 逃げ切れるのか? ヤバいヤバいヤバい。


「あ? 身体能力上がってんだろ?こんなもんじゃ死なねぇだろ。それより、お前の力見せろって言ってんだよ!」


 人の話が聞けない子かこいつは! 要求するくせに、返答も待たずに次々と攻撃してくる。くそっ! 能力(・・)なんてまだねぇよ! そんな愚痴を言葉にする余裕もなく、ひたすらに襲いかかる岩の槍を避けていた俺だったが、そのうちに少しずつ余裕が出てくるのを感じた。

 ちょっと慣れてきた? なるほど、身体能力が高いってのはここまでのものなのか、と冷静に頭が回り始めた。おそらく最初の攻撃の時は、こっち(・・・)での体の変化に理解が追い付いていなかったんだ。今はよく見れば避けれる。そう分析していた俺だったが、思考の流れの中で疑問が生じた。


 いや、そもそもなんで俺が攻撃されてんだよ!!


「いい加減にしろ! こっちは急いでんだっつの! バトル漫画的な展開は他所でやれっ!」

 

「だからよ。誰に向かってタメ口きいてんだ。早く能力見せねーと、怪我じゃ済まねーくらいにしてやんぞ?」


 そう告げた男は、左手で岩の槍を放ちながら右手を空に掲げた。なんだ? と思った次の瞬間、頭上に直径2メートルほどの火の玉が渦巻いていた。


「んなっ?!」


 おいおい、冗談だろ……。あれはシャレになんねぇぞ。仮にあいつの言う通り、本当に死なないような攻撃だったとしても、それでも大怪我は免れないであろうことは簡単に予想できた。


「今度はちょっと(・・・・)熱いかもな?」


 確実にちょっとでは済みそうもないそれ(・・)が俺に向かって放たれた。ふざけんな! 俺が動けなくなったら美紀(みき)が! くそっ! 美紀(みき)!!


「くそがああぁ!!!」



「うわっ?! 颯汰(そうた)?!」



 ……あ?


 次の瞬間、俺は自宅にいた(・・・・・)


「え? 美紀(みき)? あれ? 家?」


「どこに行ってたの?! 突然消えたから心配したんだよ?! 帰ってこなかったらどうしようって私……。」


 美紀(みき)は目に涙を浮かべていた。また泣かせてしまったようだ。


「ああ、ごめんな。えっと、どこから言えばいいんだか。俺は今まで渋谷駅にいたんだ。」


「渋谷駅?! どうやって?」


 それは俺も知りたいところだったが、その考察は一旦脇へ置き、さっきまでの状況を説明することにした。イカれたバトルジャンキーに出会ったこと。そいつの能力(・・)の岩の槍と火の玉のこと。危うく殺されかけてこっちに戻ってきたこと。


「そんな危険な目にあってたんだ……。やっぱり私が探しに行くべきだったわ。」


「いや、あの場にいたのが俺だけで本当によかったよ。あいつの能力(・・)なら、空にいる美紀(みき)にも容易く届くだろうしな。」


 ビルを貫通するほどの威力だ。その結末は想像したくもない。無事だったから言えることだが、空にいれば安心なんていう慢心を取り除くにはいい機会だったと思うことにしよう。撃ち落とされてからでは遅すぎる。

 それにしても、今思えばあいつ火と岩の2種類の能力(・・・・・・)を使っていたな。それともあの2つには別の括りが存在して、それをまとめて1種としているのだろうか。いや、そもそも1種類しか能力(・・)が持てないなんていうのは俺の思い込みでしかないのかもしれない。


「でも本当に無事でよかった。ねえ一度休憩にしない? 疲れてるでしょ。お茶取ってくるね。」


 考え事をしながら俯いていた俺を美紀(みき)が気遣ってくれたようだ。


「ああ、頼む。」


 考えても仕方ない。今は2種類どころか最初の1つ目からだ。キッチンへ歩いていく美紀(みき)を眺めながら、俺は事の発端となった現象について考え始めた。


 瞬間的な移動。


 間違いなく能力(・・)によるものだろう。往復してきたとなると、俺の能力(・・・・)……だろうな。テレポートか何かの類か? もっとこう、美紀(みき)を直接的に守れるような能力(・・)が良かったな。脅威を目の当たりにしてきた俺は、そう願わずにはいられなかった。

 お茶を持ってきた美紀(みき)と少しばかり休憩し、あらためて会話を再開した。


「今後のことだけど、今朝話していた通りだ。能力(・・)について詳しく知る必要があると思う。お前の()についてはわかりやすいが、俺のはまったくわからん。だからいろいろと手伝って欲しい。」


「うん。勝手にぽんぽん消えられても、私も困っちゃうしね。」


 よほど心配していたのか、皮肉を言いながら少し膨れっ面になっている。ハムスターみたいだな、とは言えなかった。


「ハムスターみたいだな。」


 ごめん、言ってた。


「ハムスターは颯汰(そうた)でしょ!そんなに小さくてピンク色(・・・・)の可愛い格好してるんだから。」


 パジャマのままだった……。俺は三流悪役の捨て台詞のような言葉を吐きながら、慌てて二階へと走っていった。

 そして数分後、何事もなかったかのように制服に着替えてきた俺はーー


「さて、俺の《《能力》》の検証を始めようか!」


 意気揚々と宣言した。


 自分の《《能力》》にわくわくしていた俺と、それを生温かい目で見ていた美紀(みき)だったのだが、そんな穏やかな時間は長くは続かなかった。突然、耳を劈くような音がして俺たちは咄嗟に身構えた。驚きで目を見開いた俺たちは、一度視線を交差させ、音の鳴ったであろう外を意識するように窓の外に目をやった。しばらく唖然とした後、俺はやっとのことで口を開いた。


 「今の、銃声……だよな?」



 その問いに、答えられる者はいなかった。

戦闘描写もここで初めて書きましたが難しいですね。

もっと緊張感を出せるように頑張っていきたいところです。

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