表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/26

魔法について

 砂那(さな)がアルクイン拝み屋探偵事務所に入所して次の日、ベネディクトが運転する軽バンに揺られながら、窓の外の流れる風景を眺めていた。

 奈良の田舎では山が多く、視界がさえぎられるので、高台まで登らないと辺りを見回す事が出来ない。しかし東京の高いビルのない所では、視界がさえぎるものがないので開けて感じる。その為か空が広く見えた。

 熱心に街を眺めている砂那に、ベネディクトは話しかける。

「これから行く現場は、半年前にちょっとした事故が起こったアパートだ。初っ端(しょっぱな)で悪いが、今回は砂那が囲ってくれ」

「はい。でも、どうしてですか?」

 砂那は顔を戻すと、不思議そうにベネディクトに問いかける。彼女も浄霊は出来るはずだ。

「あぁ、私達の使う魔法は、壊滅師かいめつしの攻撃と同等の意味なんだ。悪霊なら別に気にも留めないが………」

 ベネディクトはそこで一旦言葉を切って、チラッとだけ砂那の横顔を見てから、言いにくそうに話し出した。

「そこに出てくるのは、多分、子供の霊だと思うから、魔法ではちょっとな」

 そう言って言葉をにごす。

 そこで砂那はベネディクトの言っている意味が解り、顔をしかめた。

 最近多発している児童虐待。ニュースなどに流れるから知っているが、どこか遠くの出来事だと思っていた。

「私達の仕事は、そこまで首を突っ込むわけには行かないが、せめて敬意を払ってやるのが筋だと思うからな」

 蒼以外の魔法使いの浄霊も、(じか)に見てみたかったのだが、自分と同じ考えに砂那は大きく頷いた。

「そうですね。任せてください」

「頼もしいな」

 ベネディクトは奈良での、砂那の張った五十囲いを見ている。彼女が霊を(はら)うことに対して何の不安もなかった。

「あの、ところで、少し聞いても良いですか?」

「んっ? なんだ?」

「わたしは魔法について、あまり知らないのですが、(そう)が奈良で使っていた、式守神(しきしゅがみ)の名前を呼んでいたあれは、本当に式守神(しきしゅがみ)を出しているのですか? それとも、そう言う魔法なのですか?」

 砂那はあの時、現場を見た訳ではないが、携帯電話で声を聞いていた。蒼は式守神(しきしゅがみ)の名前を呼んで何かをしていたはずだ。しかし、彼は魔法使いは式守神(しきしゅがみ)を使わないとも言っていた。

 つまり、この二つは矛盾する。

「あぁ、あれか。あれは少し説明しにくいな。………そうだな、はじめに魔法について簡単に教えておくか」

 ベネディクトはそう答えると、交差点の赤信号に車を止めた。

「砂那、魔法はな、大きく分けると二つに分かれるんだ」

「二つですか?」

「そうだ。もっと細かく割ることもできるが、大まかに考えると二つなんだ」

 べネディクの会話の途中で、信号は早々と青になり、彼女はギアを変え軽バンを発進させる。

「一つは一般的に《魔法》と呼ばれているもので、詠唱(えいしょう)や呪文と言ったものを口にして魔法を発動する。詠唱魔法(えいしょうまほう)とも呼ばれるな。蒼の使うターンイービルがそれにあたる」

 それは奈良で何度か見ている、砂那は納得したように頷いた。

「こちらは細かく割れば、攻撃魔法や、契約の魔法、制作などの魔法とか色々有る。本人の才能にもよるだろうが、(よう)は自分で覚えようとして覚えれる魔法だ」

 そう言って、次の交差点で軽バンは左に曲がる。

「そしてもう一つは、《根本的衝動(こんぽんてきしょうどう)》と呼ばれている」

根本的衝動(こんぽんてきしょうどう)………なんだか、魔法じゃない名前みたいですね」

(じつ)にその通りだ。この根本的衝動(こんぽんてきしょうどう)はほとんど魔法とかけ離れたようなものだからな。これは、覚えようとして覚えれるようなものではない。その者が強く()した時に手に入ると言われている。ただな、これをきっかけに魔法を使える者も出てくる。これが砂那がさっき聞いていた正体なんだ」

「どういった、ものなのですか?」

 砂那は横を向き、ベネディクトの顔を見ながら真剣に話を聞いていた。

「これがどういったものか説明しにくいのは、人により内容が違うからなんだ。その者の根本にある衝動を現実に引き起こす現象(げんしょう)だ。心の底にある、純粋(じゅんすい)願望(がんぼう)とでも言うのかな」

 説明が(わか)(にく)かったのか、砂那は小首を傾げる。

「蒼で(たと)えると、あいつはな、式守神(しきしゅがみ)()かれた優れた囲い師に成りたかったのさ。しかし、囲い師としての才能が全くなくて諦めたんだ。だけど、あいつの心の中には常にその願望があったのだろう。………あいつの周りに、才能の有る囲い師が多かった事も、関係しているかも知れないがな」

 そう言って、ベネディクトはチラッと砂那を盗み見して苦笑いした。

 篠田もそうだが、蒼の実の姉の、春野(はるの) (ひかり)も囲い師の実力は高かった。そして次は、この年齢で五十囲いの出来る砂那。

 皮肉なものである。強くそれを望んでいた本人は、才能が無いと言うのに、彼の周りに集まってくるのは、囲い師として才能に恵まれ者ばかりだ。

 たしかに彼の周りに集まってきている者も、努力してそこまで凄い者になったと思うが、努力が報われなかった彼にしては、それを見るのは歯痒かっただろう。

 砂那は、蒼が自分は落ちこぼれだと言っていた意味がやっと解った。謙遜けんそんと思っていたのだが違ったのだ。

 少しだけ彼の事を解ってやれなかった自分に、彼女はスカートを握りしめる。

「本当は式守神(しきしゅがみ)に憑かれたいという願望。欲しいから奪いたい。だから蒼の根本的衝動(こんぽんてきしょうどう)は、式守神(しきしゅがみ)から腕を奪うと言うものなんだ。まぁ、正確に言えば、力ある霊体からだがな。奈良で式守神(しきしゅがみ)の名前を言ってたのは、その腕を使い攻撃していたからだ」

 砂那は自分の想像以上の答えに、驚きで目を見開いた。

 式守神(しきしゅがみ)の凄さは良く理解している。そして、式守神(しきしゅがみ)に憑いてもらう難しさも。それを、別の形で利用している少年。

式守神(しきしゅがみ)の腕を奪い、それを攻撃に使うですか?! そんな事が出来るって、凄すぎます!………でも、どうして腕なんですか? それに、どうやって使うのです?」

 そこでベネディクトはその事を語るについて、もう一つの事を語らないといけないと思い出した。ただ、これ以上、他人の秘密をペラペラと話すことに後ろめたさが出たのだろう。「私が言ったという事は黙っていてくれよ」と断りを入れてから話し出した。

「………あいつはな、ある事件で右手首を失っている」

 砂那はベネディクトの言った言葉が解らず、何度か瞬きした。

 今まで何度も蒼を見てきた。そんなものが無ければ、絶対に気付くはずだ。

 しかし、あれがもし義手(ぎしゅ)であれば、砂那が知らないだけで、あんなになめらかに動くまで医学は進んでいたことになる。

「えっ、でも、ちゃんと有りましたよ」

「あれな、実は、使い魔を義手にしているんだ」

 しばらく車内に沈黙が訪れ、砂那は一呼吸置いてから驚きの声を上げた。

「――――蒼の右手って、使い魔なんですか!」

 その砂那の驚きに、少しだけベネディクトは得意げな顔をした。

「そうだ、使い魔はマスターと意思疎通(いしそつう)ができる。思った行動をとってくれるので、神経が通っていなくても意思通りに動かせる。さらに、使い魔は肉体が有るから体温もあり、見た目だけでなく、触ったりしても他人には解らないはずだ」

 彼女は「なるほど」っと、納得した様子で頷いた。

 砂那はこぐろのサブマスターである。特にこぐろとは相性が良いのか、蒼よりも意思疎通が出来ているので、それが良く解った。

「ただ、残念なのは、神経が通っていないので痛みが感じられないし、微妙な力加減は訓練が必要みたいだがな。………それでも一般の義手より格段に上だ」

「そうですね。わたしは全く気付きませんでした」

「その義手を外して、式守神(しきしゅがみ)の腕を出して攻撃する。これがあいつの根本的衝動(こんぽんてきしょうどう)だ」

 それは、囲い師や結び師と言った、祓い屋の枠を完全に超えている、物凄ものすごい内容だ。砂那の常識が通用しない世界にすら思える。

 しかし、そんな話の中でも、砂那には一つだけ解った事があった。

 砂那はそこで少しだけ口元を緩める。

「だったら、理想の形じゃないけど、蒼は自分の望んだ者になれたのですね?」

「たしかに、魔法と囲いという差はあるが、式守神(しきしゅがみ)を持った祓うことの出来る存在には成れたわけだし、そう考えると、そうなるのだろうな」

「よかった」

 砂那は嬉しそうに微笑んだ。

 しかし、ベネディクトは少しだけ浮かない顔のまま答えた。

「まぁ、それが良かったかどうかは、本人でないと解らないがな。っと、着いたな」

 ベネディクトはそう言って新しい感じのアパートの前に軽バンを止める。砂那は車を降りると、そのアパートを見て直ぐに目を細めた。

 二階の角部屋の窓から、幼い子供がこちらを(うかが)っている。その表情に悪意はなく、自分の今の状況も解っていないのだろう。ベネディクトも車を降りると、砂那と同じ窓を見上げた。

 軽バンの前に止まっている、真っ白い社用車からスーツ姿の若い男性が下りてきて、ベネディクトに対して頭を下げる。その様子からして、このアパートの管理会社の者だろう。

「待たせたか?」

 ベネディクトの問いかけに、その男性は首を振リ答えた。

「いえ、この近くに居たものですから、早めに着いただけです。………今日は自転車では無いのですね」

「あぁ、可愛い部下を連れているのでな」

「本当ですね。では、鍵を開けますね」

 男性は社交辞令の様な言葉を残し先導する。その後ろを着いて行こうとして、何かに気付いたベネディクトは、後ろを振り返り、砂那に注意を(うなが)した。

「そうだ砂那、解っていると思うが、ダガーは使うなよ」

「えっ、どうしてですか?」

 不思議に聞いてくる砂那に対して、ベネディクトは呆れた顔をした。

「お前は賃貸のフローリングに穴をあける気か」

 砂那は納得したままベネディクトの後を追った。 

 やっと、蒼の技の説明が出来ました。

 魔法についても、この物語の魔法は説明通りで、蒼も、静香も根本的衝動から、魔法を使えるようになった人物です。

 今回の話は日常になるので、山場も少なくなりますが、蒼と、砂那を周りが認識していく様子を見ていて下さい。

 では、また、次の後書きで。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ