格納庫での一幕
目の前に広がるのは二機の鉄の巨人の姿。
これは…
「モデルフレームか」
「えぇ、その通りですソラさん」
俺は、フローレン家は護衛のためにモデルフレームまで用意していたのかという驚きを隠せない。
その姿を見て彼女にクスリと笑われてしまった。
どうやら彼女にしてやられてしまったようだ。
「純粋に驚いたとしか言えないな」
「本来は私の一機の予定だったのですが本国から予備でもう一機送られたときは私も驚きましたよ…」
モデルフレーム…
本来、作業用としてフローレン家が経営する会社が開発した俗にいう巨大ロボットである。
作業用として開発されたモデルフレームだったが戦争が始まってその評価は激しく変化した。
始まりは現地で改修されたモデルフレームが戦場で大きな戦果上げたことらしい。
戦果に味を占めた当時の軍はモデルフレームの軍事利用を決定し作業用のモデルフレームは軍事用として生まれ変わることになり正規品ではない第二世代フレームの誕生した。
このことから現場ではver.1.5などという愛称で呼ばれていたらしい。
軍で急遽改修された第二世代フレームは、第一世代の欠点だった部品露出の劣化は装甲で覆うことで軽減されたが排熱が悪く連続稼働時間が短いという欠点があった。
そのため現場で改修した第二世代フレームモデルを繋ぎに新型軍事フレームモデルの開発を依頼し完成したのが今世界で最も運用されている第三世代フレームだ。
動力を新型に切り替えたことにより活動時間の延長と内部フレームを再設計したため露出劣化はなくなりパイロットの安全性も格段に上昇した。
以上のことから第一、第二世代のフレームと比べ性能はその比ではない。
なにより宇宙空間でも戦闘も可能な戦場を選ばないフレームだ。
欠点といえば第一、第二世代フレームとの互換性が無いことと規格外の荷重に弱いことぐらいか…
「こちらの白をベースとした機体名はエンゲージ、私の機体です」
彼女が指をさした方向には白をベースにピンクのラインがアクセントの美術品のような機体がある。
装飾という装飾はフローレン家の紋章が盾に入っていること以外は特に何もないが、
それが逆に美しさを強調しているのかもしれない。
なぜ婚約の名を持っているかは知らないがひとまずその疑問は胸に仕舞っておく。
「フレームの形を見るとこれは…第四世代フレームかイリス?」
俺のそんな質問に彼女は驚きの反応を示した。
「よく見ただけで分かりましたね…その通りですよソラさん」
「昔VRで乗せられたことがあるな」
「VR…というと仮想現実での訓練ですか?」
「あぁ」
「なんだか益々ソラさんのことが分からなくなりそうです…」
彼女は、思案した顔で続けて話を続ける。
「VRといえば軍が過去に運用していましたが現在では運用が凍結される訓練のはずですが…」
「現実と仮想現実の違いからPTSDになる人間が出るからだったな」
訓練の戦場と現実は別物だ。
現実の戦場で溜まるストレスや感情までは仮想現実で感じることはできない。
「えぇ、そうですが…」
「なら、俺は貴重な成功例とでもいうのかな?」
「貴重な成功例ですか…とりあえずこれ以上は詮索はしませんからご安心を」
まぁ、流石に正体を明かしても問題はないが詮索してこないならそれでいいか。
「なら第四世代の解説は必要ありませんか?」
「ここ数年でフレーム内部の構造が変わってなければの話だけどな」
「では、念のために解説をさせていただきます」
そういって彼女はどこからともなくホワイトボードを取り出す。
どこから取り出したのかは知らないがまぁ、メイドだからしょうがない。
「第三世代フレームとの主な違いはシステム面とフレームの稼動箇所が増えたことですね」
「初期評価はよく動く運用が面倒な第三世代だったな」
「初期の第四世代は確かにその通りです」
「ですが現在では、システム面の強化することで高性能になっています」
「では、初期型との大きな違いを簡単に説明させていただきますね」
「初期型と違いコックピットに搭乗者のイメージを搭乗者のナノマシンを使い機体にフィードバックさせるシステムが搭載されています」
「これによりフレームの性能と操作性を向上させることに成功したわけです」
そう言って彼女は、ホワイトボードに絵を書いて説明しているが彼女なりの精一杯なのだろうが絵心がないというレベルではない。
それこそ幼児の書いている絵のように何を書いているのかがまったく理解できない。
「なるほど…つまり繊細な操作にはセンスを伴うのか」
「センスというよりも搭乗者の高い練度を必要としますね」
完全に上級者向けの初期型と違い初心者には向かない中級者から上級者向けの仕様のようだ。
「ですが初期型よりも操作性は格段に上昇してます」
「ソラさんは初期型を操縦したということはあの複雑な操作をしたんですね…」
「あれは複雑を通り越して操作が意味不明で操作性が悪すぎる、感覚での操作でしか当てにならん」
「それについては同意させていただきます…」
どうやら彼女もあの初期型第四世代を操縦した口のようだ。
初期型は繊細な操作が必要なあまり操縦方法が複雑で結局世間ではほとんど普及しなかったと俺はマスターから聞いた。
「それで、そっちの銀色の機体は?あれは第四世代に見えないんだが」
「そちらの機体は第五世代フレームですね」
「第五世代フレームか…」
第四世代フレームの背部に巨大な武装ラックなどがついてることからなんとなくそんな予感はしていたが…。
第五世代フレーム…第四世代をベースに特殊装備の運用のため開発されたフレームだったはずだ。
特殊兵装使用時の燃費や運用が悪く戦場では信頼が薄いため一部を除き運用されず実験機の域を抜け出せないと聞いたことがある。
「第五世代フレーム、機体名シルバーミラージュそれが名前です」
「日本語で銀の蜃気楼か、光学迷彩でも装備してるのか?」
「いえ、さすがにその装備は搭載していないですね…」
確かに光学迷彩を装備した機体もあるにはあるらしいが、なんでも運用にはとても難しいらしい。
マスターがまだ軍属だった頃に運用経験があると言っていたが光学迷彩使用時の静粛性が皆無らしい。
そのことからギリースーツでも付けた方がマシとボヤいていた。
「代わりにH.A.L.O.システムという新システム、自立攻撃支援ユニット、対艦装備、対フィールド用装備などを搭載しています」
「なんだその開発者の趣味に走った重装備の山は…」
俺の正直な声にイリスは同感のようで苦笑しつつ答える。
「コンセプトは一機当千らしいですが、正直なところ私もどうかと思ってます」
そもそも従来機はそんな重装備をしている機体はいない。
近接戦闘時にデットウェイトとなるからだ。
「とりあえず説明させていただきますね」
「この機体は、第五世代フレームに改良を加えた複座機モデルとなっています」
「外見上の特徴としては機体各所に搭載されたコンデンサーと背部の武装ラックですね」
「新たに搭載された改良型コンデンサーの恩恵で機体の静粛性、及びその出力、稼働時間は他のモデルの追従を許しません」
「また外殻に依存していた今までのフレームと違い装甲と内部構造を完全に分離して開発されています」
「このことから外装の損傷しても稼動不良に陥る可能性が低いため長時間の戦闘運用も可能です」
「背部に搭載した武装ラックに装備されている武装の恩恵から全距離を一機で対応できますが操作性が…」
彼女は目線をゆっくりと機体へ逸らしていく。
「そのために複座機ということか…」
「なんといえばいいのか…そういうことになりますね」
複座機…まぁ、言いたいことは分かるんだが。
「つまり、これに乗れということか」
「万が一の時は本国からの使用許可が出ています」
「…あんまり乗る気がしないな」
「お気持ちは察します」
―彼女の同情の視線が心に染みた格納庫の一幕だった。
イリス先生による授業のお話でした。
今回は物語の世界背景とフローレン家のフラグの回収がメインの話なので
話は進みません!展開を期待した方には正直すまないと思っている。