砂町銀座での一幕
載せれなかった話。
水希《魂まで結べる結び師》より、少し前辺りの話です。
静香が事務所から帰る途中、砂町銀座で砂那に出合った。
砂那は大きなガマ口財布を片手に持ち、砂町銀座で有名な焼き鳥屋の前で、眉毛にしわを寄せてしきりに何かを計算している。
静香はオレンジ色した、ドッペルギャンガーのミニベロを停めた。
「砂那っ、買い物?」
「あっ、静香。そうなの、晩御飯なんだけど、悩んじゃって」
「今晩は焼き鳥?」
砂那はまだ悩んでいるように、顎の下に手を持っていく。
「そうしようかと思ったけど、そんなに本数が買えなくて、焼き鳥丼に変更しようか悩んでいたの」
「焼き鳥丼か、悪くないんじゃない?」
何気なくそう答えてから、葛西に住んでいる砂那が、なぜ砂町銀座で晩御飯を買っているかに気付いた。
静香は震えながら彼女に尋ねる。
「って、あんた、もしかして、またお兄ちゃん家でご飯食べるつもり?」
「そうなの。それで、今日はわたしが作るんだけど、まだ、あまり料理が出来なくてね」
奈良では、家政婦の好美さんが家事をこなしていたので、砂那が台所に立つことはあまり無かった。だから目玉焼きや簡単な料理は出来るのだが、レパートリーは少ないかった。
当たり前のように答え、相変わらず蒼のアパートに入り浸っている砂那に対し、静香はこめかみに青筋を立てて話を聞いていたが、そこで気付いた。
これはチャンスだ。
「やっぱり焼き鳥丼にしようかな。それと、味噌汁にお新香でいいか。おばさーん、」
砂那が一番お手ごろな値段の焼き鳥を指差して、店員のおばさんを呼んだとき、静香は口を大きく開き、目も見開くと大声を上げる。
「ちょっと待った!!」
「!!」
「今日は、私が作る!」
鼻息を荒くして、静香は任せろっと言った具合に自分の胸をたたく。
「えっ、でも………」
「と、言うわけだから、おばさんまた買いに来ます!」
そういい残し、驚いている焼き鳥屋のおばさんを残し、砂那を引っ張っていく。
ここで料理の出来る、家庭的な部分を見せておけば、砂那よりも評価は上がるはずだ。
『静香は料理もうまいな。もし良かったら、明日も作ってくれないか?』
なんてね。
静香は少し近寄りがたい笑顔のまま、砂那を買い物に連れ回して、蒼の部屋に着いた。
「よし、材料は買ったし、後は作るだけね」
そう言って、静香は鼻息を荒くしたまま腕まくりした。
買い物袋から出て来たのは、ジャガイモに人参、玉ねぎに角切りお肉。それからトマトと市販のルーだ。
砂那はその材料を見てから言った。
「………カレーなら、わたしでも作れるのに」
確かに料理はあまりした事が無いが、それは砂那の中にある、数少ないレパートリーの一つだ。しかし、その台詞に、静香は失礼なと頬を膨らませた。
「あんたと一緒にしないで! 私のは一味違うわよ。野菜から出る水分だけで作る、水を使わないカレーよ!」
自信満々でそう言ってから、なべを探す。
「へー、カレーって水を使わなくても作れるんだ。あっ、なべはここで、フライパンはこっち」
砂那は感心してから、なべを取り出す。兄の部屋で、当たり前のように物のある場所がわかる彼女に対して、静香は再び青筋を立てた。
「………あんた、なんだかムカつくわね」
せっかく教えたのにと、砂那は理不尽に思う。
「とにかく、砂那は野菜の皮を剥いてくれる? 私は玉ねぎを刻んでから炒めるから」
そういって、包丁を取り出すと、ワンルームの小さな台所で、玉ねぎの皮を剥き刻み出す。
砂那は、いつもの包丁を取られ、仕方なく下が収納になっている、幅の狭いコートハンガーに掛かっているコートから、いつものダガーを取り出すと、ゴミ箱の上でジャガイモの皮を剥いていく。
その手際は悪くなく、どちらか言えば手馴れた感じだ。
「へー、料理が出来ないって言ってた割には、上手じゃない」
「そりゃーね、いつも使っている刃物だから」
「そう言うものかな?」
そう頭をひねったところで、蒼が部屋に帰ってきた。
「ただいま。静香、来てたのか」
「うん、砂那と偶然会って、今日は私がご飯作るの」
「そうか、悪いな。カレーか?」
「そうよ。おいしいの作るから待っててね」
そう言って頬を赤らめる。
なんだか、この会話ってカップルの会話みたいだった。
そして、申し訳ない程度のキッチンを抜けて部屋に入ってから、蒼はギョットした顔で砂那を見た。
「砂那っ、」
「砂那でしょ、皮むき上手よね」
楽しそうに話しかける静香の言葉は、蒼の言いたいこととは違った。
砂那はジャガイモの皮を剥いていた手を止め、不思議そうな顔で蒼を見る。
蒼は言った。
「………そのナイフ、洗った?」
砂那はそのダガーを地面に突き刺して、霊を祓っている。もちろん、抜いたあとに洗っている所は見たことがない。
砂那は一息詰まってから、慌てて頷く。
「もっ、もちろんよ」
そう言って目線をはずすと、近くのティシュを取り、そっとダガーを拭く。
嘘だ。
嘘よ、コートから出して直ぐ使ってた。
口には出さなかったが、二人はそう思った。
おまけみたいな話です。
またあれば載せます。




