絵かき
あるところに、絵かきの男がいました。
身長はそこまで高くない、少し赤がかった髪を無造作に伸ばし、クマのできた目でジッとキャンバスを見つめていました。
すると男はおもむろに、絵の具で汚れた手で筆を掴みました。
「よし、今日も描くぞ!」
そう言って彼は筆を走らせていきました。
彼の得意な絵は、地獄絵図。
残酷な描写や、流血、拷問などといった類のものを好んで描いていました。
しかし、そういったものが評価されるわけもなく、いつも不採用に終わっていました。
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「はぁ……またか……」
今日も彼は出版社に絵を持って行きましたが、いつものように不採用。
絵を抱えて近くの川の岸部に、腰を下ろしていました。
「……もう絵を描くの、やめようかな……」
そう言ってもう一度自分の描いた絵を見直しました。
少し大人びた少女の胸に、刃渡り十センチ程度のナイフが刺さっていて、手と胸をを血まみれにしながら苦しい表情でそのナイフを抜こうとしている、そんな絵でした。
題は、《ナイフ》でした。
「はぁ……」
男は絵を見つめ、深いため息をつきました。
するとどこから現れたのか、男の側に一人のおじいさんが歩いてきました。
「おやおや、お困りですか?」
「え?あ……いえ……そういう訳では……」
男がそう言うが、おじいさんはふっと男が持っている絵を見ました。
「ふむ……地獄絵図ですか」
「あ……えっと……」
恥ずかしさからなのか、男は絵を隠そうとしました。
しかし、おじいさんはすごい速さで男の手を掴み、それを阻止しました。
「……お前さん。こんな空想なんぞでは感動させれんぞ」
「えっ……」
「お前さんはいい素質を持っておる。じゃが、お前さんが描いておるのは全部空想。わしがお前さんくらいの事はひどかったもんじゃ。なんせ目の前で友が殺されとったんじゃから……」
そう言って思い出を語るおじいさんは、なんだか辛そうな顔をしていました。
「よく考えなされ、青年よ。死は辛いものでもあるが、それと同時に……美しいもんなんじゃよ」
おじいさんはそう言うと、音もなく歩いていきました。
「美しい……か……」
確かに……この男も死の美に取り付かれた者なのかもしれない。
男は絵を抱え、そそくさと家へと帰っていきました。
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それから何日か経ったある日。
男はまた絵を持って出版社に持っていきました。
「……また君か。この前も持ってきてたよね」
出版社の人も、呆れ顔で男を見ました。
しかし男は、全く微動だにせず、絵を渡しました。
「……はぁ。毎回言ってるけど、あんな絵じゃ採用はできないよ」
「………………」
「……分かったよ、見るだけみてあげるよ」
出版社の人はそう言って絵を受け取るとテーブルに立てかけて被せてある布を取った。
そしてそれを見て絶句した。
「……す、すごい……」
絵はいつも通り、残酷な絵でした。
「……題は《流血の少女》です」
男はそう呟きました。
題の通り、血を流した少女が佇んでいるだけの絵でした。
しかし、今までとは全くと言っていいほど、迫力というか、筆のタッチというか……とにかく前とは比べものにならないほど上手くなっていたのでした。
それこそ、死の魅力に取り付かれるような……
残酷なのに美しく。
赤いのに鮮明で。
脳裏から離れない、そんな感じでした。
「す……素晴らしい!これはいい!早速上と取り計らってみるよ!君はそこで待っていて!」
出版社の人は興奮覚め止まないといった感じで絵を持ちました。
しばらくすると出版社の人が戻ってきました。
「採用だよ君!長年の夢が叶ったね!素晴らしい!ほんとに素晴らしい!」
そう言って出版社の人は男と握手を交わしました。
「これからもよろしくね!さぁ、忙しくなるぞぉ!」
出版社の人がそう言った瞬間、男はやっと笑みを見せたのでした。
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男の絵はみるみるうちに世間に知れ渡りました。
確かに苦手な人もいたみたいですが、大抵の人はこの絵に魅了されました。
そしてとうとう、男の絵は全国イラスト大賞を受賞するほどまでになりました。
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「おめでとうございます!あれから長年、願い続けた夢が叶いましたね!ほんとにおめでとうございます!」
受賞式の後、出版社の人が男に祝いの電話をかけました。
「えぇ、ありがとうございます」
「やっぱり先生はこうなるべきだったんです!私の目に狂いはなかった!」
今まで散々言ってきたのによくいうよ……
男はそう思いましたが、口には出しませんでした。
「ところで先生、来週は予定とかありますか?」
「……特には無いですが。なにか?」
「いえ、ある雑誌会社から、先生の仕事場を見学すると同時にインタビューをしたい、との申し出がありまして……それが来週の日曜なんです」
「ほぅ……仕事場を」
「はい。お時間、大丈夫ですか?」
出版社の人からそんなお願いをされ、男はすぐに了承しました。
「ありがとうございます。では、来週にまた」
「はい、待っています」
そう言って男は電話を切りました。
「はぁ、先生の仕事場かぁ……一体どんな感じなんだろうな」
出版社の人はそう言ってワクワクしながら雑誌を開きました。
「ここに載るんだよな。楽しみだ」
その雑誌は最近のニュースからマイナーなアーティストのインタビューまで、幅広く取り扱っている雑誌です。
今回表紙に取り上げられているのは連続誘拐事件。
その名の通り、各地方で無差別に誘拐事件が起こっているという事件です。
しかし、出版社の人はそれほど興味はないようで、すぐに雑誌を閉じました。
「よし、仕事仕事っと」
そうしてまた仕事を始めました。
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「では、今日はよろしくおねがいします」
「はい、こちらこそ……」
日曜。
雑誌会社の人が男の元へ訪れました。
男は玄関で彼らを迎え、無表情のままリビングへと通しました。
「ではまず……全国イラスト大賞受賞、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「あの佳作、流血の少女はなんとも素晴らしかったです。何と言いますか……死を題材にしていらっしゃるのに美しいといいますか……とても印象に残るものでした。私もファンなんです!」
「えぇ、どうも……」
「あの……もしよろしければ、握手などしてもらえますでしょうか?」
「は、はぁ……どうぞ」
そう言って男は手を差し出しました。
雑誌会社の彼女は万遍の笑みで、男の手を握りました。
「ありがとうございます!私事で申し訳ありません。では早速、先生の仕事場を覗かせていただきます」
「はい……こちらです」
そう言って男は立ち上がり、案内をしました。
「ほう、仕事場は地下にあるんですね」
「はい、そのほうがなにかと便利なので……」
「しかし……なんだか臭いますね……あ、悪い意味ではなく……」
「いえいえ、確かに臭いますよ。絵の具の匂いですから」
「あ、絵の具ですか」
「えぇ……絵の具、ですよ」
なんだか不気味に笑った男はそう答えました。
「……では、仕事場へ案内します」
そうして部屋の扉を開けました。
そして雑誌会社の人は絶句しました。
「うっ……」
まず目に飛び込んできたのは、流血の少女と同じ格好をした少女。
しかし、その瞳に光はなく、もう亡き者となっていました。
さらに、辺りにはたくさんの死骸。
しかもそれらすべてが、作品と極似していました。
「これが《首の無い男性》のモデル。そしてこっちが《死の間近》のモデルになったおばさん。あと《短い命》の幼児もここに……」
男は淡々と解説をしていきます。
しかし、雑誌会社の人は呆然と立ち尽くしていました。
「この人達……あの連続誘拐事件の被害者……」
そう、ここにいるすべての人は、最近話題となっていた誘拐事件の被害者でした。
「……まさか……犯人……」
後ずさりをしました。
しかし、思ったように体が動かず、尻餅をついてしまいました。
その拍子に、近くにあったバケツをひっくり返してしまい、中から大量の赤い液体が流れだして来ました。
「あーあ……せっかくの絵の具が……」
男は雑誌会社の人を睨みました。
「次の作品……まだ決めてないんですよねー……どうしよっかなぁ……」
そう呟きながら一歩ずつ近づいていきます。
「目の無い女性……髑髏を持つ……ローズ……やっぱりその人の絵の具を使いたいよなぁ」
そうしてとうとう目の前まで近づきました。
「……なにがいいですか?」
男は笑いました。
ども、植木鉢です。
いやぁ、かれこれ一ヶ月以上かな、これ書いて。
学校の古典の時間に……こう……ビビっときてから書き始めたのですが……
やっぱり遅い(>_<)
しかも残酷過ぎかも。
苦手な人サーセンwwwww←笑うな!
さて、ちょいと息抜きで書いたものですけど、楽しんで頂ければ幸いです。
ではでは……植木鉢でしたノシ