幸せのコイン
幸せのコイン、というおまじないがあります。
やり方は簡単です。
まず一枚のコインを用意して、それをアップルパイの中に入れて焼くだけです。
そして、パイを切り分けた時に、中にコインがあった人は幸せになれる、というおまじないです。
それを聞いた四人の子供たちが、そのおまじないをホームパーティーの時にしようと、準備していました。
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「はい、焼けたよ!」
「わぁい、美味しそう!」
「早く食べようぜ!」
「ねぇ、ちゃんとコイン入れた?」
「もちろんよ!切り分けたパイの中に、コインが入っている人は幸せになれるんだよ」
「うん、楽しみだね!」
「そんな事より、早く食べようぜ!」
「もう、そんなに慌てなくても大丈夫だよ。じゃあ、切り分けるよ」
そして、一人の女の子が、パイを四等分に切り分けました。
「みんなある?」
「うん!」
「じゃあ……いただきます」
「いただきまーす!」
目の前に並べられたパイを見て、子供たちは大喜び。嬉しそうにフォークを持ち、パイを口の中へと運んでいきました。
「あまぁい!」
「スゲーうまいぞ、これ!」
「これ、おばさんと一緒に作ったの?」
「ううん、自分一人だよ」
「マジで!?スゲー!」
「それにしても、美味しいよねぇ」
そう言いながら四人は仲良くアップルパイを食べました。
すると……
(ガリッ)
「あっ!」
一人の女の子がそう声をあげました。
「どうしたの?」
「なんか……固い物飲み込んじゃった……」
「それって……コインじゃない?」
「そうだよ、きっとそうだよ」
「やったじゃん、お前、幸せになれるぜ!」
他の三人はその女の子を祝福しました。
しかし、女の子は浮かない顔をして、お腹を摩りました。
「……大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だって、小さなコインだし」
「心配しなくたって、そのうち出てくるって、ケツから」
「もう!やめてよ、下品だよ!」
「へへっ」
そんな会話をして、三人は女の子を励ましてあげました。
女の子も、元気を取り戻したみたいで、笑顔になりました。
「ふぅ、お腹いっぱい」
「ごちそーさん!スゲーうまかったぞ!」
「お粗末様、じゃあ片付けてくるから、ゆっくりしててね」
そしてアップルパイを作った女の子がお皿と切り分けた包丁を持って、部屋から出ていきました。
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「あら……困ったわ……」
キッチンに戻る際に、書斎の前を通るのだが、その書斎の前で母がオロオロとしていました。
「どうしたの、お母さん?」
女の子が聞くと、母は困った顔で女の子を見ました。
「ここにあった書斎の鍵、知らない?」
「鍵?」
母は首を縦に振りました。
まだオロオロとしているようです。
「鍵ならいつも机の上に……」
そう言って女の子は机の上を見ました。
しかし……
「あれ?」
そこにあったのは鍵ではなく、小さなコインでした。
「なんで……ここに……」
そう、そのコインは、アップルパイに入れたはずのコインでした。
「困ったわね……これじゃ、書斎に入れないわ……」
そう言うと母は困った顔をして、その場を離れていきました。
「……どうしよう」
女の子も、困った顔をしました。
だって……パイの中に入れたはずのコインがそこにあり、そこにあったはずの鍵が無いのですから、すぐに推測できるはずです。
そう……女の子はパイの中に間違えて鍵をいれてしまったのです。
それに、その鍵の行き先も、知っているはずです。
「……どうしよう」
女の子は佇んだまま、体をガタガタと震わせました。
鍵はあの子のお腹の中……
「と……取り出さないと……」
そこで、女の子はあるものを見つけました。
それは、先程パイを切り分けた時に使った包丁でした。
女の子は包丁を三秒ほど見つめ、こう呟きました。
「……これだ…………」
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その十分後、机の上には小さなコインと赤く染まった鍵がありました。
これが、「死逢わせ」のコイン、なんてね……