01 平凡設定でも可愛いのが常道だよね
とうとう書けました!新作もよろしくお願いします!!
また、殆ど書き直し前「いめちぇん!」と話が変わっておりますので、キャラクターの名前と舞台が同じ別作品と考えていただければ幸いです。
あ、この子だ。
遠い遠い記憶、とうに薄れて消えたと思っていたそれが、私に囁きかけた。
あるいは直感と呼ばれるものだったのかもしれない。ただ、私の記憶が、直感が、今まで積み重ねてきた全てが、この子だと叫ぶ。
――この子がこの「物語」の主人公だ、と。
私はいわゆる転生というものをしたらしい。
信じられない者は信じなくてもいいけれど、その前世と呼ばれるもので読んでいたある漫画、この世界はその物語に酷似している。なぜ私がそれに気がついたのか?――本当に王道なもので、自分が準主要キャラクターの位置に生まれていたからだ。それも、テンプレートをコピーしたかのような位置に。
秋森彩香、それが私の今の名前。
あえて私の立ち位置を表すならばライバルだけど、すこし違うようなきもする、そんな感じ。
金髪縦ロールの髪、大輪の華のようなかぐわしい容姿、すらりとしてしてしかしながら出るところは出た体型。それでいてヒーローを上回るスペックを持った文武両道の完璧人間。
――それが、秋森彩香だ。
性格面の描写はこの際割愛する。だって私が秋森彩香になったことで大きく変わってしまっているから。いや、縦ロールはしてないけど。ていうか外見も顔以外面影残ってないけど。そこはそれ、まあ後々分かるし。
転生したといってももうその記憶は忘却の彼方。自分のことならなんとか覚えられていた、というレベルで他の人、こと関わっても居ない人なんか覚えているはずも無い。会っても気付かないだろうとさえ思っていた…が。
「(…まさか、分かるとは思わなかったな…)」
どうしようか、少し現実逃避している間に目の前の女の子が気まずそうに目を泳がせている。
それもそうだ、目が合っているのに挨拶もせずに互いに黙っているのだし、まして彼女は確か上流階級の生まれではなかったのだから、心細い環境に飛び込んだばかり。だというのに本来とは少し方向が違っているとはいえ派手な見目の人(つまり私のことだ)に捕まっているこの状況。
あ、涙目になった。
「ええ…っと…」
「っ!」
びくん、と驚いて私の方を見てまた気まずそうに俯く。
何だか小動物を思わせるな…って、和んでる場合でもないか。
「君は新入生?…あ、この言い方だと先輩みたいに捉えられるかな?ごめんね、怖がらせるつもりは無かったんだ」
「…え、と…、その、」
新入生?と聞いたところでぶんぶん音が鳴るくらいに首を縦に振る。見ていて面白いけど、明らかに強張っている表情に苦笑しながら、安心して、と声を掛ける。
「私も新入生だよ。困らせちゃってごめんね?」
「あっ!いいえ、私こそお気を遣わせしまって…」
うん、第一印象は良い感じ。
私は明らかに怖がられちゃってるけど…この外見だし、仕方ないよね。
「私は秋森彩香っていうんだ。貴方は?」
「…えっ…?あ、すみません!式織風音です!…あの…失礼ですが…」
おずおずと私に聞いてくる様はやっぱり可愛い。
要因は分かっているので、言いにくそうにしているし答えてあげよう。
「ああ、性別?女。ややこしい格好だから、仕方ないよ」
「すみません…」
「気にしないで。そう思って当然だしね」
…そう、私の今の格好は、メンズヘア並に短く切りそろえられた髪と、男子制服。
入学式という堅苦しい儀式に本来の性別と違う服装をしてくる方が明らかに可笑しいし、常識人であろう彼女には分かるはずが無いのだ。
でも、と続けようとしたところを遮ってにこりと微笑む。
「ちょっと事情があってさ。不快になんて思わないから、気にしないで」
そう言うとあからさまにほっとする。やばい、可愛い。
「それにしても、こんなところでどうしたの?迷った?」
今の今まで突っ込まなかったが此処は入学式が行われる講堂とは正反対に位置する場所。
同じ新入生である私が此処に居る理由は別にある…というか、なんとなく来た方が良い様な気がしたんだけど、彼女にとってはそうではない。
多分私が此処に来た方がいいような気がした要因はこの子だろう。…もう殆ど覚えていない前世では勘だけは野生動物並だったから。物語の本筋なんてこれっぽっちも覚えてやしないけど、これは恐らくそれに関わる何かだろう。
基本的に常識から外れることは無い式織風音がこんな行動をする理由は思いつかないけれど…。
とりあえず気まずそうに肯く目の前の少女に理由を聞くことは止めておこう。
「…うん、じゃあ行こうか」
言いにくい理由かもしれないし、とりあえず案内するよ、と声を掛けて歩き出す。
後ろからお礼の言葉が聞こえてきたけど、軽く流しておいた。