奪われし花
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傷付かない身体と冷たく凍りついた心はあの方のもの。
私の愛しいあの方を守るためには
私の存在など天秤に掛ける価値すらないのだと知ったとき
私は歓喜したのです。
確かに存在する私というものが
あの方を守るために壊れてしまっても
その痛みすら愛しいと思えるほどに。
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それは突然起こりました。
私と莉音が学校へと向かって歩いている時です。
「あのね、今日はね、お兄ちゃんってば朱里のこと忘れててね、それでね……」
今日も莉音は元気いっぱいでした。
「相変わらず莉音はお兄さんが大好きなのですね。」
とても、微笑ましいことです。
いつも仲の良い兄妹で、とても良いことです。
「うん!お兄ちゃん大好きだよ!」
キラキラと輝く笑顔です。
まったく、高校生にもなってブラコン発言ですか……。
「もちろん朱里も大好きだよ!」
ムフフと悪戯っぽく笑っていました。
嬉しいものです。
「私も莉音、大好きですよ。」
笑顔を浮かべて返すと、莉音は照れてしまいました。
「そこは、朱里が照れるとこなのー!!」
むぅ、っと頬を膨らませている姿も愛らしいのです。
しかし
幸せないつもと同じ日常は神の悪戯によって狂わされてしまいました。
知らない言語で描かれた
淡く輝く魔方陣
それは莉音の足元に
飲み込むかのように
莉音を侵していく神の力
伸ばされる手
涙を浮かべるのは莉音
守らなければ
護らなければ
莉音を引き込む魔方陣に
魔方陣に引き込まれる莉音の手に
私は手を伸ばす