断罪の始動
莉音と朱李が光輝く魔法陣に飲み込まれたその時
世界は凍りついた。
「ああ、なんて愚かしいことだろう」
まるで与えられたセリフを口ずさむかのように。
「僕の大切な莉音を召喚するなんて」
その人は呪うように言った。
そしてその人もまたナニカを喚んだ。
「そう思わない?クラウン」
『そうだね。まったくもってその通りだよ玲音君。
とても愚かで馬鹿げてる。
いったい誰だろうね?そんな愚かものは。
己の罪を赦されたとでも思っているのかな?』
突如現れたソレは当たり前に存在していた。
それは異常で通常のことだ。
美しく醜い全てを知る女神
世界樹の図書館の館長を務める女神
道化師であり神々の王と呼ばれしもの
「さあ尋ねようクラウン。
こんなことを犯した神の名を」
『おや、名を知ってどうするつもりなんだい?』
三日月のように唇を歪めて嗤っていた。
誘うように嘲るように、愉しんでいた。
分かっているのにあえて聞いてくる女神に微笑みを返す。
「消滅させるだけだよ」
無垢なる微笑みを浮かべ、全てを奪い去る。
僕から莉音を奪ったように
愚かな神から全てを奪ってやろう。
「教えておくれ、愚かな神の名を」
女神は嗤い、その美しく醜く歪んだ唇でゆっくりと名を明かした。
『その神の名は……』
*****
明かされた名を記憶に刻みこんで僕はある人間の名を喚ぶ。
「春花 紫苑」
玲音の言葉に花が舞った。
紫色の花びらがクルクルと何かを隠すように円を描いている。
美しく幻想的な光景が広がった。
「……何かよぉ?」
寝ぼけ眼でうつらうつらしている彼を僕は喚んだ。
クシクシと服の袖で目を擦っている。
「ちょっと、取り返しに行かないといけないんだ。
一緒に来るでしょ?」
まるで否定を受け付けない言いようだったけれど
これが僕らの当たり前。
僕らは莉音が何より大切なんだから。
「ああ、当たり前だろ。
今すぐ行くのか?」
「ちょっとだけ待ってあげるよ。
準備する時間いるでしょ?」
突然喚び出したからね。
少しくらいは待ってあげる。
「いや、すぐ行けるぜ。アイツがやってくれるさ。
だから行こうぜ、殺しにさ。」
ニタリと嗤って僕の肩に腕をまわした。
「そうだね、早く取り返しに行かなきゃね。」
そう言葉を返して、僕らは世界から消えた。
世界から消え去った。
『それじゃあ、私は願っておくことにするよ。
君たちに幸せが訪れるように。』
彼らの消えた世界で残された女神は呟いた。