欝電話
深夜零時。
この時間になると、必ず電話がかかってきます。
そして、ある男がその迷惑電話に悩まされていました。
その電話の内容が……
「助けて……」
「殺して……」
「許して……」
こう、一言呟いてから一方的に電話を切るのです。
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(ピリリリリッピリリリリッ)
「……またか」
男が電話を握りしめ、ため息をつきました。
電話の着信を見てみると、《非通知》と表示されていました。
「一応……出るか」
そして男は、電話の通話ボタンを押しました。
「………………助けて」
(プツッツーツーツー)
「……くそ!なんなんだよ!気味悪い!」
そう叫びながら、男は電話を投げ捨てました。
今月に入って、毎日かかってきています。
しかも、決まって深夜零時に。
「……次かかってきたら、文句言ってやる!」
男は深夜だというのに大声を上げて、ベッドに潜り込みました。
そのあと、よく眠れるわけもなく、結局男は朝まで眠れませんでした。
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翌日深夜零時。
いつも通り、電話がかかってきました。
「よし……今度こそ……」
男は文句を言ってやろうと、電話を取った瞬間、怒鳴り散らしました。
「おい!誰だか知らないけど、いい加減にしてくれ!毎回毎回……迷惑なんだよ!」
するといつも一言言って切るだけなのに、今回は何も言いません。
なんだか、異様な雰囲気を醸し出しています。
いつもと違う、そんな感じでした。
「………………やっと……」
男がその雰囲気に圧倒され、体を震わせていると、電話の向こうで、そう声が聞こえ、それに続きクスクスと笑い声が聞こえてきました。
そして、いつもの声ではなく、たくさんの声が電話越しに聞こえてきました。
「もう限界なんだ!誰でもいい!オレを殺してくれ!」
「助けて……助け……て……」
「許して下さい、ゴメンなさい、もう二度としません、ゴメンなさい、ゴメンなさい」
ある声は怒りをぶつけるように、またある声は消えそうなほど小さく、またある声は泣きながらと……とにかくたくさんの声が聞こえてきました。
男は気味悪くなり、すぐに電話を切りました。
しかし……
(ピリリリリッピリリリリッ)
電話の着信音は止むことなく、鳴りつづけました。
時には通話ボタンを押していないのに、声が聞こえてきたりもしました。
「やめてくれ!もうやめてくれ!」
精神的に参ってしまった男は、頭を抱え、その場に倒れました。
着信音は、今だ鳴り止まないままでした。
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そんなある日、男は電話を取りました。
そして、ある所にダイアルを合わせました。
(ピリリリリッピリリリリッ)
「……はい、もしもし」
電話が繋がった瞬間、男はこう言いました。
「………………助けて」
(プツッツーツーツー……)