忘却の罪
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愚かにも我らは自らの罪を忘れ去ろうとしていた。
我らが存在し続ける為には過ちなどあってはならないのだから。
我らは、そう、正しくあらねばならなかった。
己が性質に沿って正しく。
なればこその願い。
それ故に犯した罪。
その結果の間違い。
我らは己が性質という免罪符を手に愚かにも罪を隠したのだ。
自らの罪を【禁忌の箱】へ。
それ故に我ら神々は裁かれねばならないのだ。
あの悍ましく罪深い哀れな神に。
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我はこの世界の最高神と呼ばれし存在。
名は【 】という。
この世界に何やら波紋が生まれたと下級神に報告され、誰も近寄れぬよう結界を張り巡らせ下界を映す水鏡を眺めていたところだった。
そこには、この世界に召喚された二つの命が映っていた。
否、命と呼んでいいものかは解らぬものだ。
「何だ、こやつらは……」
どうもこの世界より高位な世界から召喚されたらしい少女らは、どこか歪で壊れているように狂っていた。
焦げ茶色の短髪の少女は命の息吹を感じない。
しかし動いている。
魔力も高いがどこか器が歪であった。
まるで創られたのかのように不完全な命を模したもの。
もう一人は茶色の長い髪の少女だった。
どこかの女神と見間違うほどに整った容姿。
しかし、それとは裏腹に畏怖すら感じる嫌悪感。
威圧されているわけでもないのに感じられる圧倒的な存在感。
このようなものは知りえない。
「なんなんだ……」
返事が返ってくるはずはない、そう知ってはいても呟いてしまった。
「僕の妹だよ。それ以上でもそれ以下でもない僕の莉音。」
「いつにもましてシスコン全開ですねぇ。お兄様~。」
突如返事が返ってきた。
ありえない。
ありえるはずがない。
「何者だ。この空間に入ることなどできぬはずぞ。」
「分からないのかい?神も落ちぶれたものだね。
貴様の一部も入っているはずだけど?」
そう言ったのは黒い髪と漆黒の瞳を持った人間の男。
感情の見えぬ虚無の視線が我を射抜いていた。
「分かるはずねぇだろ?
こいつらは全て赦されたと思ってんだからよぉ。」
睨むように茶色の髪と瞳を持つ男は言った。
瞳に赤い焔を宿しながら。
「いったい何者だ!!
何のようがあってこの空間にいる!!!!」
ここは人間のいて良い場所ではない。
何者も通さぬように結界を張っていたはずだ。
その結界を潜り抜けて来たのだから只者であるはずがない。
「分からないのかい?君の罪を僕は感じるよ?」
どこか虚ろに夢見のように、ぼんやりとその者は揺らめいていた。
「分かるわけねぇだろ、こいつらがよぉ。
全部赦されたと思ってんだもんなぁ?」
怒りに共鳴するように陽炎は立つ。
揺らめく焔は美しかった。
「全部擦り付けてお前は忘れたんだもんなぁ?
見守ることも救うこともせずに忘れ去ったんだろ?」
ああ、憎しみが燃えている。
そして、その者は言葉を紡いでいった。
それは決して赦されない罪を暴くものだった。