嘘から出た恋物語
これは電撃リトルリーグの締め切りに間に合わず、応募できなかったものです。
「『疑似彼女』?」
聞きなれない言葉に、思わずリピートしてしまった。
「そう、『疑似彼女』!その名の通り、彼女もどきができるって話だ」
僕の友人はそう言った。
「何でもそれは『疑似告白』から始まって、『疑似カップル』へと発展し、最後の別れとして、種明かしがあるっていう嬉し悲しいドッキリ企画のようなものらしい。4月1日、つまりエイプリルフールに告られたら、4月3日には別れ、つまり種明かしをされ、笑い話にされるっていう寸法らしい。去年のそのぐらいに、アイツ浮かない顔してただろ?それのターゲットにされたっていうウワサだぜ」
言われて、ちょうどそのぐらいの時期に妙にテンションの上がり下がりが激しかったような、かの友人の顔が浮かんだ。
「で、だ。今年のターゲットは、恋愛経験0でトロいお前なんじゃないかっていうウワサが飛び交ってるから、このオレが忠告しに来たってワケよ」
僕はその言葉にムッとした。確かに、彼女いない歴=年齢、告られたことも告ったこともないが――――……
そこまできて、ようやく言い返せないことに気付いた。
「ま、せいぜい気をつけろよ」
と言い放つと、彼は教室へと戻っていった。
そんな光景を今更思い出した。
それは春休みに入る直前に言われたことで、今日4月1日ともなると、ほぼ完璧に頭の隅へと追いやられていたものだ。
なぜ、今そんなことを思い出したのか。
それは、ちょうどそのような光景が目の前に広がっているからである。
入学式の準備ということで駆り出された僕は、準備を終え、家へと帰るつもりでいた。
が、朝、下駄箱に入れられていた手紙に書かれていた内容を思い出し、体育館裏まで来てみたのだ。
まあ、ベタ中のベタとでも言える展開だが、なぜか僕は今、彼女に告白をされているらしい。
あんなことを言われた矢先のこれだから、普通なら疑って当然なのだろうが……
残念ながら、僕は普通ではなかった。
なにせ、生まれて初めての経験なのだ。これが落ち着かずにいられようか。
否。少なくとも僕には無理だ。
それに、今僕の中で一番気になっている女子の、主観が入るが、超可愛い彼女が小さく体を震わせて、この僕に交際の要求をしているのだ。
断る必要など、どこにあろうか。
うなずいた後、彼女に抱き着かれた僕の頭の中からは、『疑似彼女』などという言葉はきれいさっぱりなくなっていた。
しくじった。
その瞬間、私はそう思った。
そもそも先輩がこんなことを言い出さなければ……
どこからか湧き上がる感情とは別で、私はそんなことを考えていた。
「『疑似彼女』?」
聞きなれない単語に戸惑いを覚え、思わずリピートする。
「そう、『疑似彼女』!その名の通り、彼女もどきになるっていう話よ」
先輩はそう言った。
「何でも、この学校の演劇部に伝わる由緒正しきイベントらしいの。エイプリルフールだから、ドッキリ企画を!ってことでね。去年は確か……美羽がやってたかな」
言われて、ちょうどそのぐらいの時期に妙に笑っていたような先輩の顔が浮かんだ。
「で、今年はあなたに……」
とまあ、そんな感じで、演劇部としての魂に点火され、いいように言いくるめられた私は、今こんなことになっている。
この頃、彼もまた同じような話を聞いていたことを知った時には驚いた。
「はてさて、あの子はうまくやっちゃってますかね?」
草むらから彼らを覗く怪しい影。
「何、マジでアイツあんな目にあっちゃってるの?」
同じく、こちらも。二つの影の正体は、仕組み屋とからかい役である。
「わぁお、あの子も大胆なことするねー」
かの先輩は、自分でそう言っておいたくせに、それをニヤニヤと見ていた。
「あれ、顔赤くなってる?ウソ、アイツマジで告られたのか!?」
告げ役は彼女が頬を染めていることに気付いたらしく、勢い余って立ち上がる。
「あ、バカ!」
止めようとするも、時既に遅し。ターゲット達に見つかり、逃げられたのは仕方ないことだろう。
が、その時につながれていた手が自然に見えたのは、恋のキューピッドとしては収穫かもしれない。
そんなことを思いつつ、「怪しい影」兼「仕組み屋」であり、かの先輩である私はポケットにそっとカメラを戻した。
それから、『疑似彼女』のウワサは、「4月1日、エイプリルフールに告白すると、“嘘が真実になるように”叶う」という恋のジンクスとなり、また新たなカップルを生むことになるのだが、それはまた別のお話。