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無垢なる物

フランスのル・ブルジェ空港から俺達は依頼人の手配した便に乗って向かう土地…それは日本だった。

フランスと違いこの地へ来たことはなかった。

…依頼人と話していたら久々にあの人のことを思い出した。

あれは確かまだ俺に名前の無いころの話だったはずだ。


「…ソラ?どうしたのボッーとしたままで」


「ん?あぁ…ちょっと昔のことを思い出していただけだ」

施設から出た僕達は半年ほどあちこちを転々として動いていた。

始めて見る外の世界、それは歳も間もない子供二人が生きていくには本当に厳しい世界だった。


「…ん」


隣で眠るエリスの寝返りをうつ。

こうしてみると本当に人形のようにしか見えない。


「僕は…僕達はどこへ向かうとしてるんだろう…」


まるで、この世界から僕とエリスのたった二人だけを残して

死んでしまったかのような静けさの中僕の声が拡散して消えていく。

施設での出来事から早半年…たった半年だったけど僕は初めて世界の大きさを知った。

そして、僕がどんな状況に置かれていたのかということも…



ギィィッと古びたドアの開く音と共に人がこちらに近づいてくる音と気配がする。

足音だけでもう誰かまで判断はできるが僕は腕に隠し持ったナイフの柄へ手を伸ばす。

もはやこの動作は半年間の習慣とでもいうべきなのだろうか。

夜間の襲撃は半年間に何度も会った。

襲撃者の目的が何だったのかは分からないが全てエリスを血走ったような目で見ていたことから

どうせどこかの金持ちに売りつけたりするような不埒な人間だろう。

だから僕はエリスが起きないように部屋に入り込んだそんな奴らを処理した。

所詮は頭に血の上った大人は冷静な判断能力が無いから仮想空間上の敵よりもその処理はとっても楽だった。

一対一の本気の格闘戦闘はリーチの差と力で負けるかもしれない。

だけど布や薬や刃物…目の前にあるものは全てが僕の武器だったから野生の動物を捕まえるより簡単だ。


「どうしたの?眠れないのか?」


渋い大人の男性の声が部屋に静かに響く。


「なんでもないです…マスター」


彼の名前は…知らない。

ただ周りの大人達は彼のことを親しみと尊敬を籠めた感じでマスターと呼んでいる。

彼については僕もまだ知らないことが多い。

でも、生まれてから今までで僕を恐れるような視線を浴びせたり道具のような視線をぶつけたりする様な事は無かった。

始めてあった時、面識も無いのに僕達を黙って保護してくれた。


「そうか…渡したいものがあるから来てくれないか?ひとまずその手のナイフをしまってからな」


僕の感が正しければこの人は僕と同じような環境に生きていたのだろうと思う。

マスターの手にある銃ダコや歩き方からすぐ分かる。

それに布団で隠れて見えない位置に隠していたナイフまで見抜かれこともだ。


「分かりましたマスター」


僕は隠し持っていたナイフの柄をゆっくり離しエリスを起こさないように布団から抜け出しマスターの後ろをついていった。

マスターがついて来た先は僕も入ったことが無いマスターの自室だった。


「まずはお前にこれが何か分かるか?」


そういってマスターは机の中から取り出した小さな箱を僕に手渡した。

僕はそっと箱を開けるとそこに入っていたのは大人なら手に収まるぐらいの小さな銃だった。


「…これは、コンシールドガン…1962年からレミントンで販売されたハイスタンダード・デリンジャーですか?」


仮想現実での戦闘訓練で人差し指で銃身を支えて中指でトリガーを引こうするが

トリガーが思うように引けず苦労したのを覚えている。


「さすがに分かるか…」


「そいつはお前にやるぞ、私は使わない代物だからな」


マスターの突然の銃をやるの発言に僕は驚いた。

しかし驚く僕を無視してマスターはさらに言葉を続ける。


「ただし自分の力だけでは彼女を守れないと判断したときだけ使え」


「貴方を撃つかもしれませんよ?」


僕は殺気を籠めた視線でマスターを見るが…


「そのときはそのときだ」


マスターはそんな視線を気にせず間髪いれず返答した。


「マスター…貴方は何者なんですか?」


僕の呟くような声にマスターはいつもの態度でこう答える。


「なぁに、少々昔にSASやグリーンベレーでただの教官をやっていた人の子だ」

俺は袖口にゆっくりと手を伸ばしそのグリップを握る。

…あの時マスターからデリンジャーはまだ使うことも無くここにある。

今回もこのデリンジャーを使う場面が無いことを祈る。

そんな思い出に浸る俺とエリスを乗せ飛行機は日本へと向かっている。

マスターにネタを仕込ませてもらったのは秘密です…

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