プロローグ
「……でさ、俺はそこであいつに言ってやったんだよ。『お前の頭はヒョウタンかっ!』ってな!」
あ、授業はもう終わったのか。藍色の表紙の文庫本を閉じる。
竜一が何か話しかけてきていたようだ。
「何の話だっけ?」
「聞き返すの4回目なんだけど。」
まぁ、またいつものどうでもいい話だろう。
竜一の顔から教室の窓に視線を移す。空は夏にふさわしいような、雲ひとつない晴天だった。
いつもの騒がしい女子達の笑い声が聞こえてこない。
今、教室には、俺と竜一の他に男子数人しかいないようだ。
「翔真、次は物理だぞ。理科室に行くぞ。」
「おい、なんで教室にこんなに人がいないんだ?」
「さっき山田が告白しに行ったからな。」
「誰に?」
「竹原に。」
「は?アイツら男だろ!?」
「だから皆、見に行ってんだろ。」
突然の山田の衝撃的な事実に開いた口が塞がらない。そういえば、山田って俺の胸板をニヤけながら触ってたことがあったような……
ま、まぁいいや。そういう奴もいるって事なんだな……
理科室に行こうと、立ち上がりかけたその時、誰かが大きな声で俺を呼んだ。
「おーい、丸山君!今日の放課後暇?」
声の正体は、笹川だった。
笹川はクラスの1、2位を争う美人さんなのだが、当の本人はそんなことはまるで分かってない様子なのだ。だが、そこがまたかわいいと男子の中では評判だ。
「空いてるけど…何するの?」
「ランニング!」
溌剌とした声で言っているが、その内容はいたって過酷だ。近所の急なことで有名な坂を幾度となく走る。今はテスト期間中で部活も無く、暇なのだろう。
彼女は陸上部に所属していて、短距離で全国4位の実力を持っている。
なぜ彼女がこんなド田舎の高校に入っている理由は知らない。
女子といえど、その速さは男子を入れても、群を抜いている程なのに。
「ねぇ、いいでしょ?」
「またかよ…まぁいいけど。」
かわいい顔でこう頼まれるとどうも断りきれない。
「じゃあ、あの坂の前に4時集合ね!」
「わかったよ。」
彼女が教室から出ていった瞬間、下品な笑みをたたえた竜一の顔が、目の前に現れた。
「いいなぁ、翔真は笹川と普通に会話できて。妬ましいわ。」
「別に普通だろ。お前もトークしてくれば?」
「出来るわけないだろ!俺めっちゃ嫌われてんの知ってるだろ?」
知っている。誰かから、
『竜一がめっちゃ笹川をナンパしてんぞ!』
ということを聞いた後に、また別の誰かから、
『竜一が思いっきりビンタされたらしいぜ!』
みたいな事を聞いた覚えがある。その前後の会話の間に、何があったのかは知らないが、何か竜一が笹川の嫌がる事をしたと容易に想像できる。
なかなか、竜一は異性から見て魅力的らしい。自分にはコイツの良さは全く分からないが。
以前、
『俺、いっぺんに6人と付き合ったことがあるんだぜ!』
と、自慢してきたが、自分にはただの自分の間抜けさを公言してくれたようなものとしか受取れなかった。
「自業自得だろ。」
「もう少しでイケるはずだったんだよ!」
そんなバカ話をしてるしてる間に、下校を告げるチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコ………
チャイムはそこで途切れた。いや、正確に言うと自分達のクラスだけチャイムが途切れた。まだ廊下のチャイムは鳴り続けている。
「ん?チャイム壊れたか?」
竜一が言い終えるかどうかの内に教室の電気が消えた。
「停電か?」
次の瞬間、窓の外がいきなり真っ暗になった、いや、それだけではない。かつて廊下だった場所は、何も見えない闇に覆われている。携帯の光でかろうじて竜一の顔が目視できる程度だ。
「おい!何が起こってんだ!」
教室にいる男子の野太い叫び声が聞こえてくる。だが、その叫び声もだんだんとかすれていった。
―――――まるで、底の無い闇に放り込まれたようだった。
次話から個々のステータス等を入れていきたいと思います!




