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怖いお話  作者: 植木鉢
3/6

彼には、とても甘え上手な妹がいます。

普通なら、何と言う神シチュエーション、と喜ぶ人がいるでしょう。

彼もその一人でした。

そして彼は、甘えて来る妹の事が、とても大好きでした。


「お兄ちゃん!ご飯食べよ!」

「お兄ちゃん!お風呂入ろ!」

「お兄ちゃん!一緒に寝よ!」


何をするのにも、彼と妹はずっと一緒でした。


=============


そんなある日、彼と妹は海にいきました。

海水浴シーズンというだけあって、たくさんの人が海に来ていました。

そんな中でも、妹は彼にベッタリでした。


「海だよお兄ちゃん!綺麗だね!」

「そうだな、でもお前……引っ付きすぎだぞ」

「へへへっ、だってお兄ちゃんの事が大好きだもん!」

「ったく、そんなに引っ付くんだったら、くすぐっちゃうぞー!」

「きゃ!きゃはははは!や、やめてよお兄ちゃんー!」


まわりから見ればバカップルですが、彼らは立派な兄妹です。


「それにしても……人多いよね」

「あぁ、そりゃ、夏休みだし、人ぐらいいるよ」

「これじゃあ泳げないよぉ……」

「なら穴場にいくか?景色が綺麗で人気のない所」

「ほんと!?行く行く!」


そう言って二人は手を繋ぎながら、歩いていきました。

もう一度言いますが、彼らは恋人同士ではなく、立派な兄妹です。

決してバカップルではありません。


=============


彼らがやってきたのは、岩場でした。

遊泳所から結構離れた場所で、確かに、人気は全くありませんでした。

そして、景色も絶景でした。


「うわぁ、きれー!」

「な、穴場だろ」

「うん!ここなら人もいないし、いいね!」


そう言って妹は彼に抱き着きました。

もう一度言いますが、彼らは兄妹です。恋人ではありません。


「じゃあ……泳ごうか」

「うん!」


そうして二人は海に入りました。

冷たい水がとても心地好く感じました。


「お兄ちゃんお兄ちゃん!向こうまで競争しない!」

「向こうって?」

「ほら、あの向こうにある島みたいなやつだよ!」


妹が指差した方を見てみると、確かに小さな島らしいものがぽつんと浮かんでいました。


「負けた方が、相手にキスするっていう罰ゲームね。もちろん、唇だよ!よーいドン!」

「あっこら!待てよ!」


いきなり飛び込んだ妹を追いかけながら、彼も海へと飛び込みました。

しつこいようですが、彼らは兄妹です。


=============


そんなこんなで、彼が向こうの小さな島にたどり着きました。

途中で妹を抜かしたので、彼の勝ちです。


「へへっ、どうだ!僕の勝ちだ!」


そう言って彼は海の方を見ました。

しかし……そこに人影はありませんでした。


「……あれ?」


彼はおかしいと思いました。

だって……泳いでいるはずの妹の姿がないのですから。


「…………マジかよ!」


彼は大声で妹の名前を呼びながら辺りを見渡しました。

しかし、妹の姿はどこにもありませんでした。


「くそ!おい、ふざけてないで出てきてくれよ!」


そう言いますが、やはり妹は現れませんでした。


=============


時刻は刻々と過ぎていき、もう夕方になりました。


「……なんで……なんでだよ……」


彼は必死になって探しましたが、結局見つかりませんでした。


「僕が……こんなところに行こうなんて言わなかったら……」


涙ぐみながら、彼はその場に座り込みました。

彼は、何回も海に潜ったり、何回も小さな島と岩場を行き来していました。

もう、疲れていたのでしょう。

そうしていると、不意に声が聞こえて来ました。


「お……兄ちゃ……ん……」


そう、妹の声がしたのです。


「はっ!どこにいるんだ!?お兄ちゃんはここだぞ!」


彼も力の限り、声を張り上げます。


「お兄……ちゃん……」


また声が聞こえました。

その声は、海の方から聞こえました。


「待ってろ!今いくぞ!」


彼は海に飛び込みました。

必死になって泳ぎました。

妹を助けるために。


「お……兄……ちゃん」


声の聞こえる方へ、力尽きるまで泳ぎました。

そして、ついに声が聞こえた所の近くまで来ました。

しかし、妹の姿はありません。


「どこだ!?お兄ちゃんだぞ!」

「お兄ちゃん……」


妹の声が聞こえました。

すぐ近くです。

辺りを見渡すと、水の中でなにかが動いたような気がしました。


「今助けるから……なっ……」


水の中にいたのは、やはり妹でした。

しかし、その姿は……

大量に水を飲んだのか、細い体は水ぶくれしてしまい、口、鼻、ありとあらゆる穴から水を吹き出す姿でした。


「う……うわぁ!」


彼は逃げました。

あんなの……妹じゃない。

あんな可愛くないのは……妹じゃない。

そう信じ、岩場まで必死に泳ぎました。

しかし……


「待ってよ……お兄ちゃん……」


足を捕まれてしまいました。


「はなせっ……はなせよ!」

「お兄ちゃん……私だよ……」

「違う!違う!」


彼は必死にもがきました。

しかし、水の中なので上手く力が出せず、水を飲んでいくだけでした。

すると妹の力が急に強くなりました。


「お兄ちゃん……」

「やっ……ガハッ……やめ……」

「お兄ちゃんと私はずっと一緒……」

「やめろっ!……ゲホッ!やめっ!」

「ねぇお兄ちゃん……一緒に死のう」


その瞬間、彼の姿は海から消えました。

彼が先程までいた場所には、気泡がプクプクと浮かんでいました。




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