第八話 因果
俺たちはすぐに家を出て丘に向かった。
外はもうだいぶ暗くなっていたが、ぼんやりとあたりが分かる程度だ。
鉄と今井を先頭に、どんどんと森の中に入っていく。
森の中ではやっぱり、獣の咆哮、飛び立つ鳥の音などが聞こえてくる。
「先輩、なんだか気味悪いです。」
芹澤が柊の腕に抱きつくように、情けない声を漏らす。
「放せ、芹澤、お前二十五だろ!」
「そんなこと言われても〜」
そんなやり取りを聞きながら一同はどんどん進んでいく。
どのくらい行っただろうか、だいぶ日が暮れてきた。
そのとき、森からごそごそと音がした。
どうせまた、カンガルーやワニもどきだろうと思い、鉄と今井は銃を構えた。
でも、しばらくしても音のするほうからは何も出てこない。
「気のせいか」
今井がそういって銃をおろした瞬間、森の中から大きなトカゲみたいな顔が出てきた。
その顔は今井の上半身をしっかり捕らえ、鋭い歯で噛み千切った。
今井の脊柱の見えた下半身は血しぶきを上げ、ゆらゆらと揺れてからその場に倒れる。
顔だけの怪物は今井の上半身を噛み殺し、血を滴らせている。
次の瞬間には頭だけの怪物は、森から姿を現した。
身長約5メートル、二足歩行の巨大なトカゲ。
そう、そこに現れたのは絶滅したはずの恐竜そのものだった。
「そ、そんな・・・・・・・・あれは・・・・・・・」
黒崎が絶句し、顔が白くなっていく。
その間に鉄は、恐竜に銃弾を打ち込む。
怯みはしたものの、まったく聞かないというように一声叫ぶ。
キャィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ
少し、機械音に似た恐竜の遠吠えは全身をすくみ上げた。
「そいつに、銃なんてものは効かない、早く逃げるんだ。」
黒崎はそういって、さっさと行ってしまった。
みんなもそれに続いた。
しかし、後ろからはドスドスと恐竜が追ってくるのが分かった。
もう絶対絶命のピンチ、とりあえず秀たちは走れるだけ走った。
すると秀が見つけた洞窟を見つけた。
「みんな、こっちです。」
そういって秀は先人をきって洞窟に入っていく。
後から、ぞろぞろとほかの人も来た。
「黒崎さん、何か知っていることがあるなら話してください!」
秀は少し怖い目つきで、黒崎を睨みつける。
「わ、分かってる、別に隠してるわけじゃないんだ。」
「それで」
「あ、あれはうちの課が作ったものなんだ。」
すると柊から反論の声が聞こえる。
「貴方、機械課でしょ。あんな生物を・・・・・・まさか」
「そうだよ、あれは我が機械課のリーダー和田慎二の最高傑作、機械のT−Rexだよ。俺たちはTRXと呼んでるけどな。だから銃なんてものは効かない」
一同から嘆くような声が聞こえる。
しかし、秀たちには別に驚く点があった。
「あの、和田さんって・・・・・」
「君たち、和田開発部長をしっているのか?」
「いや、その・・・・・・・クロックタワーにいたとき、一緒にいたんです。」
「それで、和田部長はどうなったんです?」
「え!そ、その・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まさか、そ、そんな、和田部長が」
そういって黒崎は泣き崩れた。
「あの人、すごい和田って人と仲良かったから。」
芹澤が補足をいれる。
なんだか、秀は罪悪感を感じた。
生きるには、人に屍を超えていかなくてはならない。クロックタワーで学んだはずのことなのに、どうしようもなく悲しくなった。




