猛獣が檻を抜けた後
彼女との出会いから早…さて何年の月日が流れたのだろうか。
俺はまだこの手から銃を放すことができない。
そして俺のやってることも変わることはない。
「こちらFBOC.01目標地点に到達、対象はまだ来ていない」
俺は耳につけた無線機にそっと状況を知らせる。
『…了解、FOBC.01はその場で待機、状況が変わってもすぐ動けるように』
無線機越しに聞こえる冷静なオペレーターの声…
しゃがんだ状態でバイポッドを立てたライフルを何分構えたままの状態を維持しただろうか…
その瞬間は唐突に訪れた。
「…対象を確認」
『…了解、対象へ狙撃を』
俺は小型無線をミュートに切り替えるとライフルに取り付けられたスコープの照準を鐘へ向ける。
人差し指をトリガーガードからトリガーへ移動させて指をかける。
対象と自分しかいないかのような時間の中―俺はトリガーを引き絞り発砲した。
サプレッサーを装着したライフルの乾いた音と共に発射された弾丸は対象へ予定通り命中し
周囲に車のスピンした甲高い音が周囲に響き渡る。
研究施設にいた頃は大の苦手であった狙撃は年を重ねるごとにその精度を上げていった。
いくら歳を重ねてもできるようになったことはこんなことばかりしかない…。
そんな自嘲を胸に仕舞い俺は耳にかけた小型無線のマイクのミュートを解除する。
「対象の狙撃は予定通り終了」
『…後の片付けは彼らに任せて」
「了解、飛行機の手配は?」
『…大丈夫、もう手配してあるわ』
いつものことながら仕事の早いことだ。
「任務完了か…」
『…まだ、終わってないわ』
「…?」
『…貴方が無事に戻ってくるまでがミッション』
そんなオペレーター…いや、エリスの話に耳を傾けながら今回の狙撃に使ったライフルをその場に残し俺は静かに闇に抱かれた街へ足を進める。
たった一人の繋がりともいえる彼女の元へ。